お遍路②
当時、私がバイトをしていたコンビニがお遍路の道沿いにあったんです。
お遍路さんがよく買い物や休憩に来る場所でした。
ある日、抱っこ紐のようなものを下げた方がいらしたんです。
赤ちゃん?と思ったら古めかしいお人形を抱っこしていました。
一瞬ぎょっとしたんですけど、その男性の方が苦笑いしながら
「おかしいですよね。でも娘が大切にしていた人形でして」
と、少しお人形を見せながらお話ししてくれたんです。
なんでも、祖母が大事にしていたお人形を娘が譲り受けてとても気に入ったようで、いつも一緒にいたお人形だったそうです。
ですけど、娘さんが病気にかかって入院されてしまって。
原因も分からず闘病生活も1年になろうとしていて、お父さんとしてはすがる想いで、お遍路を訪れたそうです。
「こうしているとね…娘と一緒に歩いているみたいで…心強いですよ」
そう言って力なく笑うそのお父さんが、とても気の毒に見えましたね。
おにぎりやお茶を買って、丁寧にお辞儀をして出ていかれました。
と、入り口の足マットに何かが落ちたような気がしたんですけど、その時はさして気にも留めませんでした。
その後、駐車場の掃除や裏手のゴミ収集所の片付けを終えた店長が、マットに落ちている何かを拾い上げて「これ」と、持ってきてくれたのですが
釘でした。
釘に対して「?」と思っている店長と、あのお人形を抱えたお父さんが「?」となっている私で見つめ合っちゃって。
少しの間をおいて、お互いの疑問を話し合ったんです。
そしたら、私の話を聴き終えた店長が
「ほんに娘さんのやったらええけどな」
って、ボソッとつぶやいて。
あのお人形は藁人形代わりかもしれない、と言うんです。
店長が教えてくれました。
昔は、お寺を訪れた証として釘で札を打っていたので、その名残でお遍路歩きのことを「順打ち」や「逆打ち」と言うんだそうですが、巡礼される方の中には、とても怖い願掛けをする方も稀にいらっしゃったようなんです。
なので、釘で札を打つという事をやめにしていったという歴史がお遍路にはあるらしくて。
もしかしたらそのお父さんは、そういう願掛けがあるって知っているんじゃないかって言うんです。
そんな、あの感じのいいお父さんが…
ちょっと信じたくないようなお話に、寒気を覚えました。
でも、だとしたら。
一体誰に向けたものなんだろう。
もしかして、その祖母に対して?って、考えてしまって。
もちろん、ただの私の推測です。
でも何か、お遍路さんの暗い部分を覗き見てしまったような気がして、とても怖くなりました。
昔から、お遍路さんをお接待してきた店長が
「こういう願掛けする人もおるけん、蝋燭の火ももらわれん」
と言っていたのが、ずっと耳に残っています。
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