ハイキング

ずいぶん前になりますが、当時の上司と同僚達とで、ハイキングに出かけたことがありました。



その日は秋雨の予報が出ていましたが、上司は

「雷じゃなければ大丈夫だよ。途中に東屋もあるし」

と言うので、簡単な雨具を用意してみんなで行くことになりました。

ありがたいことに当日のお天気は快晴で、いいハイキング日和になりました。

ウッドチップが敷き詰められたとても歩きやすいコースで、休憩をはさみながら1時間半ほど歩くと山頂に到着。

上司の案内で、景色を眺めに行ったり辺りを散策したりしました。

その山頂には綺麗な湧水でできた池があって、上司の話だとその池には龍神様の言い伝えがあるのだそうです。

それに、この一帯を潤していたということもあって、昔から大切にされてきた池なんだそうですが、とっても小さな池なんですよ。

みんなでお昼ご飯を食べたりお茶したりしながら池を眺めてましたけど、大人が2〜3人入れるかどうかってくらいの広さだし、たぶん深さは膝下くらいだと思います。

龍神様のような大きなお体がおさまる池には、とても見えないなぁって思いました。

最後に、みんなでその池を背景に記念写真を撮ろうということになって、並んで写真を撮ったんです、上司が撮ってくれて。

それで、じゃあ帰りましょうってなって荷物をまとめて歩き始めたら、ですよ。

快晴だった空がみるみる紫色に変わって、雲が空を覆って


あっという間に豪雨になったんです。


予報で確認はしていたので傘やカッパなどで雨を凌ぎつつ、コースの途中にある東屋に一旦避難しました。

雨が降るとは聞いてたけどね、こんなに急だなんてね、って話をしながら、しばらく雨の様子を伺っていたのですが。


今度は雷が鳴り始めたんです。


空にヒビが入ったように稲妻が走って、ものすごい轟音で。

東屋から動けなくなってしまいました。

天気予報で雷までは言ってなかったんですよ?

山の天気だからってちょっとすごくない?なんて話しながら雷が遠くなるのを待っていたら、今度は一気に冷え込んできたんです。

東屋は小高い丘みたいな所に建っているので、山と山が連なって遠くまで続いているのが見渡せるのですが、その谷間の空間に目を奪われました。




雪なんです。




どんよりとした雲が山に覆いかぶさって灰色になっていく中、真っ白い雪が勢いよく舞っているんですよ。




「こりゃあだめだ、急いで降りよう」




という上司判断で全員で肩を抱き合い、震えながら山を降りました。




麓が近づくにつれて雪も雷も収まって、暖かい快晴の空が戻ってきました。

上司が麓の休憩所で熱いコーヒーを淹れてくれたのですが、冷え切った体は全然温まらなくて、みんなずっと震えてました。

翌々日はみんな仕事でしたが、結局メンバー全員が風邪をひいて仕事を休む羽目になってしまいました。




後日、みんなで撮った記念写真を見たんですけど、快晴の空で撮ったのに雷雨のときのような薄暗い写真でびっくりしました。




もしかするとですけど、龍神様の機嫌を損ねてしまったのかもしれませんね。






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