ちくわ
ずいぶん前になりますが、職場の連中で蕎麦を食べに行ったんです。
同僚が食通でしてね。
山奥にある、知る人ぞ知る蕎麦屋を見つけたから行きましょうってことになって、何人かで食事に行きました。
1時間は車に乗っていたと思います。
奥の奥へと進んだところにその蕎麦屋はありました。
いやこれが、たしかに美味しかったんですよ。
その蕎麦屋で、蕎麦も作ってたんじゃないかな、たしか?
湧き水があって、あと山葵、近くで採れたものらしくてですね。
山の恵みをいっぱいに取り込んだような、風味豊かで美味しいお蕎麦でした。
一同、満足しまして。
ゆっくりと余韻に浸りたかったのですが、休日でしたから。
外で何組かが待っているような状態でしたので、食休みもほどほどに、一人に支払いを預けて外に出たんです。
広い駐車場から見渡せる山々も、うっすらと雪を纏って綺麗でしてね。
紅葉の美しい頃の秋蕎麦だったら、また格別だろうなんて話していたんです。
そうしたら、その駐車場の隅、といいますか。
道路を挟んで駐車スペースが二つあるんですが、蕎麦屋側の駐車場の角に小さな鳥居が建っていたんです。
そこを少し登ったところに、小さな祠のようなものがあるのも見えました。
私は元来、そうした古い建物や遺跡などが好きだったものですから。
ちょっと同僚達から離れて見物に行ったんです。
小さな鳥居を潜るように階段を、といっても十数段くらいしかないのですが、登って祠の前に行ってみたんです。
すると、その祠の前に、ちくわが落ちてたんです。
薄い紫色のドロドロとしたものにまみれて、ベチャッとしているんですね。
うわっ、とは思いましたが、まあ野良犬が食べて吐き戻したのかな、くらいに思って済まそうとしていたら。
脚がついているんです。
細ーい脚が、アメンボみたいに6本ついているんですね。
なんだ?と思ってまじまじと見つめてしまいまして。
黄土色と茶色の模様で筒状の、どうみても「ちくわ」の様なんですが。
脚を動かして、微妙に動いているんですよ。
祠を避けて、草むらのほうにゆっくりと歩いているんですね。
私、思わずですよ。
「なんだこりゃ?」って声をあげたら
ぺっ ぺっ ぺっ ぺっ ぺっ ぺっと走って、草むらの中へ消えました。
粘液の跡が草むらに続いているのを見つめながら、私は一体何を見たんだろうと呆気にとられてしまいまして。
同僚に声をかけられてハッと我にかえりました。
車の中で自分の見たものを話してはみたんですが、案の定、誰も信じてはくれませんでしたね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます