第63話 水曜日は観念(1)



莉音の学校手続きの書類が整った。

おまけにメイの戸籍も用意したらしい。

2人とも東藤家の戸籍に入る。

つまり、2人は戸籍上俺の妹になる。


聡美姉に東藤家について聞いてみたところ、元は藤宮家から出た家であり、現在戸籍上しか存在していない家だという。


つまり、作為的に出産届や死亡届を時期に合わせて提出し、今まで存続しているように見せかけた家らしい。

俺みたいな特殊なケースを想定して今まで存続させているようだ。


勿論、法律違反なので、このことは内密にしなくてはならない。


そして、今日、莉音とメイは、学校に行き編入試験を受けるようだ。

当初メイは、1年後という話だったが、思った以上に勉強ができるらしく高校1年の試験を受けるという。


まあ、メイは天才肌だから興味のあるものは直ぐに吸収してしまうから予想通りと言えばそうなのだが、俺より2〜3歳年下の感覚で接していた俺は1歳しか違わない設定なので違和感がある。


莉音も勉強ができるようだ。

確かに頭の回転の早い子だとは思っていた。


そんなわけで、今日は一緒に学校に行く事になった。


不安しか無い……


「グーグ、早くなのネ」

「お兄しゃん、遅れるよ」


そんな不安な種の2人は、元気いっぱいだ。


「試験大丈夫なのか?」

「私は完璧ネ」

「う〜〜ん、平気だと思う」


莉音の標準語も板についてきた。

珠美は聡美姉がちびっ子達を送ってから幼稚園に連れて行く予定だ。


そんなわけで、最寄駅に着くと沙希と出会ってしまった。

今週は珠美の連れて行くので朝は一緒に行けないと連絡してあったのだが、電車の時間が同じなので会うのは自然な事なのだが……


「あれ。先輩、それにメイさんも一緒ですか?それからそこの可愛い子は誰ですか?」


まあ、そう言うだろうな……


「この子は莉音、今日中等部の編入試験を受ける事になったんだ」

「そうなんですか。え〜〜と1年生かな?」

「はい、東藤莉音です。よろしくお願いします」

「私は東藤メイファンなのネ。高校1年の編入試験を受けるあるヨ」


それを聞いた沙希は何故だかプルプルしてる。

心なしか顔が赤いし、怒ってるようにも見える。


「せ、先輩、どういうことか説明して下さい!」


「ああ、メイと莉音は事情があって東藤家の養子になったんだ」


「だから、そうじゃなくって、何で!………(お兄ちゃんの妹は私だけなのに……)」


沙希は口をモゴモゴさせて何かを言ってたが聞き取れなかった。


「後輩よ。何でそんなに怒ってるんだ?」


沙希は大きく深呼吸した。

気持ちを落ち着かせているようだ。


メイは、沙希の迫力に俺の背後に隠れた。

何故か、メイの様子も変だ。


「先輩、後できちんと話して下さい。莉音さんは私のになるのですから私が中等部に連れて行きます。行きましょう、莉音さん」


何故か、俺とメイにキツくあたってる気がする。


「ああ、莉音のことよろしく頼むよ」


「よろしく……です」


莉音も標準語で沙希にそう話した。


それから、学校まで沙希は莉音とばかり会話して俺とメイは蚊帳の外に置かれた。





莉音は沙希が中等部まで案内してくれた。

試験が終わったら連絡をくれる手筈になっている。


メイは俺が職員室に連れて行く。

すると、教頭先生が理事長室に案内してくれてそこで待つように言われた。


「理事長に会うのは初めてだ」

「グーグの時は違ったのカ?」

「空き教室で試験を受けただけだぞ」

「そうなのネ」


しばらくするとドアが開きスーツ姿の若い女性が入ってきた。

そして、その女性は理事長の席に座って話しだす。


「おはよう、メイファンさん、そして東藤和輝君。私が緑扇館学園の理事長をしてます緑藤詩織りょくとうしおりと言います。年齢は聞かないでね。因みに独身よ」


理事長と名乗った女性は20代後半か、若しくは30代半ばくらいの女性で、正直言って年齢を当てるのは難しいだろう。


俺とメイはその緑藤詩織さんという理事長に挨拶をすると理事長は話し出した。


「もう、わかると思うけど私は藤宮家の支流にあたる緑藤家の者です。緑藤家は、代々、この学園の経営を司ってきました。私で8代目になるのよ」


「そうでしたか、俺とメイ、そして中等部に入る莉音がどうしてこの学園に入れたのか理解できました」


「一応、試験はあるけどそれは表向きの対策よ。聡美さんから言われれば一定の学力があれば入学を許可するわ」


俺達みたいな事情があるものにとってはありがたい話だが、裏口入学と一緒だよな、これ……


「今、ズルしてるって思ったでしょう。いいのよ。今は生徒の数が減ってるから優秀な生徒が増えるのは大歓迎よ」


「ありがとうございます」「助かるのネ」


メイはいつもの調子だ。


「うん、うん、若いってのはいいわね〜〜。それで、君達の入学を許可するけど、あ、試験は受けてね……それでね、少し頼みたい事があるんだけど」


これは裏の仕事のようだ。


「その頼みたい事とは?」


「それを今から説明するわね。入ってきていいわよ」


理事長室の隣にあるドアから1人の生徒が入って来た。

この人は見た事がある。

確か生徒会長だったはずだ。


「自己紹介して」


理事長が促すと生徒会長は自己紹介し始めた。


「この高等部の生徒会長をしてます高等部3年の白金結月しろがねゆずきと言います」


「2年C組の東藤和輝です」「メイなのネ」


「ふふふ、よろしく」


怖い人かと思ったが、笑うととても綺麗な人だ。

どこかのお嬢様と言った感じがする。


「結月は私の姪なのよ。つまり私の姉が白金家に嫁いで生まれたのがこの子、結月というわけ。あなた達の事情は、話してあるし知ってるわ。だから、隠さなくてもいいわよ」


「そうですか、わかりました」「理解したネ」


「あなた達に頼みたいのは監視システムの導入とある人物の特定、拘束をお願いしたいの」


「監視システムですか?今現在もこの学校にはありますよね?」


「ええ、でもそれは不審者侵入用の対外システムなの。今回は、校舎から部活動舎、特別教室や女子更衣室に至るまで、学園の隅々を監視するシステムが欲しいのよ」


つまり、生徒や教職員を監視する為のシステムか……


「わかりました。でも既存建物でそのシステムを構築するとなるとケーブルは使えますん。無線で映像を飛ばすとなるとセキュリティの問題も生じます」


「そこまで警戒しなくてもいいと思うわ。パスワードを厳重に管理すれば、凄腕のハッカーじゃ無い限り映像を盗み取られるなんてできないでしょう?」


「ええ、確かにそうですが、いいのですか?」


「それはプライバシーの件を言ってるのかしら?」


「はい」


「仕方ないわ。できればこんな事はしたく無いのよ。でもね……」


すると生徒会長が話に割り込んできた。


「そこは私が説明します。最近、我が学園に不穏な動きがあります。つまり、不法な薬の売買です。何人かの生徒が、その影響を受け学園を休んでいます。私も独自に調査したのですが、尻尾どころか足跡さへ掴めませんでした。このままでは、歴史ある緑扇館学園の名前に傷がついてしまいます」


「学園でそんな事が起きてるのですね」


「ええ、嘆かわしい事ですが事実ですので仕方ありません」


「その薬はどんな物なのですか?」


「『CA4』と呼ばれる錠剤です。麻薬成分を含み、依存性があります」


聞いた事がないな……


「それはコカノキから作られるやつなのネ。私がグーグと会う前は『CA2』と呼ばれていたね。多分その改定版なのネ」


メイは知ってたのか……


「被害に合った生徒から押収したものがあります。これです」


生徒会長はポケットから小さなビニールに入ったオレンジ色の錠剤を見せてくれた。錠剤には『CA4』と刻まれている。


「で、どうかしら?頼まれてくれる?」


メイと莉音、そして俺まで普通の学校生活がこの人のおかげでできるのだ。

断る理由がない。


「はい、監視システムの導入と売り捌いてる奴の確保、確かに依頼を受けさせてもらいます」


「良かったわ。犯人捕まえるにしても私と結月では不安だったのよ」


理事長は嬉しそうにそう話す。


学園を網羅するほどの監視システムとなると大量の装置が必要となる。

それとシステムを管理する部屋も必要だ。


俺はその事を理事長に伝えると、とある部屋を用意してくれた。

放課後にその部屋に案内してくれると言う。


俺は珠美のお迎えを穂乃果に頼むことにした。


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