第211話 私が、相手をしましょう

 一方幸一達。


 サラの案内によって、道の先に到達。


 辿り着いた先の風景。それは──。


 灰色に曇った空。

 おびただしい数えきれないほどの死体、地面はそれらの死体からあふれる血で染まっている。

 さらにその先には、倒壊して廃墟となっていた建物の数々。


 紫色に光る空──。


(この光景。俺はかつて見たことがある)


「覚えておるか、そちはこの世界を──」


 ユダがフッと微笑を浮かべながら話しかける。


 忘れもしない。



「俺が、この世界に来るときにユダから見せられたもの。この世界の未来の光景……だろ」


「覚えておるか。嬉しいのう。ここは、この世界の未来じゃ。このまま手を打たぬ末のな──」


 そう、幸一がこの世界に来るときに、ユダによって連れてこられた場所だ。

 この世界の正体、それは──。



「この世界の未来、でございます」


 どこかから声が聞こえた。サラでも、ユダでも、ヘイムでもない声色。そしてその声の主に気付く。


「あれです!」


 サラが指をさしたのは空だった。その空の姿に、ヘイムが声を漏らす。


「神秘的な光だ。大天使様の登場シーンにふさわしい──」


 彼の言葉通り、天空の雲が真っ白に光っている。そして、そこからホール上の穴が出現し始め、穴の中から一人の人物が出現し、幸一達の元へ通り始めた。


「かっこつけた演出ご苦労。あんたが黒幕の大天使様か」


 大天使が、地上まで下りてきた。

 金髪で、幸一と同じくらいの高めな慎重。

 青い瞳に金髪のロングヘア。無表情だが、今までとは比べ物にならないほど、強い威圧感を出している。


 その人物がどんな人物か、3人は理解していた。


「大天使。ツァルキール」


 ツァルキールは幸一の体をまじまじと見た。そして、気づく。


「ただの人間を、エーテル体に変換? その人物がどうなっても構わないというのですの? ずいぶんと大掛かりな策に出ましたね」


 ツァルキールの言葉に、ユダは平然と、堂々と言い返す。


「当たり前じゃ。今から行う勝負は、お遊戯でもスポーツでもない。世界の命運をかけた、負けた方は即破滅の真剣勝負じゃ。1%でも勝率を上げるためには汚いことも、何だってせねばならん。これくらいの奇策と手段は当たり前のことじゃ。わしより、格式が上の人物ならなおさらじゃ」


「私は、大天使ツァルキール。世界を束ねるもの。ここまでよく戦ってきたと賞賛の域に達します。素晴らしいの一言です。さあ、あとは定めた未来人類の消滅、世界の再編。それだけです」


 その言葉に、幸一が反発。


「そんな定めた未来。俺たちは、決して従わない。どうしても 俺たちがそれを阻止するだけだ」


 強気な口調にツァルキールも態度を固くさせる。


「この私が定めた答えに、反旗を翻すというのですか? あなたたち欲望のままに生きるしかない人間風情が!」



「当然だ! なぜこの俺様の未来を、どこの馬の骨とも知れないやつなどに決められなければならぬ」


 ヘイムの傲慢ともいえる言葉。しかし、幸一もその言葉にわずかながらも同意していた。


「その言葉、俺も同じように考えている。俺たちの未来は たとえ未熟と罵られようと、折り切ってみせる。どんな障害も、強大な災厄も!」


 その言葉にツァルキールは表情をこわばらせた。そして、威圧感をこれでもかというくらい醸し出した表情で言葉を返していく。


「それは、傲慢ですわ。欲望に打ち勝てず、流れるままに生きているあなたたちに、そんなことできるはずがないのですわ」


「ほう、流石は大天使だけあって、大物感が違うねぇ」


 ヘイムの言葉通り、今までであったやつとは威圧感も、雰囲気も違う。

 一国の王様でも、天使でもここまでの存在感を出していなかった。


「身の程知らずというのを具現化したような行動ですね」



「俺たちの未来。それを貴様などに決められる覚えはない。それは、大天使であろうと、人間であろうと同じことだ 」


「そうじゃ。その想いは、ここにいる全員が共有しておる。それだけでなく、この戦いに参した全員、いや、この世界すべての人間がそうなのじゃ」


「知ったような口を──」


 ツァルキールの反論に、ユダは屈しない。自らが、今まで生きて、幸一やそのほかの人間たちと共に過ごして、理解したことを叫ぶ。


「彼らの未来は彼らが決める。わしであろうと、そちであろうと決める権利はどこにもない。貴様はそれを破った。人々の未来を、勝手に暗いものだと決めつけ、多くの人々を傷つけた。 だからわしはそちを裏切ったのじゃ」


「そうです。私たちは、こんなところで滅んだりしない。たとえ一時誤った道を選んでも、また引き返して、正しい道を選びなおせばいい。そうやって、私達は強くなる!」


 サラの援軍のような叫び。ツァルキールは少しの間うつむき始める。

 そして彼らを見て理解した。こんなことでは、彼らを止めることはできないと。



「了解しましたわ。私がバカでした、あなたたちはそれぞれの強い想いを持ってここまで来た。今更こんな言葉程度で止まるわけがないですわね」


「──ああ。物分かりが良くて、助かる」


 ツァルキールは、右手をぱっと上げる。すると、その右手がまぶしいくらいに強く光始め、やがて棒状に光の形状が変わる。

 そしてその光から、一つの剣が出てくる。それは、ただの剣ではない。まばゆいくらいに真っ白に強く光り、神秘的な模様と形状をした剣だ。


「あれは、聖剣サンシャイン・スピリット・ソードというやつじゃ」



 そしてツァルキールはその聖剣を幸一達に向ける。


「あなた達の勇気と、覚悟の強さに免じて。このわたくしの本気の力で、あなたたち心をへし折って差し上げましょう」

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