第47話、商業ギルドへ
グレイルさんがウルティア領へ行ったその日のうちに俺は商業ギルドに足を運んだ。
商業ランクと商品を登録するためだ。
商業ランクは冒険者ランクと同じくFから始まり、一番上がSランク。一般的にはD~Cが多い。
Bは探せばそれなりにいる、Aともなると稀、Sは見たことないがこの世界で片手で数える程度。
まだ商会設立の条件を満たしておらず、委託販売のみなのでランクが上がることはないだろう。
ちなみにランクが上がる条件は、売上、登録した商品の数や質、店頭販売してる店は接客態度も含まれてたんだったか。他にも色々あるが、主にその3つだ。
ただ稼げばいいってもんじゃない。商品の質や商売に携わる者の人柄などもランクアップに考慮される。
いくら売上が良くても、商品の質が良くなかったり接客態度が最悪だと商業ギルドに悪い影響が出るからな。
冒険者ランクは下がったりしないが、あまりにお粗末な店だと商業ランクが下がる可能性もある。
ランク落ちは商売人として最も毛嫌いされる不名誉なので、ランク落ちした人は必然的に信用を失い、商売を続けるのが極めて困難な状況に陥る。まぁ、それが理解できてるからランク落ちだけはしないように商人達は躍起になっているのだが。
「フィード~!あっそぼーにゃ~」
商業ギルドへ行く道中、突如現れたセレーナの軽快なノリで繰り出された目にも留まらぬ速さの突きを寸でのところで回避。
セレーナの急襲は最近慣れてきつつある。
毎回外出する度にではなく、気まぐれに遊び相手にちょっかいかけてる感じだ。猫らしく気分屋である。
相変わらずどうやって俺の居場所を特定してるのか謎だけど。
「前にも言ったにゃ、ただの勘にゃ~」
やっぱり勘か……
日常の一部と化したセレーナとの遊びも終え、改めて商業ギルドへ。
「ふわぁ~、初めて来たにゃ~!冒険者ギルドと同じくらいおっきいにゃ~」
暇だからと俺についてきたセレーナが到着した商業ギルドの前で感嘆の声を洩らす。
「俺も初めて来たな。ところで、今日は罰則受けてないのか?」
毎回懲りずに戦闘の最中建物をぶち壊しては罰則を受けてる彼女が暇とは珍しい。
「あとで受けるから問題ないにゃ~」
セレーナ。それ、暇とは言わない。
罰則から逃げてるらしいセレーナを厳しい目で見つつ中に入る。
中は清潔感に溢れており、多数の商人が行き交っていた。
受付がいくつも並び、売上報告部、商品開発部、商品登録部などそれぞれ窓口が分かれている。奥には商談スペースもあり、全体的に広々とした空間だ。
まずは何をするにもランク登録が必須。
なのでランク登録の受付に向かう。
「おやおや、身の程を弁えない鼠が一匹いますねぇ」
どこからか聞こえてきた隠しもしない侮蔑の発言にため息をひとつ。
実力主義な冒険者ギルドと違って武力で絡んでくることはないが、その分よく口が回る。
ちらりと周囲を見てみれば、愛想笑いを顔に張り付けて情報交換や商談に花を咲かせていた商人達は俺を見てひそひそし始めている。
アネスタで暮らしはじめて早数ヶ月。こういう嫌な視線にもすっかり慣れた。慣れても良い気分にはならないが。
セレーナと二人、我関せずな態度で真っ直ぐ受付に足を運んだ。
「すみません。ランクの登録したいんですけど」
「はい、ランク登録ですね……え?」
書類を捌いている手を止めて顔を上げる受付嬢。目線の高さを合わせるためにカウンターの上に飛び乗った俺を視界に入れて笑顔が固まった。
数秒そのまま固まっていた受付嬢だがやがて困ったように眉尻を下げた。
「えーっと……坊や、ここは子供の遊び場じゃないのよ?お家に帰ろうね」
まぁ、見た目も実年齢も子供だしな。あちらさんは間違った対応はしていない。
「いえ、遊びに来たんじゃないです。正真正銘ランクの登録に来ました」
「もしかして、田舎領地から来たのかしら?ステータスカードの登録は冒険者ギルドよ。ここは商業ギルドだから違うわ」
「ステータスカードならもうあります。商業ギルドのランクと商品の登録に来ました」
幸いにもこの受付嬢は差別意識がそこまでないようで、子供扱いではあるが普通に対応してくれた。
子供の俺が商売しようとしてることに困惑顔の受付嬢。
「え、えーと……」
どうしたらいいんだろう。商業ランク登録に年齢制限はないけど、さすがにこんな子供を登録する訳にはいかないわよね……と顔にありありと書いてある。
「俺、転生者なんです。前世では商売もしてたので」
素直に転生者であることを打ち明ける。
研究三昧な日々を送っていた俺だが、新しくできた魔道具を自分で売り込んで稼いだりもしてたので最低限の商売のイロハくらいは頭に叩きこんである。
転生者だと言っても渋る受付嬢。
ステータスカードを見せれば賢者の称号効果ですんなり事が運ぶだろうとは思っている。だがそれでは意味がない。
俺はノンバード族の差別をなくしたいんだ。賢者の称号で無理矢理押し通しても、俺個人のみ態度が軟化するだけで他のノンバード族には風当たりが冷たいままだ。
ステータスカードを見せるのはあとにして、まずは俺自身の力を認めさせる。俺の、ひいてはノンバード族の真価を見せつける。
賢者の称号に頼る気は更々ない。
冒険者ギルドのギルマスと辺境伯から問題は起こしてくれるなと念を押されてるので、毎回そういう訳にもいかないけどな。
そこはまぁ臨機応変にやっていこう。ステータスカード見せなくても大丈夫そうなら頑張るし、実力行使せねばならないときには見せれば黙らせれるだろ。
「むぅ~……なんか嫌な視線ばっかりにゃ~。ムカついたからちょっとぶっ飛ばして来るにゃ~」
斜め後ろで事の成り行きを見ながら周りを観察していたセレーナが眉をしかめて物騒なことを言う。
嫌な笑みでひそひそしてる商人達に近づくのを頭をぶっ叩いて阻止した。
「やめろセレーナ。死人を出す気か」
「大丈夫にゃ~。きっと来世があるにゃ~」
「殺す気かよ!」
それでも尚商人達を制裁しようとするセレーナをどうにか宥め、いまだ渋る受付嬢に向き直った。
「ランク登録に年齢制限はないでしょう?」
「んん、そうなんだけどね……仮に本当に前世で商売してたとしても、ちゃんと利益を出せるかどうか……ランク登録したら商業ギルドと国への納税は商人の義務だから」
「じゃあ、売れる見込みのある物を見せれば納得してもらえますか?」
「そりゃあまぁ……でもキミ、何も持ってないじゃない」
予想通りの返答に自然と口角が上がる。
「では、俺が製作した魔道具を紹介しましょう」
何もない空中に手を突っ込み、ここ最近作った魔道具をそこから引っ張り出す。
「え……えええぇぇ!?」
初めて見る収納魔法にびっくり仰天して思わず立ち上がった受付嬢ににやりと笑う。
さて、久々に営業開始だ。
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