第75話 俺が、メイド服姿に!?

 彼女の気遣いに感心する。同時に、レテフの香水が気になってそばによりクンクンとにおいをかぐ。


 すると、レテフが慌てて距離をとる。


「ちょ、ちょっとやめてよアグナム。さりげなくにおいを嗅がないで!」


「ご、ごめんレテフ」


 レテフは顔を真っ赤にしながら、涙目で言葉を返す。


「当たり前じゃない! そりゃあ、せっかくのデートなんだし、朝シャワーを浴びて大丈夫なようにはしているけど、万が一ってこともあるでしょ!」


「ご、ごめん──」


 か、考えてみれば他人のにおいを嗅ぐのはよくないよな。気を付けよう。


「アグナムに似合いそうなのは、これかしらね」


 そういってレテフは小瓶の一つを棚から取り、俺に向かって渡してくる。

 上品で、落ち着いた香り。ずっと嗅いでいたくなるようなにおいだ。


「ラベンダーよ。冷静沈着で、美しい外見を持つあなたにぴったりだと思うわ」


「ラベンダーか、上品そうだね……」


「アグナムにぴったりだと思うわ、どう?」


 どうって言われても。香水とか、初めてだし。


「ご、ごめん、俺、香水のつけ方よくわからないんだよね」


「女の子なのに、意外ね。じゃあ私は教えてあげるわ」


 すると、店主の叔母さんがカウンターの下から同じ色の香水が入った瓶を取り出し俺に見せてくる。


「これ、余っている、お試し用の香水だよ。ちょっとつけてみ」


「ありがとう、流石気が利くわ、おばさん。アグナム、ちょっとその席についてくれるかしら。やりながら教えるわね」


 そしてレテフはその瓶を受け取る。俺はその言葉通りに席に着くと、レテフは俺の後ろに移動。


「香水はね、指になじませるくらいがちょうどいいわ。あまり多いとくどくなってしまうからよ」


 レテフが右手にちょんちょんと香水をつける。そして香水を両手に練りこむようになじませた。


 その両手で髪に触れる。そっと髪の中に入って、指先で髪にしみこませるように香水をなじませる。

 優しく、髪をほぐすような優しい手つき。


「こうやってね、髪になじませるようにつけていくの。多すぎても駄目よ。ほのかに漂うくらいがベストよ」


 その指使い、とても暖かく、繊細で気持ちよく感じてしまう。

 香りも、髪からほんのりと伝わっているのがわかる。


「これで終わりよ。感覚だけど、なんとなくわかった?」


「うんありがとう。次からは自分でやってみるよ」


「じゃあそれ、お買い上げってことでいいのね」


「はい。ぜひ使ってみたいです」


 そして俺はその香水を買う。すると、今度はレテフが棚にある香水を眺めている。


「リヒレはどう。どんな香水を使っているの?」


 レテフは様々な香水を眺め、一つの瓶を手に取る。


「私──これにしてみよっかな。バラ」


 そしてレテフはその瓶を開け、においを嗅いでみる。うん、甘くていい匂いだ。


「いい匂いだね。これ、いいんじゃないかな」


「わかったわ。アグナムのおすすめ。信じるわ。」


 そしてレテフは軽快なステップを踏みながら、支払いへと進んだ。俺の推薦、大丈夫だよな。レテフはかわいいから何やっても似合うだろうし。



 そして会計は終了。店を出ていく。



 ご機嫌なようで、軽快にステップを取りながら道を歩いている。


 俺はそんな速足のレテフについていきながら、質問をした。

「レテフ、次はどこへ行くの?」


「次は、服屋に行きたいと思うの。大丈夫?」


 服屋か──。以前サナに連れられて服屋に行ったことを思い出す。これが似合う、こっちがい言って長時間服屋で試着と化していた記憶がある。


 けど仕方がない。今日はレテフの日だ。我慢しよう。


「いいよ。一緒に行こう」


 そして俺たちは服屋へ。




 どこか年季を感じさせる店内には、様々な服が所狭しと並んでいる。

 店主のお姉さんが吊り下げられた服を暖簾のようにかぎ分けながら、奥から出て来た。



「おうレテフさんね。お友達同士ですか?」


「ええ。そういう事にしておくわ」


 そして服選びを始める。俺が木のハンガーにかけられた服を眺めていると──。


「アグナム、ちょっといい? この服、着てみない」


「この服? ちょっと、この服絶対俺に似合わないだろ!」


「大丈夫よ。絶対似合うと思うわ。モノは試しよ一回着て見なさい!」


 レテフが強引に服を押し付けてくる。仕方ないな……。

 そして俺は試着室でレテフが用意した服に着替える。恥ずかしいなあ。


「レテフ、着替え……終わったよ」


「私のアグナム。素敵だわ!」


 麦わら帽子にロングスカートの白いドレス。お姫様のような格好。どう考えても俺に似合うような服ではない。


「絶対おかしいでしょ。なんで俺がこんな服装なんだよ」


「かわいいわ。私のアグナム。こういう服装も素敵だわ。次はこれよ!」


 そしてレテフは再び俺に服を手渡す。それも、明らかに俺を着せ替え人形にしているのがわかる


「おお! かわいいじゃないアグナム!」


 レテフは目をキラキラさせながら叫ぶ。その服はなんとゴズロリメイド服。


「ゴズロリメイド服。絶対遊んでいるよね」


「私のアグナム。素敵、かわいい! うっとりしちゃうわ~~。「お帰りなさいませご主人様」って言ってみて! さあ!」


「お、お帰りなさいませ。ご主人様……」

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