第79話 日曜日の夜は……(1)



鴨志田さん……結衣と乗った観覧車はゆっくり下降している。

俺と結衣は、何度目かわからないほど唇を重ねた。


そして、観覧車は終着地について扉の鍵が外から外される。

俺達は黙ったまま手を繋いでそのまま歩いた。


口火を切ったのは俺からだ。


「結衣、今日はこれから仕事があるんだ」

「バイトだって言ってたよね。わかってるよ。私はみんなのところに戻るから平気だよ」

「すまない」

「じゃあ、私みんなのところに戻るね。またねカズキ」


結衣はそう言って手を振って、みんなのいる所に戻って行った。

その顔は、少し赤らんでいて恥ずかしそうだった。


「東藤殿、お待たせいたしました」

「カズキお兄ちゃん、来たよ」


ふと背後から呼ばれる。樫藤姉妹だ。


「気配がわからなかった。いつからいたんだ?」

「2人で手を繋いで観覧車から降りてくるところからだよ」


花乃果まで気配を消すのが上手いらしい。


「そうか……」


「目的のホテルはここから見える近い距離にありますが遅れるわけには参りません」


これから、名家の集いによるパーティーがある。

今回は西音寺家主催なので、このトウキョウ・ドームシティのオーナーでもある西音寺家は、ドームに隣接するホテルを会場に選んだようだ。


時計を見れば4時10分前。

今から行けばちょうど良い時間だろう。


「わかった、行くぞ」


俺と穂乃果、そして花乃果は歩いてそのホテルを目指した。





俺達3人はホテルのフロアーに着き受付で話を通しと、43階建てのホテルのうち、今日は30階以上が貸切となっているらしい。


俺達の部屋は31階の3101号室から3104号室の4部屋があてがわれており、聡美姉達は3101号室で待っていると伝言があった。


エレベーターの前に着くとガードマンが数人立っていてボディチェックされた。

ここにある2基のエレベーターは30階までノンストップらしい。

今回、名家の集いによる防犯対策だ。


エレベーターに乗り込み31階を押す。扉は閉まり、高速で上昇するエレベーターの揺れはほとんど感じなかった。


31階につき01号室を探す。

番号通りこのホテルの角にあり、エレベーターからは少し距離があった。

ドアをノックしてしばらくすると、中から返事が来た。


「お兄しゃん、今開けるね」


莉音が来て鍵を開けてくれる。

目の前にはドレスに身を包んだ可愛い莉音がそこにいた。


「おお、莉音可愛いぞ」

「そ、そう、変じゃない。初めて着たからおかしいかと思って」

「そんなことないぞ。良く似合ってる」


北キュウシュウで俺の後をついて来た薄汚れた莉音は、もう存在しない。

ここにいるのは、紛れもなく可憐な少女の莉音だ。


「本当でありますね。確かに可愛らしいであります。はい」

「莉音ちゃん、すっごく綺麗だよ〜〜」


「ありがとう。穂乃果さん、花乃果ちゃん。さあ、中に入って、みんないるから」


莉音の標準語も板についてきた。明日からは俺と同じ緑扇館学園の生徒だ。


室内に入ると女性独特の甘い香りが充満している。

みんなもここで着替えを済ませたみたいだ。


「おお、グーグ、いいとこにきたネ。背中のチャック閉めてほしいあるヨ」


相変わらずメイは遠慮がない。

メイはチャイナドレスのイメージだが、今回は普通のドレスだ。

狐顔のメイのシックな感じのドレスが似合っている。


「ほら、閉めたぞ」

「サンキューなのネ」


部屋は2つに分かれており、雫姉と聡美姉は奥の部屋にいるようだ。

着替え中なら悪いので出てくるまで待つつもりだ。


「ほら、今度は穂乃果と花乃果の番ネ、着替えないと時間ないあるヨ」


穂乃果と花乃果はメイと莉音に連れられて奥の部屋に行ってしまった。

代わりに珠美が着飾って登場する。


「あ、お兄ちゃん、どう珠美のドレス」

「フリフリがいっぱいついてて可愛いぞ。珠美によく似合ってる」

「ほんと、うれしい。少しお化粧もしたんだ。ルージュも塗ったんだよ」


薄化粧だが、きちんと珠美の良さを引き出している。


「本当だ。ますます可愛くなっちゃったな」

「えへへへ」


そう言うと珠美は照れながらも嬉しそうだった。

珠美と話しながらテレビを見ていると今日のミニ・コンサートをした『苺パフェ8』話題が取り上げられていた。


テレビ局の取材は来なかったのに、と思っていると、観客が撮影した動画サイトの映像が流れている。


『いや〜〜凄い動きですねえ』

『この子達、みんなまだ小学生ですよ。体操選手になったらオリンピックとか出れそうですけど』


司会とコメンテーターが掛け合いで会話してる。

確かに迫力はあった。


「すごーい。花乃果ちゃんがテレビに出てる〜〜」


珠美は驚いた様子で、みんなに伝えに奥の部屋に行ってしまった。


さて俺も着替えないと……


そう思ってると聡美姉が奥の部屋から顔と手を出して手招きしてる。

着替えが終わったようなので、俺も奥の部屋に行くと大きなキャリーバッグを渡された。


「カズ君、悪いけどそれ持って隣の部屋で着替えてくれる。必要なものは全て入ってるからキチンと着替えてね」


「わかった」


着替えはまだ終わってなかったようだ。


俺は、この部屋を出て隣の部屋3102号室に向かう。

俺の後をメイが同じようなキャリーバッグを引っ張って付いて来た。





部屋に入ってキャリーバッグを開けた俺は、少し戸惑っていた。

ここが日本でなければ何も考えずに着替えていただろう。


「確かに、珠美や花乃果、莉音のいる前では着替えられないな」

「そうネ、でもこれ必要だから用意したあるヨ。私がここまで運んだあるネ」


聡美姉の考えがあるのだろう。

中に入ってたメモには、総代も了承済みと書かれている。


「グーグ、早く着替えるネ」

「わかったよ」


素肌の上に着るの防弾チョッキだ。

最新型の薄くても銃弾を通さない優れものだ。

そして、その上にワイシャツを着る。

これの使われている繊維も特別性だとわかる。


「なあ、メイ。詳しい話は聞いているか?」

「ううん、聞いてないあるヨ」


今まで履いていたズボンを脱いで用意されている黒地に薄っすらストライプの模様が入っているズボンを履く。


雫ねえが調整してくれたようでサイズもピッタリだ。

そして、普通ならここで装着するはずのものをあえて俺はしなかった。


それが、かつてのスタイルだからだ。

キャリーバッグの中に入っていた銀色のアタッシュケース。

中を開くと懐かしい玩具が入っている。


Beretta U22 Neos……


俺の好きなイタリア製の拳銃が2丁入っている。

グリップを握り、銃の感触を確かめる。

勿論、2丁ともだ。

手に伝わる重みを筋肉が覚えているが、久し振りなので少し違和感がある。

俺は、それを構えてみると、まだ数ヶ月しか経ってないのに懐かしく感じた。


マガジンを取り出して10発の弾を詰め込む。

さっきより重みのました銃が今度はしっくりと手に馴染んだ。


予備のマガジンは4つ。

それぞれに弾を詰めておく。

どんな事態が待ち受けてるか知らないが、準備は入念に済ませておく。


俺はその2丁の銃を腰に挟んだ。

これが俺のいつものスタイルだった。


「メイの方はどうなんだ?」


メイのメイン武器はトンファーだ。

彼女はそれを太ももにセットできるホルダーに収めた。

そして、メイの銃は、SIG SAUER P239。

ドイツ製の小型の拳銃で9mmパラベラム弾が8発+1発装弾される。


メイも予備マガジンを2つ弾を入れてドレスの内側についてるポケットに仕舞い込んだ。


それぞれ、ポケットには、俺はいつものパチンコ玉を入れてあるし、小型ナイフも装備してある。


いつもならメイはナイフ付きの靴を使用するのだが、ドレスには流石に合わない。結って持ち上げた髪の毛の中に仕込んでいたようだ。


「どうだ、動きは阻害されないか?」

「うん、ドレスがヒラヒラが邪魔なのネ。もし、戦闘になったら切り裂いて短くするから問題ないあるヨ」


俺も動きを阻害されないように仕込めるだけ仕込んだ。

ユリアと暮らしていた頃の装備に比べれば大したことはないが、これでも普通の対人戦なら問題ない。


「なあ、俺の見間違いかもしれんが、キャリーバッグの中にロケットランチャーが入ってるんだが?」


「それ、私が入れたネ。こっちには、C4が幾つか入ってるネ。花火するあるヨ」


「プラスチック爆弾も持って来てるのか?何と戦うつもりなんだ。それは嵩張るから持ってかなくてもいいぞ」


「ひとつだけ持ってくネ。私、花火好きだしネ」


確かにメイは爆発系が好きだ。

派手なものに惹かれるらしい。


「さあ、行くか?」

「イエス、マイロード!」


やはり、ちびっ子達に教えたのはお前か、メイ……


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