第198話 本当に、戦うの?

「無理させて。あなたたちが命懸けで戦っていたように。私も戦いたい。力になりたい!」


 彼女の体が震えている。相当答えているのがわかる。そして彼女はふらふらとめまいをさせた後、膝をついてしまう。


「ルナシー、大丈夫?」


 幸一の心配、ルナシーは肩で息を荒げながら言葉を返す。


「私じゃ、ダメなの? 力には──なれないの?」


 するとそれを見たメーリングが一つの事実に気付く。


「確か、これって龍に選ばれた力をこめるのよね?」


「はい……。ハァハァ──、そうです」


 ルナシーが、息を切らしながらメーリングの質問に答えた。


「だったら、私とイレーナの力も、一緒に込められるんじゃないの? 一人では無理かもしれないけれども、三人ならできると思う。イレーナさん。お願い!」


「──わかった」


 そしてメーリングは、イレーナに視線を送る。二人は恐る恐る前に出た。それを見たルナシーも何とか立ち上がり、石板に視線を送る。


 石板を前に三人が立ち──。


「それでは行きますよ。イレーナさん、メーリングさん」


 イレーナ、メーリング、ルナシーが 祈りのポーズをとる


 神経を集中させ、自分の中にある魔力を意識。そしてその力を込めて、自身の中でイメージする。


(お願い。石板よ、開いて!)


(幸君、ルナシー、私だって力になりたい!)


 その魔力を強大化させ、目の前にある石板にぶつけることを。

 そして数十秒たつと、ここにいる全員がその変化に気付く。


「光ってきたな」


 幸一の言葉通り、再び石板が眩しいくらいに強く光り初めてきたのだ。ルナシーが一人で無理していた時よりはるかに強く。


 そして、その光は徐々に強くなっていき──。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──!!


 パッと音を立てると、ここが昼間の屋外だと間違えるくらいに強く、まぶしく光り始めた

 のだった。


「やった……。開いた」


 ルナシーの顔に笑みがともり始めた。

 額に汗を流しながら周囲を見回す。その姿を見るだけで、彼女が相当消耗しているのがわかる。


「これからは、私達も頼りなさい。私達だって、この世界を守りたい気持ちは同じなんだから」


 メーリングの、優しい微笑を浮かべながらの一言。ルナシーはその女神のような笑みにはっとしながらも、頭を下げる。


「はい、ありがとうございます」


 そして彼らの視線は、出現した道の先へと吸い込まれていく。


「道の先に、光がある。行ってみよう」


 幸一の一言で、彼らは道を進む。

 真っ暗ではあるが、道の先に、蛍の光のような明かりが一つ。


 数分でそこにたどり着く







 辿り着いたのはさっきと比べ物にならないほどの大広間。

 そこでは、先ほどの石板のような雰囲気の壁画や古代文字などが部屋の壁にびっしりと描かれている。


「気配がするな。俺様に恐れをなしたのか? そろそろ出てきたらどうだ?」


 ヘイムが叫ぶと、大広間の檀上、上座のような場所にまぶしいくらいの光の柱が出現。


「ようこそ、私達の本拠地へ」


 そして光の柱から、ひとりの人物が現れる。


「初めまして。わたくしは天使『アルミール』と申します」


 純白の衣装。長身の大人の女性のような印象。ロングヘアで、細身。


「俺たちの目的は、わかっているな?」


「はい、ここに来たということは、私達と戦いに来たということですよね」


 当然だ。そして周囲にピリッとした緊張感が走る。

 アルミールは無表情を貫き、自分のことを話し始めた。


「私は大天使様に仕えていました。彼女のもと、世界に正義をもたらし、世界を平和に導くと私は信じておりました。しかし、理想は破れました。俗物と化した人類、彼らを野放しにしてはいけません。滅ぼして、再生させるのです。」


 無表情を崩さないながらも、どこか悲しそうな表情になる。

 その表情から、幸一とサラが何かを察した。


「アルミールだっけ。質問があるんだけど、いいかな?」


「なんでしょう。怖じ気図いたのですか? 許しを乞いたいというのですか?」


 アルミールは、一見すると、強気な表情で幸一達を威圧。しかし、その中にあるどこか迷いを感じさせる仕草を、見逃さなかった。

 幸一の言葉に乗っかる形で、サラが質問を進める。


「アルミールさんが、どう思っているかが知りたいんです。大天使でも誰でもなくて、あなたがどう思っているのか」


 二人が気づいたのは、アルミールの本心。


 彼女は、本当は戦いたくないのではないか。アルミールが、大天使と共に戦っているときの表現。それがどこか他人事のように、かかわりたくないという風に聞こえたのだ。


 自らの体をボロボロにして相手を倒すのも、今ここで説得して戦いを避けるのも、敵を一人減らしたという事実は同じ。


 ましてやこれから、より強い敵と戦うことが予想される。



「アルミール。お前、本当は戦いたくないんじゃないのか?」


 心臓を貫くような鋭い質問。彼女に戸惑いの表情が出ているのがわかる。

 視線をうつむけさせ、暗い表情。

 彼女の瞳にうっすらと涙が出始める。


 そしてゆっくりと、アルミールは語り始めた。


「素晴らしいです。皆さん、強がりは、隠し通せませんね。確かに、今の私にあなたたちと戦うという選択肢はとれません」


 確かにそうだ。と幸一は納得。アルミールは彼らと出会ってから戦おう素振りや気配を全く見せていなかったのである。


「それでも、私は大天使様と、ずっと戦ってまいりました。今さら敵対するということはできません」


 彼女自身は戦いたくないというのは理解できた。そして、彼女自身で、どうしようもないことがあるというのも──。


「それで、どう……するんです──か? アルミールさんは」

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