第111話 最後の一人

「──俺は、託す」


 ユピテルは息を荒げながら、ゆっくりと俺に向かって右手を差し出す。すると──。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 俺の体に魔力が宿り始めているのがわかる。


「アグナム、後は任せたぞ。俺の力、お前に託す」


 そうささやいてユピテルはそのまま地面に倒れこんだ。最後の力を、すべて俺に渡したのだろう。

 ユピテルは、もう戦えないだろう。


「フフフ、魔力が分散しては勝てないと踏んだか。まあ、良い判断だとは思う」


 確かに、さっきのユピテル。あと一撃を食らえば尽きてしまうくらいの魔力だった。それに、もう強力な攻撃はほぼ出せない。だったら、まだ戦える状態の俺に託した方がいい。

 俺ならまだ魔力があり、戦えるからだ。


「ありがとうユピテル。お前の意志、無駄にはしない。絶対に、勝って見せる」


 そして俺はドラパの方を向く。ユピテルは、俺を信じて力を託してくれたんだ。

 あの自分が最強だと信じているユピテルがだ。


 そんなプライドを捨てて、俺に力をくれた。


 だからこの戦い。絶対に負けるわけにはいかない!


「さあ、残りは貴様一人。行かせてもらうぞ!」


 そして地をけったドラパが火を噴くような雄叫びを上げた。

 その声にこたえるように、彼の肉体に異変が起きる。


 彼の手足が真黒に変色し始めたのだ。

 しかし、俺だって負けていられない。


 俺は一直線に飛び込んでいく。ユピテルの戦いを見ていてわかった。逃げていても勝機なんてない。


 どんどん追い込まれて、最後に受けきれないくらいの攻撃を食らって致命傷になってしまうだろう。


 だから逃げていても道はない。ならば前だ。



 一直線に、フェイントもなしに、攻撃を仕掛ける。そうすれば、ドラパは何らかの対応をしなくてはならない。


 ドラパにそれを強要する時点で、その攻撃には意味がある。


 対するドラパも同じだった。


 自身の魔力を込めた身ぢ手を引き絞り、俺の突撃に合わせて打つ。


 ぶつかった、同時に放たれた俺とドラパの一撃。

 衝突した場所から衝撃波が生じる。


 大気が割れ、それが四方に飛び散り、まるで津波の様な衝撃波を生じさせた。

 そんな衝撃が残る攻撃を何度打ち合っても、俺達はこの場から全く引かない。


 全身の力で、後ろ足で、強く踏ん張り何度も攻撃を繰り出す。


 サナやレテフが作ってくれて、さらにユピテルまでもが託してくれた俺たち全員の力。

 その結晶はとうとう功を奏し──。


「グァァァァァッ!!」


 ドラパは俺の攻撃を受け続け、とうとう悲鳴を上げる。

 しかしドラパも簡単には揺るがない。


 強引に体勢を立て直した後、俺の攻撃を撃ち返してくる。

 まるで鋼鉄のような強さの一撃。


 三人の力が無かったら致命傷になっていただろう。だが、今の俺なら十分に耐えられる。

 ドラパはそんな気にも留めず、さらに右腕で殴り掛かってきた。


 俺は自信を持った笑みを浮かべると、右腕の下をかいくぐり、彼の胴体へ一気に剣をふるう。


 前のめりになっていて無防備になっているドラパによけるすべはない。

 その攻撃はドラパに直撃。


 しかし彼も揺るがない。


「くっ。だが──、これしき!」


 恐らく魔力を体内に込めたのだろう。肉体に剣が衝突したはいいがそこから前に進まない。

 まるで大木のようだ。


 体の軸を全く動かすことができない。



 ドラパはそのまま両手を俺に向かって降り下ろす。

 想定外の攻撃を俺は受けきれず直撃してしまう。





 思わず体制を崩しそうになる──がそれでも倒れこむことはなかった。

 身体が地面にたたきつけられる直前、俺は左手を地面にたたきつけられる。


 そしてその力を利用して無理やり身体を押し上げた。

 こういう接近戦で一番やってはいけないのは、気持ちで負けてしまい、目をそらしてしまうこと。


 サンドバッグになってしまうこと。


 だからどれだけきつくても前を見て戦う。

 そして無理やり前を向くと、そのまままがった膝に力を入れた。


「くらえぇぇぇぇ!」


 身体を全力で回転させてそのまま攻撃。



 悠久なる輝きをまとい、赫焉(かくえん)なる斬撃、ここに現れよ


 ホープ・ソード・スレイシング



 あまりの衝撃にドラパは数メートルほどステップを踏んで後退。

 チャンス! 俺は前に踏み込んで突っ込む。



 ──がドラパを仕留め備えてしまう。そして飛び上がったところにドラパが逆に突っ込んでくる。


 そのまま俺の足首を掴む。


「貴様などに、負けるかァァァァ!」


 地面にたたきつけた。強い衝撃で俺の体がすこしだけ地面にめり込んだ。


 ドラパが倒れこんだ俺に追撃しようと殴り掛かってくる。



 まずい──。直観的にそう感じその直前にあおむけの体勢だった俺はすぐに背中を丸めた。



 それから顔の近くまで両ひざまでひきつけると、両手で後ろの地面を押し、直前まで迫ってきた拳を両足でけり上げる。


 両者の攻撃の衝突。再び衝撃波が飛び散る。


 今回は俺の攻撃の方が威力は上だった。地面から両腕をバネにしていたのが効いたんだ。

 おかげで全身の力を使って攻撃を受けられたのだから。


 俺の蹴り上げによってドラパの肉体はのけぞり、身体の重心が上へ持ち上がる。

 そのわずかなスキを逃さず俺は立ち上がる。


 そして立ち上がり、ドラパと向き合った後、さらに殴り合いになる。


 俺も余力が残らないくらい全力で攻撃を解き放つ。

 あまりの無理な攻撃に、全身の筋肉が悲鳴を上げる。



 今までにないくらいの魔力を凝縮。そのまま剣を握りしめ、駆け出す。

 さっきとは違う。テクニックなどない。フェイントもなく、助走をつけ、拳を体ごとドラパに叩き込んだ。


 その攻撃にドラパも迎え撃つ。


 圧倒的な魔力を宿した左手で殴り掛かり、俺の突進に迎え撃つ。

 同時に放たれた俺とドラパの攻撃が衝突。



 この空間が割れるんじゃないかと思うくらいの一撃。それでも、逃げるわけにはいかない。


 後ろ足で強く踏ん張り、決して退かず、斬撃を繰り出す。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

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