第193話 決戦の前

「その通りです。簡潔に言いますと、私天使に選ばれた存在なんです。ねっメーリングさん、イレーナさん」


 その言葉に二人は驚いて言葉を失ってしまう。


「ど、どうしてそんなことがわかるの」


「イレーナさん。会ったこともないのにどうしてって表情してますね」


 イレーナは言葉を失う。まるで心を読まれているような感覚。


「私だって、数々の死線を潜り抜けてきました。そのせいかわかるんですよ。その人物を見ただけで、どれくらい魔力を持っているのか、どんな力を持ったいるのか」


 そういうと。ルナシーは立ち止まる。そこにはさっきまでの急ごしらえの家屋よりずっと大きい神殿のような建物。


「ここが、目的地です」


「あれ? これは、昔からある建物なんですか?」


 さっきまでの動物の毛皮や木でできた建物ではなく、四角い意志を積み重ねてできた建物。歴史を感じさせるつくり。

 マヤのピラミッドのような形をしている。


「そうですサラさん。ここは代々私たちが、砂漠の外の国と戦争になった時に参謀本部として使っていました。魔王軍との戦いは、その時とは違い毎日が戦争状態。なので日常的に戦争体制を築けるようここを拠点にしていたんです」


 そして遺跡の壁に、ルナシーが手をかざす。すると、遺跡自体が強く光りだす。


「ど、どういうことなの?」


「こういう事です。イレーナさん」


 何とルナシーの目の前にある壁がゴゴゴと音を鳴らし始め。下の部分に沈んだのだ。


 そこから見えるのは、壁が白く光る道。


「さあ、もう少しです」


 そしてルナシーはその道を進む。


 道の先には、広くて大きな部屋。壁には天使たちらしき絵。神秘的な模様。神々しさを強く引き出している。


「とりあえず、現状と今後について簡潔にご説明します」




 そしてオホンとルナシーが咳をし。現状について話し出す。


「ここから北のエリアには、かつて私たちが住んでいたオアシスがありました」


「ああ、知っている。俺の生まれ故郷だ。今は、廃墟になってるがな」


 ルーデルは歯ぎしりをしている。幸一達は察する。それほどまでに、彼は憎しみに取りつかれているのだと。


「平穏な生活を送っていたある日。魔王軍が襲来。突然の襲来に私たちは壊滅的な被害を受けました」




「そして、オリエント地方が絶望の戦いに瀕しているところに現れた救世主が、この俺様ということだ! なあ、ルナシー。ロンミル」


 ヘイムは、自慢げに叫び高らかに笑う。


「その言葉に、ウソ偽りはありません。ヘイム様がこの地に来て、私達と共に戦うようになってから、戦況は一変しました。魔王軍の進行を食い止め、逆に戦線を押し返しました」


「そして、今では村があった場所は奪還。その先まで戦線を広げて、見えて来た──」


「俺たちの村を、滅ぼした正体がか──」


「そうだ、ルーデル。敵が攻めて来る場所をさかのぼっていくと、あった。魔王軍が来る前にはなかった、巨大なる遺跡が」


 ロンミルの言葉の意味を全員が理解する。そここそが、魔王軍の本拠地であることを。


「その中心にある遺跡に、俺たちは乗り込もうということだ!」


「なるほどなロンミル。それで、具体的な作戦はあるのか?」


「ああ……。まず、遺跡の外側にいる敵。こいつらは比較的強くなく、俺たちの部隊でも戦える」


「そこの魔獣を、村の部隊たちと戦わせる。幸一さんやヘイムさんたちは、戦わずに魔力を温存し中へ入っていく。そういう事ですか?」


「察しがいいです。外を取り囲む敵、中にいる雑兵はできるだけ私たちが片づけます。幸一さんやヘイムさん達は万全の態勢で、強力な魔王と戦っていただきたいのです」


 話は具体的な内容に入っていく。ヘイムが、以前な中に入ったことがある経験が生きた。



 作戦会議は30分ほどで終わる。


「日にちは3日後。私達も、持てる戦力をすべて投入します。幸一さん、ヘイムさん。皆さん、この村の、いえ、世界のため、協力をお願いいたします」


 そういってルナシーは深々と頭を下げた。



「とりあえず、これで説明は終わりです。皆さん、長旅による疲れもあるでしょう。部屋を用意しておりますので、どうぞ休んでください」




 そして幸一達はこの遺跡を出た。




 食事として、大広間に案内され、ゲバブなどの独特な料理と、お茶をいただく。

 その後、案内人によって、止まる部屋を紹介される。


「とりあえず、部屋は男女別にした方がいですよね。今準備します」


 ルナシーの言葉に、幸一は手を上げた。

 魔力をためるのに幸一とイレーナは手をつないでおかなくてはならない。となれば、恥ずかしいが答えは一つだ。


「俺、イレーナと一緒でいいかな?」


「はい、それは大丈夫ですが……」


 戸惑うルナシー。イレーナははっと顔を赤面させる。


「こ、こ、こ、幸君! それはさすがに……」


「こ、これはこの前のお詫びだよ──。変なことはしない、それに、手はつないでおきたいし、話したいことがあるんだ。だから、いいかな?」


「あらっ。戦いはこれからなのよ。恋人ごっこはそれからでも遅くはないでしょう。のろけさん!」


 すると、メーリングが、からかうような笑みで話に入ってくる。


「あっ。そういう事じゃなくて……」


 あわあわと弁解する幸一に、恥ずかしさでうつむいてしまうイレーナ。

 そして、三人をきょろきょろ見ながら案内人は……。


「と、とりあえず大丈夫です。私はこれで──」


 そう言ってお辞儀をし、この場を去っていく。



 そして、メーリングとサラ、シスカは向かい側のキャンプへ。



 幸一はイレーナと一緒に、キャンプへ入る。簡易的な机とベッドが2つあるくらいの急ごしらえの部屋。


 長旅の疲れから、2人は荷物を机に置き、ベッド上に隣り合わせに座る。

 そしてベッドに身を投げる。


 何か話そうと思うも、疲れからか、手をつなぎながら二人とも夢の中に入ってしまった。



 その後、目が覚めたのは夜だった。


 ルナシーの声かけによって目覚め、夕食を食べる。



 幸一はとあることを思いつく。


(彼女たちは、ちょっと話を聞いた方がいいか)

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