第179話 もう一つの戦い
幸一達が激戦を繰り広げているころ。
イレーナとルーデル、ルチア、シスカと魔王軍の兵士「キノトグリス」達と戦闘の戦闘が始まったところだった。
相手の実力はそこまでではない。以前戦った「トリシューラ」などの大型魔獣より数段劣っている。
しかし──。
「なにこれ、こんなの初めて」
真っ先に先制攻撃を仕掛けようとしたイレーナが、思わず膝をつく。
体が鉛のように重く思うように身動きが取れない。
(えっ? なにこれ──)
困惑するイレーナに敵の一人ソトスが急接近し自身の持つ兵器「死の大鎌」を振りかざす。
イレーナは慌てて身を後方に投げ何とか攻撃をかわしていく。
それを見た全員が一回距離をとり、身を寄せ合うとルーデルが叫ぶ。
「これがこいつらの得意技だ。一番奥にいるトルネンブラというやつが発する衝撃波。あれは闇、光の力を持っていない魔力を弱体化させることができるんだ」
「ルーデルさん、知っているってことは戦ったことあるんです……か?」
「ああ、それを知らずに勇猛に戦った多くの仲間が散っていった。初見殺しってやつだ」
その言葉を聞いてうつむいて複雑な表情をするシスカ。
「本来はそいつからやっちまえばいいんッスけど」
ルチアが敵たちを見ながらささやくが、彼らだって敵がそう来る予測はついている。
他の味方4人が、トルネンブラを守るように前線にいるからだ。
現にイレーナたちが後ろに距離をとっても先頭にいる「ソトス」と「イドラ」は追ってこない。
「では人間たちよ、行かせてもらうぞ」
そう叫ぶと「アブホース」が自身の平気である黒く染まった杖を振り下ろす。
漆黒の力、悪夢の豪雨となり、降り注げ!!
ナイトメア=スコール
そしてイレーナたちをめがけて無数の真っ黒な砲弾が無数に放たれる。
その攻撃をはじくように後方のシスカの魔力砲が放たれる。
だがその攻撃はいつもよりどこか弱弱しく、精細もかけていた。
現に
「すいません、やっぱり力が出ない……です。いつもよりうまく援護できないと思う……です」
シスカは歯を食いしばり苦々しい顔つきでささやく。
「だったら、私が仕掛けなきゃ!!」
イレーナは何とか攻撃を防いだ後、視線を前方にいる「イドラ」に向ける。
次の瞬間、前に向かおうとしたところを「ソトス」が襲い掛かる。
「うそっ──!」
イレーナはすぐに攻撃を受け止めるが、今まででもトップクラスに重くて強力な一撃に驚く。
さらにソトスの攻撃は止まらず機関銃のような連続攻撃を仕掛けてくる。突き、切り落とし、薙ぎ払い。
攻撃は鋭く速い。イレーナは体の動きが落ちているが防御に徹し、何とか有効打を防ぎきる。
接近戦に強いイレーナですらトルネンブラの魔術で弱体化され苦戦しているのだ。
(そうだ、ルチアちゃん──)
イレーナが慌ててちらりと左に視線を向ける。すると──。
ぐわぁぁぁぁ──!!
ルチアが「イドラ」から斬撃を浴びて体ごと吹き飛んでいるのが見える。
もともと戦闘には向かない彼女、おまけの思うように動けない状態では荷が重かったようである。
イドラはルチアに追い打ちをかけようとイドラが振りかざした。
その瞬間間にルーデルが割って入る。ルーデルが自身の剣で振り下ろしの攻撃を受け止めるがその瞬間ルーデルの胴体に強い蹴りを見舞う。
(まずい──)
ルーデルはすぐに後方に身を投げ攻撃をかわす。しかしそのスキを逃さずイドラが追い打ちをかける。
(あの二人を相手に有利に戦っているなんて──)
イレーナが驚いたのもつかの間、キノトグリスの肉体が強く漆黒に光りだす。
そして──。
どす黒く、強力な魔力を伴った強力な屋があられのようにイレーナたちに向かってくる。
それに対抗しようと
「魔力が、弱ってなければ、戦えるのにです……」
歯がゆい思いをかみしめながらシスカが目いっぱいの魔力を使い攻撃を放ち対抗しようとする。
聖なる加護の力、救済の矢となり怒号の力を上げよ!! テンペスト・アロー
ゲリラ豪雨のような弓矢の嵐。
しかし──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
攻撃を防ぎきれずイレーナたちは後方に吹き飛ばされてしまう。イレーナとルチアは壁にたたきつけられ、ルーデルとシスカは道を十メートルほど転げまわり倒れこんだ。
「じゃあ、次で終わりだな……」
アブホースがそうつぶやくと自身の杖を大きく振り上げる。全員が理解している、放たれるのはこの戦いを決めるための大きな術式だと。
「打つ手が、ないです……」
「こんなんで、終わるわけにはいかないッス」
シスカにそこまでの力はない。イレーナやルーデルが突っ込んでも攻撃を防ぐのは難しいだろう。
「あばよ──」
今までにないくらいの強力な魔力がこもった黒い大砲それがイレーナたちに向かっていき──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
さっきの倍以上の威力をもって大爆発を起こした。
イレーナたちにこの術式を防ぐ手立てはない。勝利を半ば確信。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
そして煙が晴れる。
「まったく、あんたたちは卑怯な手を使うわ」
「……サリアちゃん?」
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