第33話、再度冒険者ギルドへ

 改造した魔法剣の性能に満足してるときにハッと思い出した。ここグレイルさんの店じゃないか。人様の店を氷の世界にしてどうする。


「すみません。元に戻しますね」


 剣に魔力を流したのはレジータだが、改造したのは俺だ。

 改造していなければこんな事態にはならなかった。


 幸いにも他の商品に被害は出ておらず、氷の世界を溶かしたらあっという間に元の景色に戻った。


「無詠唱でそんな規模の魔法を……」


「昨日も思ったが、魔力量が化け物だね。普通、それほど大きな魔法を使えば魔力が底をつくのだが……」


 レジータが呆然と呟き、グレイルさんが呆れ気味になんか言ってるけど気にしない。


「グレイルさん、他の商品も改善の余地がありまくりですがどうします?」


「改善?魔改造の間違いだろう?商品の性能が上がるのは喜ばしいが、ここまで良すぎると逆に危険だ。もう少し性能を落としてくれるなら他の商品も任せたいのだが……」


 どうせなら全部ギリギリまで性能上げてやろうと思った矢先に釘を刺される。仕方ない、少し質を落とすか。


「分かりました。これより少し性能落とします」


「何日かかるかね?」


「え?今日中に終わりますけど?」


「…………」


 開店するまでどれくらいの時間があるか分からないのでさっさと魔道具改善に取りかかる。


 炎の玉が出るだけの魔法剣を火柱が出るようにしたり、ワイルドボアに突進されたらヒビが入るシールドをロックタートルに直撃しても掠り傷ひとつつかないようにしたり、幻覚の花が一輪見えるだけの飾り物を魔力を流してる間ずっと周囲に色とりどりの花が舞い散るようにしたりとなかなか楽しかった。


 グレイルさんもレジータも何も言わないからこの程度の性能なら問題ないだろう。なんか口開けてぽかんとしてるけど。



 魔道具改善してグレイルさんに呆れと諦めが混ざった顔でお礼と共に金貨をもらった。俺の自己満足でやったことなのに太っ腹だな。しかも結構な枚数。百はゆうに越えている。

 グレイルさんいわく、これ以上はないってほどの魔道具を大幅に改善してくれたのに無給って訳にはいかないと。


 思わぬ収入にホクホクしながら今日もやってきた冒険者ギルド。


 昨日はステータスカード作っただけだったので冒険者ギルドの詳しい仕組みは説明されていない。もしかしたら説明してくれる前にさっさと出てしまった可能性もあるが。


 ギルドの中に入るといくつもの視線が突き刺さる。


 侮蔑の眼差しが大半だが、半数以上のギルド職員と一部の冒険者は顔を青ざめている。あのときギルドにいた奴らだろう。

 小鹿のように身を震わせる者もいる。

 そこまで怯えなくても。そう何度もギルドを破壊しないって。


「おいヒヨコ。ここは最弱種族が来るとこじゃねぇんだよ!さっさと退け!」


 適当な受付場所で冒険者ギルドの説明を聞こうとしたらまたもや絡まれた。

 相手してやるのも時間の無駄なので無視したら斬りかかられた。仕方なく身体強化して受け止める。こんなめちゃくちゃな剣筋、避けるまでもない。


「なっ……!?」


 ヒヨコが剣を受け止めた事実に驚いているそいつの顔面に蹴りを入れる。壁までぶっ飛んだ。


 ガラガラと崩れる壁、瓦礫に埋もれる冒険者、唖然とするその他大勢。


 瓦礫に埋もれている冒険者を引っ張り出して壁を元通り修復する。よし、物的証拠は揉み消した。これで言及はされまい。


「で、まだやるか?」


「ひぃっ!」


 意識を飛ばす寸前だった冒険者を叩き起こし、まだ挑むなら相手してやるぞと凄んだら、えらく怯えられた。


 ちょっとやり過ぎたかな。いや、これぐらいがちょうどいい。無闇やたらと差別してたらその分己に返ってくると学べるいい機会だ。これをきっかけに差別意識を塗り替えればノンバード族の未来は明るい。これからも積極的に絡んでくる輩を潰そう。


「すみません、ちょっと教えてほしいんですけど」


「な、何をですか……?」


「冒険者ギルドの詳しい仕組みについてです」


 近くの受付嬢に声をかける。

 きちんと返事はしてくれたが挙動不審だ。


 受付嬢の意地なのか失礼な冒険者のように悲鳴を上げたりはせず、多少キョドってるがしっかり受け答えした。

 俺の実力の一端を垣間見た直後だからだろう、割かし丁寧に対応してくれた。説明も分かりやすい。


 冒険者ギルドは身分証作っただけだと冒険者とは認知しない。

 依頼を受注して初めて冒険者として扱われる。

 受注した依頼を達成し、報告すればステータスカードに冒険者ランクが反映される。最初はFランクから。

 討伐依頼を受けると討伐した魔物の数と種類がステータスカードに記される。

 受注できる依頼は自身と同ランクかひとつ上のランクまで。ただし、ひとつ上のランクはソロでは受けられない。


 素材の買い取りは冒険者にならなくとも可能。

 依頼を受注せずに魔物討伐してもステータスカードに討伐数と魔物の種類が記されるのでそれを証拠として提示すると買い取ってくれる。逆にそれがなかったら買い取ってくれない。

 盗品とか、違法な手段で手に入れた物だとステータスカードに反映されないのでその疑いがあるからだ。

 そのため、ステータスカードに記されてない物を買い取りに出した場合、憲兵にしょっぴかれる。

 それと基本、冒険者同士の小競り合いにギルドは介入しない。全て自己責任。


 ステータスカードを持つ者は全員カードに金が振り込まれる。金額は本人にしか見えない。

 引き出すには冒険者ギルドと商業ギルドの一角にある専用の魔道具にステータスカードを差し込み、引き出したい金額を打ち込めばいいらしい。なんで魔法剣とかの出来はあんな拙いのに公共機関の魔道具はこんな便利なんだ。


 以上が、冒険者ギルドの基本的な仕組みだ。


 前世とは大分違う。名前と魔力量とランクしか記されないカードだったのに対してこちらではステータスカードなんて便利なカードを利用してるのもそうだし、冒険者同士の喧嘩にギルドが介入しないってのも以前なら有り得なかった。


 前世では平気で介入してきたからな。ギルマスお気に入りの冒険者をこれでもかと優遇したり、高ランク冒険者に難易度高い依頼を受けてもらおうと裏で根回ししたり、ギルマスの不況を買った奴は冒険者資格を剥奪されたり。色々酷かった。


 この世界の冒険者ギルドは信用できそうで少し安心。


「依頼ではない魔物討伐ではランクアップはありませんのでご注意下さい」


「それは、例えば魔族でも?」


「ええ。歩く災害といわれている魔族を討伐したとしてもです。もっとも、ここ数百年で魔族を発見したなんて報告はありませんが……」


「特例はないということですね」


「昔は特例措置もあったそうですが、それを悪用して世界に多大な影響を及ぼした者がいたらしく。以降、特例は許可されていません」


 ランクアップ条件がかなり厳しいと思ったらそんな裏話が。

 特例措置をどう悪用したのか気になるところだが、世界規模で影響を与えたならかなり酷い事態に陥ったと考えられる。

 深く突っ込んだことを聞いても教えてはくれないだろう。


 受付嬢に礼を言い、未だに怯えた表情でこちらを窺っている者達を視界の隅に入れながら出口へと向かっていたところで、ふと気になる視線を感じた。まるで俺を観察するような。


 誰だろうと辺りを見回したとき、突如鋭い殺気を向けられた。


 咄嗟に後ろに飛び退く。

 ドガンッ!と重い一撃が俺のいた場所を襲う。床にめり込む拳が視界に入った。


「にゃはは!残念!避けられたのにゃ~!」


 俺に向けていた殺気を消し飛ばす。


 猫耳をピンっと伸ばし、尻尾をしならせ、床にめり込ませた拳を引き抜いてぷらぷらさせる少女に全員が釘付けになる。


 ギラギラと目を輝かせて俺の存在をロックオンした黒猫の獣人が楽しげに笑っていた。


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