お人形さん

変なお人形さんがあるんですよ、ウチに。



叔母が持ってきた古いお人形なんですけどね。

物置を片付けてたら出てきたけど、これあなたのでしょう?なんて言って、以前持ってきたんですね。

笑顔の女の子なんですけど、なんていうかこう、パッとしない感じでしてね。

そんなの持ってこられてもって思いましたけど、お母さんが喜ぶかしらって思って貰い受けたんです。


というのもお母さん、認知症が進んじゃいましてね。


物忘れとかそんなのは私もするんですけど、お母さんはだんだんと酷くなってきちゃいまして。

買い物に行った後なのに、買い物に行かなきゃなんていってお財布持って出て行こうとしたあたりから、おかしくなっていったんですよ。

それからは、お父さんのことを迎えに行かなきゃ、とか。

父はとっくに亡くなってるんですけどね。

そろそろちかちゃんが帰ってくるからって、どこかに行こうとしたりね。

ちかちゃんは私ですから。


そうなっていくウチに、孫娘がそろそろ帰って来るって言い出したんですね。


ウチは二人とも男ですから、孫娘はいないんです。

認知症は認知症でもね、ちょっとズレてきたなぁなんて思ってたところだったんで、孫娘代わりにそのお人形を預けてみようって思ったんです。

そうしたらお母さん、すごい気にいっちゃって。

ずっと抱っこして可愛がってるんですよ。

なんとかちゃんどうしたの〜?

なんとかちゃんかわいいね〜って四六時中触れ合ってて。

何かの拍子にお人形を置き忘れると、徘徊とか不穏とかが酷くなるんですけど、お人形を預けると、またぱあっとお母さんが笑顔になって、落ち着くんですね。

ああ、これは良かったなぁって思ったんですよ。


それからしばらくして叔母がまた来ましてね。

あのお人形さんどう?なんて言われて。

ああ、あそこに座ってるわよって指差したんです。

そしたら叔母が


え? あれ?


って驚いているんです。

どうしたの?って聞いてみたら



表情が全然違うんじゃない?って言い出したんですよ。



もうちょっとパッとしない感じだったじゃない、あんたも言ってたでしょう?

って言われて私もハッとして。




そう言われれば、笑顔が明るいんですよ。




思い返すと、お母さんが気に入って抱っこするようになってからはなんだか、家族の一員みたいになって。

私や夫や、息子達までお人形さんに話しかけるようになってたんですよ。

それからなんだか、家族の仲もほっこりしたなぁって、思ってはいたんです。




私、お母さんとあのお人形さんのお陰かもって、思っちゃいました。




ちょっとアンタたち大丈夫?なんて、叔母は笑ってましたけどね。





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