第45話、魔道具の仕組み

 魔道具には動力源となる魔石が必要不可欠だ。


 魔石の大きさに比例して複雑な魔力回路を作り出せる。

 小さい魔石なら単純な仕組みの魔力回路しか作れないし、大きい魔石ならその分複雑な仕組みの魔力回路を作れる。


 しかしそれは魔石をひとつしか使わなかった場合に限る。


 小さい魔石でも、複数使えば複雑な魔力回路を作れるのだ。魔石同士の魔力の流れを繋げてしまえば大きな魔石の代用品になる。小さい魔石を使うことで安価に普及できるから世のためにもなるしな。


 始まりはゴブリンやオークなどの屑魔石をどう処理しようかと悩んだことがきっかけだった。

 売っても大した額にならないし、当時は魔道具ひとつに魔石ひとつが当たり前だったため機能に特化した新しい魔道具にも使えないしで持て余していた。


 うんうん唸る俺に気を遣った部下が紅茶を入れてくれたときに糖分が欲しくて角砂糖を二個入れたその瞬間に閃いたのだ。

 魔石ひとつじゃ大したものは作れない。なら、複数使ったらどうだ?と。


 そこから試行錯誤して、魔石の魔力を繋げたら大きな魔石と遜色ない複雑な魔力回路を作れることが分かり、持て余していた大量の屑魔石も消費できるし、市民は安価で魔道具が手に入るしといいことずくしだった。

 しかも低級の魔物は狩り尽くす勢いで討伐しても気が付くとめっちゃ増殖してるから、複数魔石使用した魔道具を量産してもなんら問題ない。


 唯一の欠点は低級の魔物から取れる物が魔石だけなので若手冒険者以外誰も討伐に行ってくれないことだな。わざわざ依頼出すまでもないから部下に取りに行かせてたが、素材が取れる魔物の方がいいと部下共々愚痴っていた。

 それでも市民のために安価で売れるよう低級の魔物を狩っていたが。


 研究資金を捻り出すために大型魔石を使って便利でお高い魔道具を作って販売するつもりだったが、グレイルさんの店の魔道具改良やレッドドラゴン討伐などで稼いでるのでその必要はなくなり、こうして屑魔石の消費に勤しんだというわけである。


「そうか……確かに、ろくに使い道がない屑魔石を上手く使えるなら利点が多いね」


 一通り説明すると、感心したようにグレイルさんがひとつ頷く。


「でも魔石同士の魔力の流れを繋げるなんて、そんな小難しそうなことよくできるっすよねー。魔法剣でも同じことができるならヴォルクリンさんに頼むっすか?」


 ちらっともう1人の男に話を振るレジータ。


 ヴォルクリンとやらは何故か俺を睨んでいる。

 はて?睨まれるようなことをしただろうか。この人とは初対面のはずだが……


「……アンタだな?俺の造った魔法剣を改良したっつートンデモヒヨコは」


 改良した魔法剣の制作者だったか。


「初めまして、フィードです。魔法剣含め、魔道具の性能を改良してるのは俺ですけど」


「俺はリーバー商会魔法剣職人のヴォルクリン。見ての通り人間だ」


 もしや改良したのを怒ってるのかもしれない。

 職人というのは自分が作った物に誇りを持っている。

 自分が作った物を勝手に弄られるなんて、職人にとっては誇りを汚される行為に等しい。

 ……その辺の配慮が足りなかったな。少々反省。


「魔法剣でも魔石を複数使えるのか?」


 俺を睨みながら質問するヴォルクリン。


 職人として聞かずにはいられなかったのだろう。

 許可なく魔法剣を弄ったせめてものお詫びに丁寧に答えた。


「使えますよ。ただ、あまり多く使うと剣の耐久性が劣るので最大3つまでですね。それ以上だと剣が壊れやすくなります」


「……ではあの複雑な魔力回路はどうやって作った?あれらは魔石をひとつしか使っていない。にも関わらずあそこまで複雑に入り乱れた魔力回路を刻むなど正気の沙汰ではない」


「魔力回路の線を細くすればいいんです。そうすれば複雑な魔力回路を作れます」


「………しかしそうすると魔力伝導率が下がるのではないか?あそこまで細いと少し過剰に魔力を送っただけで魔力回路が破損してしまう」


「線を細くしつつ濃密に魔力を込めればいいんですよ。濃密であればあるほど魔力回路は強度が増します。ただ線を引けばいいんじゃない、魔力の濃度や魔道具に見合った線の細さを見極めないと」


「…………」


 あれ。なんか静かになった。


「……魔道具をこれほど深く理解しておられるとは……グレイル様が絶賛する気持ちがよく分かりました」


 つい今しがた睨んでたのが嘘のように目が輝いている。

 どうやら怒ってはいないようだが、代わりに尊敬の眼差しを送られた。


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