第206話 思い出して──

 メーリングとルナシーの激闘が終わった一方、次の死闘が、すでに始まっていた。

 ルーデルとシスカだ。


 前方のルーデルに対し、後方で遠距離攻撃や障壁で彼を援護するシスカ。


 急増でコンビを組んだメーリング、ルナシーとは違いコンビネーションはばっちりだ。


 大鎌を持ったナラトゥースとルーデルが接近戦を戦い、後方でつえを持ったグルーンとシスカが互いに援護するコンビネーションを生かした戦い。


 相手は長い大鎌を持ち、長身で不気味な雰囲気をした騎士、ナラトゥース。後方には大きな杖を持ち、醜悪に満ちた姿をしている方がグルーン。


 流石に、自力では魔王軍幹部だけあって劣っているものの、息があったコンビネーションでそれを補っていた。


 互いに致命傷を許さない、互角の戦い。



 そして今も、ナラトゥースの突撃にシスカが遠距離攻撃で対応。ナラトゥースは一歩引くしかない。


 勝負は振出しに戻る。すると──。


 パチパチパチパチ──。


「何だ貴様! からかっているのか」


 拍手をしたのはナラトゥースであった。ルーデルが激高しても、びくともしない。


「からかってなどいないさ。褒めているんだよ。人間のくせに、良く俺たちと互角に戦えるなと」


 ニヤリとした表情でしゃべると、後方にいたグルーンが続けて話す。


「確かに、貴様たちのコンビネーションは素晴らしかった。戦術も。だから、こっちも本気を出させてもらうぜ!」


 そしてグルーンが大きく杖を天に向かって上げる。

 すると、この場所一帯が一瞬灰色に光、元に戻る。


 シスカは、それを見て理解する。敵の罠だと。


「ルーデル──さん。これはたぶん罠です。気を付けないと」


 その言葉を遮るようにグルーンがさらに叫ぶ。ニヤリと邪険な笑みを浮かべながら。


「本来はこいつで、オリエントの奴らを血の海にさせたかったんだが仕方ねぇ。とっておきの戦術。お披露目させてやるぜ!」


 すると、その言葉を聞いてルーデルは表情を一変させる。


「俺の大事な戦友を血の海に……、ふざけるなァ!」


「ルーデル──さん。待ってください」


 激高した彼の姿に、シスカは気づく。わざと挑発しているのだと。しかし、そんなシスカの忠告をルーデルは無視。

 そしてルーデルが距離を詰めようとする。すると──。


 ドォォォォォォォォォォォォン!!


 その瞬間、彼の足元が大きく爆発し始める。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 破滅的な爆風と熱がルーデルを襲い、吹き飛ばされる湯に強いて地面を転がり始める。とっさに防御に魔力を回し、ダメージを軽減させたものの、それでも大ダメージを負ってしまう。


 そして彼が吹き飛んでいる間にナラトゥースはシスカの元へと急接近。シスカは慌てて障壁を張るものの──。


「そんな亀みたいな攻撃で、俺様に勝てると思うなァ──!」


 ナラトゥースはその障壁を飛び越え、無防備な彼女の元へ。強弱なシスカに、ナラトゥースの攻撃を防ぐ手立てはなく、ナラトゥースの回し蹴りが彼女を直撃。



 彼女の肉体はそのまま後方に吹き飛び、岩礁がむき出しとなっている山の壁部分に激突。

 そのままうなだれて倒れこむ。


 ルーデルも、大ダメージを受けている。


「血が上ったバカには、この地雷戦術は効果てきめんだな」



 グルーンがにやりと笑みを浮かべながら叫ぶ。彼使ったのは。地雷。それも空中に設置され、発動すると、ステルス化し、見えなくなる性質を持っている。


 そして触れると大爆発を起こす。これを可視化させるためには精神を集中させ、魔力を研ぎ澄まさせなければならないが、宿敵である魔王軍を目の前にして、頭に血が上っている彼にそんな発想はできなかった。





 結果的に敵の策にかかってしまい、歯ぎしりをするルーデル。


 倒れこみながらルーデルはシスカに視線を置く。

 シスカが、息も絶え絶え、衰弱しているのがわかる。


「私は、まだ戦え……ます」


 シスカが、息を荒げながらゆっくりと立ち上がった。おそらく、次今くらいの攻撃を食らえば、もう立てないだろう。その時点でルーデルも、後方からの援護をもらえなくなり、勝負は決まる。


「ほう──、まだやるという目をしているな」



 ナラトゥースはシスカの眼を見て感じる。消耗しつつも、まだ闘志を失っていない、強気な眼差し。


 彼女が戦う意思を持っているのは明らかだった。

 ルーデルも同じタイミングで立ち上がる。


 自分が不用意に突っ込んだせいでこんな危機的状況になってしまった。


(くっ──。俺が冷静さを欠いたばかりに──)


 頭を冷やし、拳を強く握る。復讐のあまり、盲目になり、敵の術中にはまってしまった。

 その結果、シスカが大きなダメージを受けてしまった。

 激しく後悔するが、時すでに遅し。


 どうすればいいかと、途方に暮れている。


「ルーデルさん!」


 誰かの叫び声が聞こえだす。



 シスカが後方から叫んでいるのだ。

 そして、その時のシスカの口調にルーデルは大きく驚いた。


「思い出してください。確かにルーデルさんは、彼らに尋常じゃない憎悪を持っています」


 シスカがここまで強い物言いしているのは、今までなかった。

 いつも人見知りで、気弱な性格。

 弱気なかすれた声で話している彼女が、今は強気で話しているのだ。


 ルーデルのことを想って。


「ルーデルさんの過去を知っていれば、そこまで彼らに憎悪を抱いているのは理解できます。でも、流されないでほしいんです。その感情に取りつかれて、むき出しにしていたら、戦況も、自分も見失ってしまうます」


 シスカの言葉に、ルーデルがはっとする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る