第61話、ブルーとのお出掛けと問題発生

 「さっさと出ろ」「あと5分!」の押し問答を数回繰り返し、最終的に改良版ドラゴン温卓をボッシュートされた。

 ああっ!俺の快適な温卓ライフが……!


 うぅ……夢の住人となっていたウィルも目を覚ましちゃったし……おのれルファウスめ。

 どこにいるか分からないので虚空を睨んでおく。ウィルが目を覚ましたのとほぼ同時に姿を消したのだ。


「ん……」


「起きたかウィル」


「フィード……ここは」


「俺が世話になってる人の家。少しの間寝てたんだよ」


「すみません、人様の家でぐうすか寝てしまって……」


「大丈夫だ。俺も夢心地だったから」


 全てはあんな魔性の魔道具を作り出した俺自身と作るよう頼んできたルファウスが原因。半分は自業自得だ。ウィルが謝る必要なんてどこにもない。


「しかし……凄いですね。最初はぬるいと感じていたのに、じんわりと温かくなって抜け出せず、終いには夢の中。癖になりそうです」


 しみじみと語るウィル。ドラゴン温卓が置いてあった場所を物欲しそうな目で見ていたのであとでプレゼントしよう。


「まだ時間余ってるし、これから改良版ドラゴン温卓の登録しに行くか」


「あ、俺も行きたいです。商業ギルド入ったことなくて、少し気になってたんですよ」


 という訳でウィルと一緒に商業ギルドへ行くことに。


 ウィルの目を盗んでルファウスに現物を返してもらう。登録時に必要だからな。


 二人で雑談混じりに歩いていると、玄関先にブルーがぽよんぽよんと跳ねながら待ち構えていた。


「ブルー。仕事の手伝いは終わったのか?」


 ご機嫌にぽよんっと高く跳ぶ。終わったっぽい。


「確か、フィードがこの街に来たときに一緒にいたスライムですよね?」


 いつもと変わらずお利口さんにしてるブルーを撫で撫でして甘やかしていると、ウィルが問いかけてきた。

 そうだと肯定してブルーをじっと眺める。


 最近、ノンバード族だからと差別する人はかなり減ってきた。

 ゼロではないので未だに色々言ってきたり嫌な視線を向けられたりすることはあるが、前ほど目につかなくなった。

 むしろ何故か怯えられたり面白いものを見る目で見られたりすることの方が多くなってきたような……嫌な感じはしないからいいんだけど。


 そんな訳で、そろそろ良い頃合いだろう。


「ブルー。一緒に行くか?」


 玄関先を指差して問いかける。


 驚いて数秒固まっていたブルーだが、直ぐ様俺に飛び付いてきた。全身プルプルさせて大喜びしている。


 こうして、俺とウィルとブルーの三人……一人と二匹?で商業ギルドに向かった。



 ぽよよんっぽよよんっ


 めっちゃご機嫌に跳ねて移動するブルー。

 よほど外に出られたのが嬉しいらしい。


「可愛らしいスライムですね」


「ああ。感情豊かで分かりやすい。拐われないようにしないと」


「そんな心配はないと思いますが……」


 うん?なんで不思議そうな顔をしてるんだろう?


 ああ、そうか。わざわざスライムを拐う物好きはいないってことだな。


 ウィルの表情を勝手にそう解釈する。

 それが間違いだったと気付いたのは割りとすぐのこと。


 商業ギルドに入り、真っ直ぐ商品登録の窓口に足を向ける。


「こんにちはフィード様。今回はどのような商品を登録しに来たのですか?」


 前回温熱魔導クッション等を登録したときに担当してくれた受付嬢で、カウンターに飛び乗った俺と目が合うなりにこやかに話しかけてくれた。

 しかし俺の背後からぬっとウィルが現れるとびくっと肩を揺らして恐怖の宿る目を泳がせた。


「えーと、友人です」


 誤解のないよう俺の知り合いだと明かしておく。


「え、あ、そうでしたか!失礼しました」


「お気になさらず。いつものことですから」


 ウィル。

 耳と尻尾をしょんぼり垂らして言われても説得力ないぞ。


 気を取り直して改良版ドラゴン温卓の登録手続きを行う。


「……フィード様、すでに登録してあるドラゴン温卓もそのまま残して下さいませんか?」


「それは構いませんけど、どうしてですか?」


「こちらの魔道具は貴族向けですよね?プライベート空間ならばこちらの改良版を使われるでしょうけど、他家との晩餐会などでは改良前のものを使われると思います。その、見た目が少しアレなので……」


 改良前のは登録を取り消すつもりだったのだが、そう言われたら取り消せないな。

 改良前はそのままで改良版を新たに登録することにした。


 登録手続きを済ませている間に俺と同じくカウンターに飛び乗ったブルーが物珍しそうにあっちへプルプルこっちへプルプル移動してはカウンターから落ちそうになって、それをウィルが支えてあげている。


 ちょうどカウンターの奥で書類の手続きを済ませた受付嬢が戻ってきて、ウィルが落ちないようにと抱っこしているブルーをちらっと見た。


「手続きは以上です。登録ありがとうございました。……可愛いスライムですね。お兄さんの従魔ですか?」


「いえ、フィードの従魔です」


 二人の会話の中に聞き覚えのない単語が。

 しかもなんか知らんけど俺が当事者っぽい?


 なんのこと?と頭上に疑問符を浮かべるブルー。俺も疑問符を浮かべつつウィルを見やった。


「従魔……ってなんだ?」


 そう問いかければ一瞬嫌な静けさが俺達の間に流れた。


 ぴきりと笑顔が固まった受付嬢とたらりと冷や汗を流すウィル。

 状況が分かっておらず首を捻る俺とブルー。


「ま、まさかとは思いますが……フィード様、そのスライムとは従魔契約していないんですか?」


「その従魔契約ってなんです?今初めて知ったんですが」


 受付嬢が声を震わせながら問いかけてくるが、そもそも従魔契約がなんなのかが分からないから答えようがない。


「従魔契約とは、魔物を使役するための契約です。詳しいことは冒険者ギルドで聞きましょう。今は一刻も早く従魔契約を済ませないと……」


「え?ちょ、ウィル?」


 いつになく強引に冒険者ギルドへ連行される。

 俺とブルーはウィルの腕の中だ。


 魔物を使役するなんて初めて聞いたな。魔物との契約だってのは分かったけど、なんで急ぐ必要が?あと従魔契約ってのは冒険者ギルドでやるものなのか?


 様々な疑問が脳裏を過る中、急ぎ足のウィルが放った言葉に頭が真っ白になった。


「従魔契約をしておらず、檻にも入れてない魔物を街中に入れるのは犯罪なんですよ」


 なんだって!?



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