心霊写真

高校生の頃、同級生六人とキャンプに行きました。



誰の発案かは覚えていないのですが、夏休みにみんなでキャンプに行こうということになり、近所の山にあったキャンプ場に一泊しました。

その時はたまたま他のお客さんがいなかったので、昼はバーベキュー、暗くなってからは花火をして大騒ぎしました。

昼のバーベキュー用のお肉がだいぶ余って晩御飯は焼肉になったのですが、暗い中での焼肉は肉が焼けているのか焦げているのかが全然分からず、翌日、鉄板の上に残っていた肉のほとんどが赤いままなのを見て、みんなで大笑いしたのを覚えています。


翌朝、鉄板や花火の片付け、焚き火の後始末などを済ませて、そろそろ帰ろうという頃に、キャンプの写真係だったFが

「最後にみんなで写真とろうぜ」

と、使い捨てカメラを取り出してきました。

もちろんみんな賛成で、キャンプ場の係員にお願いして、入り口の看板のところで集合写真を撮りました。


夏休みも終わり、昼休みに屋上で見ようということになったのですが、Fが

「まあちょっと見てよ」

と、うかない表情で当時撮った写真を並べました。

送ってもらった後に撮った駐車場での集合写真、荷物を持って歩いている所や火起こしでむせている所、バーベキューや花火の場面が写真に収められています。

当時の楽しかった時間を思い出してワイワイとやっていたのですが、最後に撮った集合写真を見て、ぞくり、としました。

六人横並びで撮影したのですが



向かって一番右に立っているFの、左脚がないのです。



Fは当時、膝下まである半ズボンを履いていたのですが、左脚だけ裾を通していないかのように消えていました。

最初の楽しかった空気が一変し、みんな押し黙ってしまいました。

申し訳なさそうにFは

「ここも見て」

と、今度はFと肩を組んでいるSの右肩を指さしました。



そこには小さな手がのっていました。



子供のようなとても小さい手が、Sの右肩にそっと、のっていたのです。



Sは、うわー、と小さい声でつぶやき、絶句してしまいました。

みんなも写真に釘付けになり、しゃべらなくなってしまいました。

FもSもみんなの表情を見回した後、悪いと思ったFが「俺は気にしてないよ」と笑っていましたが、気味の悪いものだったので、皆んなすぐには気持ちを切り替えることができませんでした。

その後、悪いものとも限らないだろう、あんまり気にしないほうがいいよ、などとみんなでFとSを励ましました。

私も、気になるようだったらお祓いに行ったほうがいい、知り合いのお寺に相談できるかもしれないと提案したりもしました。

でも二人とも

「大丈夫、大丈夫」と笑っていて、そこまでの思いつめ方はしていないようだったので、それ以上は勧めませんでした。



ところが二人は、翌年の冬に事故で亡くなってしまったのです。



SとFは小学生の頃からの幼馴染で、家も近所だったため一緒に登校していたのですが、ちょうど二人が歩いている所にトラックが突っ込んだそうです。

他にも同じ歩道を歩いていたサラリーマンや小学生なども巻き込まれ、全部で五人の方が亡くなられたと聞いています。

私は両親の仕事の関係から事故直後の状況を知ってしまったのですが、Sは右肩から腰にかけて壁とトラックに挟まれ、Fは下敷きになる形で左脚が切断され、即死だったそうです。


私はあの心霊写真がこのことを暗示、もしくは警告していたのではないかと恐ろしくなり、ひと段落したら、Fの持っている心霊写真をお祓いしてもらおうと考えました。


後日、事故被害者の合同葬に参列したのですが、あのキャンプのメンバー四人が揃う形になり、色々な話しをしました。

クラスが変わってからも私たち六人で遊んでいたこと。

いつもFとSがムードメーカーだったこと。

あの二人が私たちをあの手この手で楽しませてくれたこと。

思い出は尽きず、色々なことを話しました。

その流れで自然と、去年の心霊写真のことに話が及びました。

私はあの心霊写真を、念のためお祓いに出したほうがいいんじゃないかと相談しようと思っていたのですが、私の正面に座っていたNが「あ」とつぶやき



「そういや、あの時の心霊写真、嘘だったらしいぞ」と切り出したんです。



ええっ!?と、三人で声を上げました。



Nも最近聞いて驚いたそうで、実はFとSとで事前に準備していた、心霊写真ドッキリだったと言うのです。



キャンプの時にFは「間違ってオヤジのを持って来ちまったー」と、ダボダボの半ズボンを履いてみんなの笑いを誘っていたのですが、実はそれは口実で、左膝を曲げた状態で履くために持ってきたのだそうです。

隣のSに肩を組んで支えてもらうことで両脚で立っているように演出し、まるで半ズボンの先から左脚が消えているかのように見せた、そう見えるためにSと何度か練習までしたんだと、Nはたまたま会ったときに聞いたのだそうです。

あの子供の手もSが持ってきた人形の手で、写真を撮る直前にSが自分の右肩の上に置いただけの、ごくごく単純な仕掛けでした。

FとSは写真を見せたときに種明かしをするつもりだったのですが、全員がドン引きしたあげく、リアクションが真面目だったことで言い出しづらくなってしまった、そのままタイミングを逃してそれっきり言い忘れてしまった、というのが真相らしいとNは教えてくれました。


他の二人はなんだよーと笑っていて、Nも

「バカだよなー。でも、あの二人らしいよな」と笑っていましたが、逆に私は笑えませんでした。


あの写真が二人のドッキリだったということは、写真と事故とは無関係で、不幸にも二人は亡くなったと考えるのが妥当だと思いますし、他のメンバーはそう考えて安心しています。

しかし、事故の状況とあの写真の内容が重なっていることを知る私には、あの写真が本当に二人の死を見透かしていたかのように思えてしまったのです。



つまり、二人自身の死を、二人自身が無意識に暗示してしまったのではないかと、私には思えたのです。



キャンプのメンバーでは私だけが事故の状況を知っているのですが、あの写真がドッキリということを聞いてから、余計に話しづらくなってしまいました。


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