第50話、初めての友人

 商業ギルドで一仕事終え、再び素材採取に行く日常を送る俺。


 とりあえず、魔道具販売に関してはグレイルさんと相談しながらやっていくつもりなので、グレイルさんが帰ってくるまでは今まで通り素材採取と魔道具制作に勤しむことにした。

 いきなり多くの種類の魔道具を作っても販売するときに苦労するのでそこは自重して、ギルドに登録住みの魔道具のみ制作している。


 グレイルさんの部下の面々に披露した際、絶対に売れる!と太鼓判を押され、現在魔道具職人を急いで募集しているところ。

 気が早すぎないか?と思うことなかれ。

 売れるとなったら当然量産体制を作らねばならない。しかし複数の魔石を使った魔道具を作れるのは俺だけ。そうなると売れた場合、登録してる魔道具の制作に追われる可能性もある。


 俺は職人ではない。研究者だ。

 俺一人でも量産できるし、グレイルさんにもそのように言ったが、同じ物を沢山作るよりも新たな性能の魔道具を作り続ける方がずっと楽しいからな。

 手っ取り早く職人を捕まえて技術を叩き込むという訳だ。

 そんな小難しいことなんてないからすぐ覚えられるだろう。


 商業ギルドにて他の商人とも顔繋ぎしといたので販売の目処が立ったらそちらにも一報しないと。

 あ、そうだ。商業ギルドはちょいちょい顔出しておこう。

 商人には顔を覚えておいてもらった方が何かと都合がいい。



 セレーナが襲ってくる気配もなく、平和に街中をトコトコ歩く。

 目敏く俺を見つけて眉を顰める人も当たり前のようにいるが、それが全てではない。ちらっと俺を見てもスルーする人や俺に心当たりがありそうな目で見てくる人などもちらほらと。


 最近周囲の人々から嫌な視線を向けられる頻度も減ってきた。

 度々セレーナと街中でドンパチしてるからかな?なんにせよ、差別意識が薄れるのはいいことだ。

 もう少し改善されたら念願のブルーとの外出もいいかもな。


「奇遇ですね、フィードさん」


 今日は火山と森どっちに行こうかなーとぼんやり考えているところで声をかけられた。


「今日は非番ですか、ウィルさん」


 レアポーク領方面の門番である黒豹の獣人ことウィルさんだった。

 見慣れた鎧姿ではなく私服を着ていてなんだか新鮮だ。


 俺の確信めいた問いにこくりと頷き、表情筋が仕事を丸投げした顔でじっと見下ろすウィルさん。

 そこそこ背の高い成人男性が無表情で掌サイズのヒヨコを見下ろしてる光景は見る人によっては子供を睨んでるように見えるだろうが、断じて違う。


 これはあれだ、いつも仕事中にしか会わない人に予想外に遭遇して喜んでる顔だ。端から見たら全然そうは見えないが。

 こう、雰囲気がな。ぱぁぁっと花が飛んでるんだよ。背後に。


「せっかく会えたんですし、どうですか?一緒に食事でも」


 ほら、声色がどこか弾んでるし、休日に俺に会えたことが余程嬉しかったらしい。黒豹の耳がぴくぴくしてる。尻尾が喜びを表してフリフリしてる。表情と中身のギャップが凄い。


 今は昼に差し掛かる少し前の時間帯。

 午前中は魔道具作りに励み、ちょうどこれから素材採取しにいくところだったのだ。

 面倒だから収納魔法にある母の料理を片手間に食べながら素材採取しようと思った矢先のお誘いである。

 断る理由もないので乗った。


 ウィルさんオススメの店に向かい、混み始めた店内に滑り込みセーフで席を確保し、水を運んできた店員にさくっと注文。


「えっと……じゃあこの、レッドベアの香草焼きで」


「ベリー乗せパンケーキとフルーツたっぷりパフェをお願いします」


 新発見。ウィルさんは甘党だった。

 表情と性格と味覚がちぐはぐでちょっと笑える。


 常に無表情で怖い印象だけど優しくフレンドリーな性格で頼れる兄貴分みたいな存在感を醸し出す人が甘党。ギャップが凄いどころか、最早カオスでは?


 注文を聞いた店員がかしこまりましたと言って去った後、ウィルさんがこちらを気遣う目で口を開いた。


「……大丈夫ですか?ここの店員は多少マシとはいえ……」


 気付かれぬように周りに視線をやるウィルさん。その視線はどこか鋭い。

 他の客が俺に不快な視線を送っていることに苛立っているようだ。


 思わずふっと表情を和らげた。


「周りの目なんてどうでもいいです。それよりウィルさんこそ良いんですか?俺と一緒にいるとウィルさんまでとばっちり食らいますよ?」


「俺も周りの目は気にしません。そもそもそれが嫌ならフィードさんに声かけたりしませんよ」


 存外、嬉しいもんだな。こうして他人から心配されるのは。


 家族に対するものでも、仕事仲間に対するそれでもない。かといって子供だからと心配するのとも違う。

 こうやって対等に接してくれる他人なんて初めてで、内心少しくすぐったい。


「すみません。誰かとこうして食事に行くのは初めてで舞い上がってしまって、配慮が足りなかったですね」


 声が落ち込んでいる。耳と尻尾がしょんぼりしている。しかし表情には一切出ない。もう慣れた。


「じゃあ次は個室の店にしましょうか」


 弾けるように俺を凝視するウィルさん。俺の言葉にびっくりした様子。


「……また、一緒に食事してもいいのですか?」


「嫌ですか?」


「いえ全くこれっぽっちも」


 首が千切れないかと心配になるくらいブンブン頭を横に振って食い気味に否定された。

 良かった。断られたらどうしようかと思った。


「これからは友人として仲良くしてほしいです」


 はにかみながら言ってみたら数秒石化したウィルさん。

 全く反応がないから、流石に踏み込みすぎたかとちょっと落ち込みはじめたとき、ウィルさんががっしと俺の小さなヒヨコの手を掴んだ。


 表情は変わらず、しかし雰囲気は満開の花が咲き誇り、星屑がキラキラと辺りを包み込んで、これでもかと瞳を輝かせているウィルさんがそこにいた。


「是非、仲良くさせて下さい」


 こうして、前世を通して初の友人をゲットした。


 研究に没頭して他を疎かにしがちだった俺だが、別にぼっちを極めていたわけではない。

 気付いたら魔法と剣術の師匠のもとで修行してたし、気付いたら部下ができていた。仕事上で付き合いのある人も多くいた。


 しかし、悲しいことに友人はいなかった。

 誰もが俺から一歩引いていて、とてもじゃないが友好関係を築ける間柄にはなれそうになかったのだ。


 ボールは弟子だし、セレーナは友人というよりたまの遊び相手って感覚だ。喧嘩相手とも言う。

 そんな訳で、ウィルさんが初めてなのだ。


 聞くところによるとウィルさんも友人がいなかったらしい。

 初対面で怖がられるのが常で、自分から話しかけようものなら不審者を見る目で見られたり最悪逃げられたり……

 不憫だ。物凄く不憫だ。本人は親切心で声かけてるだけなのに不審者扱いされるとか可哀想すぎる。


 幸い門番になってから不審者扱いはされなくなったが、それでも怖がられるのは日常とのこと。

 うん、まずは表情筋に仕事させような?


 運ばれてきた食事に舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせた俺達はたまにこうして食事に行くことを約束した。


「ではまた会いましょう、フィード」


「ああ、じゃあなウィル」


 素材採取と魔道具制作のみに心血を注いでいた俺の日常が少しだけ変わった日だった。


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