第76話 レテフが、喜びそうな服

「お、お帰りなさいませ。ご主人様……」


「お~~っ。かわいいわ。素敵よ。私の嫁にしてあんなことやこんなことをさせてやりたい気分よ!」


 レテフの眼に、ハートマークが灯っているのがわかる。よほど気に入っているんだろう。俺もその姿を鏡で見てみる。


 いつものボーイッシュな外見はそのままに、かわいいメイド姿になっていて、以前の世界の俺なら、素直にかわいいと思える見た目だ。


 確かに、かわいいんだけど、これが自分の姿というのが恥ずかしい。別の服にしよう。



 そしてレテフはサラに服を持って来た。もう遊ぶのは勘弁してくれ。


「じゃあ余興は終わりよ。アグナムに1番来てほしい服はこれ。」


 純白でフリフリのミニスカートに、水色のワンピース。

 これって──。


「レテフと、同じ服?」


「私のおそろよ。どう?」


 まさかのお揃いの服。完全に計算外で驚くしかない。


「どうって、俺が女の子っぽい服。似合うようには思えないんだよなあ。やっぱり」


 すると、レテフは俺に急接近してぎゅっと両肩をつかむ。


「そんなことないわ。アグナムの女の子っぽい姿。とても楽しみよ。ぜひ見てみたいわ。これは本気よ!」


 そして試着。やっぱりスカート姿って、どこか違和感あるんだよな

 レテフの前に姿を現し、鏡で姿を確認。


「す、素晴らしいと思うわ。純粋で、優しいアグナムの性格がそのまま表れている感じで、素晴らしいと思うわ」


「そ、そうかな……」


 俺も、この服はとても似合っていると思う。たまには、かわいい系の服もいいか。


「じゃあ、これにするよ」


「ありがとう。いい所に街を歩こうね!」


 そして会計へ。もちろんおそろの服を着たまま。




 次はレテフの服を選ぶ番になる。


「レテフは、どんな服にするか決まっているの?」


 するとレテフはにっこりと笑い始めた。


「それはね、アグナムのリクエストよ。あなたが、真面目にこんな服がいいって選んだ服を、私が購入することにするわ」


 お、俺が選んだ服を買う?

 なんかちょっと楽しくなってきたぞ。いい服を選んであげなくちゃ!


 そして洋服売り場をガサゴソと、探す。レテフに着せてみたいあの服を。


「あった!」


 そしてハンガーから取り出し、折りたたんであるその服を、レテフに差し出す。


「じゃあレテフ。こんな服なんかどうかな? 意外とあってると思うよ」


 レテフはその服が何であるか気づいたようで、びっくりして一歩引いてしまう。


「えっ! アグナム、正気? 私が着る服じゃないと思うわ」


「レテフだって俺が似合わないような服を、面白おかしく着せていたよね。だから今度は俺の番。これでおあいこだよ」


 しかし、レテフだって俺を着せ替え人形にして遊んでいた手前引くことができず、仕方がなしに、俺の私た服を受け取り試着室へ。


 そして数分ほどすると彼女はその服で出てくる。


「アグナム? これ絶対にあってないわ」


 レテフは恥ずかしそうに試着室から顔だけ出しながら言ってくる。


「似合わないか 見て見たかったんだよ。レテフのその姿。かっこよさそう、みてみたいなぁ!」


 俺が笑顔でそう言うと、レテフは恥ずかしそうに顔を赤くしながら恐る恐るその姿を見せる。


「ほ、本当に? お世辞とかじゃないよね」


「大丈夫。絶対似合うって、だからその姿、見せてよ」


 俺がレテフに着せた服。それは男っぽい黒のスーツ姿。


 執事みたいでかっこいい。レテフ、黙っていれば上品なイメージもあるからこんな服も似合うんだな。


「かっこいいよ。レテフの意外な一面だと思う」


「でも、これを買うのはさすがに嫌だわ。着替えるわね……」


 まあ、さっきのお返しのようなものだ。冗談はこれくらいにして、レテフに似合う服を探そう。


 そして服を選ぶ。レテフ、どんな服が似合うかな……。

 そんなふうに考えていると、偶然とある柄の服が見つかる。


 これ、絶対レテフが喜びそう。

 さらに、同じようながらのスカートがあるか、店中を探し回る。──あった。


「じゃあレテフ。今度は本気。これでどう?」


 俺の出した服に、レテフは驚いて口をふさぐ。


「あれ、お気に召さなかった?」


「と、とんでもないわ。今すぐ着させてちょうだい!」


 そして俺が選んだ服をサッと受け取り、早足で試着室へ。そしてさっきより速いペースで着替えを終え、俺たちの前に出てくる。


「アグナム、どう。そっくり? 似合ってる?」


 俺の衣装にそっくりかという質問。そう、俺が選んだ服は──。

 水色と白を基調とした、肩が露出したドレスに近い服。上の服と同じような色調、形状のミニスカート。


「そっくりだよ。俺が変身してた時の衣装に近い服を選んだんだ」


 そう、俺が選んだ服は、俺の魔法少女の衣装に近い服だ。これならレテフは喜んでくれるはずだ。


「どう? 俺が選んだ服。気に入ってくれた?」



「すごい。素晴らしいわアグナム。この服、素晴らしいわ」


 レテフは俺の両手をぎゅっと握ってにっこりと笑う。

 そして服を着替えて、会計へ。


 再び店を出る。レテフに買ってもらったお揃いの服で。


 二人一緒の服。

 レテフがどこか誇らしい表情をしているのがわかる。ご機嫌そう。


 ただ歩いているだけでもどこかもどかしい気分。ロマンチックな気分になる。

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