第44話、魔導クッション

 久々に熱く語った。


 研究の内容を聞いてくれる人が少なかったからつい暴走してしまい、挙げ句の果てには前世の間抜けな死に様も赤裸々にしてしまって、ちょっと恥ずかしかった。


 今でも思い出せる。ギルマスのなんだかとても残念なものを見るような、アホの子を相手にするようなあの目を。

 思い出すだけで羞恥心が膨れ上がるが、今はそんなもの心の隅に放り込んでおく。


「さて、素材は揃ったな」


 今日は待ちに待った魔導クッション製作日。


 グレイルさんから許可をもらって今日だけ魔道具の改良はお休みさせてもらった。

 サプライズにしたいので詳しい事情は伏せたままだが魔道具を作ることは伝えているので完成品が楽しみだと微笑んでくれたグレイルさん。期待を裏切らないよう頑張ろう。


 セレーナにも今日は遊べないと伝えてある。グレイルさんの家に乗り込んできたりはしてないから大丈夫かなとも思ったが、何せ街中だろうが関係なく暴れる戦闘狂だからな。

 手遅れになってからではグレイルさんに迷惑がかかるので先手を打っておいた。

 向こうが、なら遊び溜めしておくのにゃ~!と張り切って大分派手に暴れてしまったがちゃんと修復したので問題ないだろう。……なんだ遊び溜めって。買い溜めと同じ感覚か。


 街中に買い物に行ったときは少しばかり面倒だったな。

 今回の魔道具作りに必要な物を買いに行ったとき、やはりというか、ノンバード族ってだけで冷遇された。

 店員はいやらしい笑みを顔に張り付けてぼったくりな値段で強制的に売り付けようとしてくるし、他の客がわざと商品を破損させて俺に罪を擦り付けようとしてくるしで面倒極まりなかった。


 物理的に黙らせるって手段もあったんだが、ギルマスとレイデルフォード辺境伯から問題が起きたらステータスカードを見せれば一発で解決するから次からはそうしてくれって言われていたので実力行使には至らなかった。

 俺とセレーナが街中でヒーハーしてるせいで苦情が相次いでおり、できるだけ穏便に事を済ませてほしいと懇願された結果そうなったのだ。


 俺としても面倒は避けたいし、賢者の称号は絶大な効果を発揮してくれたので文句はない。身分を振りかざす横柄な貴族みたいで少し躊躇したが、手っ取り早く終わらせるにはあれが最適だった。


 ステータスカードを見せた瞬間の店員の反応は面白かったな。

 鮮やかに掌を返し、顔面蒼白でヘコヘコしだして他の客が困惑したもんだ。


 それはさておき材料を並べる。


 オークの魔石、フォレストラウルフの毛皮、ファイヤーバードの羽根、魔糸。使うのはこの4つ。


 フォレストラウルフの毛皮はすでに加工済みで、硬くてごわごわしていたのが嘘のようにふわっとした手触りに。

 普通の布地だとファイヤーバードの羽根の熱に耐えられず燃えてしまうし、かといって革などの頑丈な生地を使うと手触りがイマイチ。


 そんなときは動物型の魔物の毛皮を使うのがベストだ。

 同じく魔物の素材なら熱耐性もあるし、ウルフ系とシープ系の毛皮は加工しやすいし、加工したらモノによっては極上の手触りにもなるから結構使いやすい。


 加工済みの毛皮をクッションにするのにちょうどいい大きさにカットして、内部の四つ角に魔石を入れる小さなポケットを作る。


 使用する魔石は4つだ。

 中央、もしくは四つ角のどこかに魔石を1つ入れるかで迷ったが、中央に入れると中心だけが温かくて外側が冷たくなるし、四つ角のどこか一ヶ所に入れるとその場所だけ温かいっていう製作者にとっては我慢ならない出来になってしまうため却下。


 ファイヤーバードの羽根を詰め込み、そして魔糸で縁を縫い付ける。


 魔糸は魔力回路を作る補助をしてくれる優れもの。布製の魔道具を作る場合、普通の糸にするか魔糸にするかで魔力回路の出来が大分違う。


 魔力回路を作り出し、一方向に魔力が流れるよう調整して時計回りに循環させる。それだけだと外側だけ温かくなるので渦巻き状にして魔力を中央まで行き渡らせる。


 ファイヤーバードの羽根の熱を必要以上に外に洩らさず、魔石の強度を上げて壊れにくくし、時間経過でフォレストラウルフの毛皮が燃えないよう調整。あとついでに消費魔力を極力抑えれるようにした。たかがクッションひとつに沢山魔力を使うなんて燃費悪くて使いづらいだろ。


 ちょっと複雑な魔力回路になったが安全第一なので仕方ない。

 魔糸を使ったからこそ出来たのだ。これが普通の糸ならば魔力回路が途中で壊れてしまっていた。


 完成した魔導クッションを両手で掲げる。

 ヒヨコな自分の身体より倍近く大きいので俺からすると圧巻だが、普通の人が見たらちょうどいいサイズだ。


「うん、完璧だ」


 満足げに頷きそう呟くと沸き上がる達成感。


 やはり魔道具を作るのは楽しい。

 魔法関連ならなんでも好きだが、特に好きなのは魔道具だ。

 自らの手で新しい物を作り上げるのが楽しいし、作ったあとのこの達成感がたまらない。

 他人が作った魔力回路を弄るのもそこそこ楽しいが、やはり一から作り上げる方がずっと面白い。


「よし、グレイルさんは執務室かな?」


 早速グレイルさんに渡すべく部屋を飛び出した。




 執務室のドアをノックする。


「フィード君だね?レジータ、開けてくれ」


「りょーかいっす!」


 ヒヨコの手でノックするとかなり力を込めても音が小さいし、ノック音が下の方から聞こえるため俺だと断定したのだろう。


 ヒヨコの俺ではドアノブに手が届かないので必然的に向こうから開けてもらうことに。


「フィードさんどうぞー!」


 レジータがドアを開けてくれて中に入れてもらう。

 中にいたのはテキパキと書類を捌いてるグレイルさんと知らない男、そして不要な書類を溶かすブルー。


 そばにいても相手してやれないからとグレイルさんの役に立ってもらっている。魔道具改良をお休みしたのでせめてそれぐらいはと思った次第である。

 ちなみに俺が使わせてもらってる部屋の扉もドアノブで開閉するタイプだがブルーに開閉してもらっていた。こう、びよーんと伸びてな。

 しかしそれでは一人で扉を開けることもできないため最近ちんまりヒヨコな俺に合わせて細工してくれたので一人でも開閉できる。


「もうできたのかい?」


 今日一日魔道具作りに専念すると伝えてあるため魔道具が完成したと思い至ったグレイルさんが目をぱちくりさせる。もっと時間がかかると踏んでいたらしい。

 まぁ、部屋に籠る宣言してからほんの1時間程度しか経ってないもんな。そんな反応にもなるさ。


「どうぞ。日頃お世話になっているお礼です」


 収納にしまっていた魔導クッションを取り出してグレイルさんに渡す。


「おやおや、嬉しいねぇ。ただのクッションではないのだろう?他人の魔力回路を操作できる君が、いったいどんな魔道具を……っ!?」


 魔力眼で魔力回路を一発で見抜いたグレイルさんがその顔から微笑みを掻き消し、これでもかと目を見開いた。


 そこまで驚くことかな?

 ああ、魔力回路が複雑に入り乱れてるからそれかもしれない。


「な……嘘だろう……ひとつの魔道具に魔石を複数使うだと……?しかもあんな複雑な魔力回路見たことない……!」


 知らない男が持ってる書類を全て落としそうなくらい両手をブルブル震わせている。


 うん?魔石を複数使うのなんて前世じゃ当たり前だったぞ?

 俺と部下、あと知り合いの魔道具職人くらいしかそんな芸当してなかったけど。


「えー?ただのクッションじゃないっすかー」


 レジータだけは何もわかってない様子で首を傾げている。


 書類を溶かし終えて、待ってましたとばかりに俺の元にぴよんっと跳んできたブルーを受け止めつつ、時が止まったかのように動かなくなった二人を眺めた。



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