ぶどう

出張続きの頃の話で結婚前ですから…6〜7年前にはなると思います。



九州の方へ1週間ほど出かけてましたので、久しぶりに自分のマンションに戻った時でした。

急いで出たので部屋も散らかってましたし、水槽の水もそのまま。

台所には出て行く前の食器が浸かったままでした。

まあ、明日やろう、と。

疲れていたのでそんなことを思って、スーツケースも開けずにシャワーを浴びて、簡単な食事をとってベッドに横になりました。

すると、朝日の眩しさで目を覚ましたんです。

ベッドから体を起こすと、カーテンが開いていたんですね。

あれ?と思って、もう一眠りしたくてカーテンを閉めようとしたら


ぶどうが一房、なっているんです。


ちょうど、サッシの内鍵のところにです。

陽の光を浴びてつやつやしてました。

蛍光色の様な黄緑色のぶどうが、たくさんの実をたわわに実らせているんです。

何だろうと思って、四つ這いになってぶどうに顔を近づけました。

ちょうど目の高さくらいの所にぶどうがあるんですが。

よく見たら、白い糸状のネバネバしたもので、ぶどうをこう、サッシにベタっとはりつけている感じなんですね。

なにこれ?と思っていたら


ぶどうの実が蠢いているんです。


ぶどうじゃありませんでした。




沢山の芋虫が丸まって、集まったものでした。




徐々に丸まった状態から体を伸ばすと、黒や茶色の丸い模様が浮き出し、細いとげが伸びたかと思うと、ぼたぼたと床の上に落ちていきました。

もぞもぞと這い回る芋虫の背中が割れ、そこから羽虫がぶんぶんと飛び出して、その虫たちはあっという間に寝室を埋め尽くしました。

気持ち悪さに絶えきれずリビングに逃げると、花瓶にさしてあった切り花からツタが一斉に伸びてきて、僕の首や腕、脚に巻き付きました。

身動きが取れずにいると、大量の羽虫が僕の中から水分を吸い始めました。


どんどんとミイラのように、僕がしおれていったんです。


すごい怖くて、うわあああああ!と絶叫して。


と、その自分の声で、目が覚めました。


のたうち回ったようで、私はベッドから落ちてました。


時計を見ると、深夜の2時くらいだったと思います。

喉が渇いたのと気持ちを落ち着けたいのと、とにかく水を飲もうと思って台所に行こうとすると、目に入ったんです。




リビングに置いてある花が、しおれていたんです。




そういえば、1週間も水をやってなかったって、そこで気づきました。




その切り花、仕事でとてもお世話になっている方からいただいたものでして。




たぶんその切り花が、僕に訴えてきたんだって素直に思えました。




植物もまた、生きていることを実感した体験です。





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