第178話 私が戦わなくって、どうするのよ!!
アンデラは魔力の供給を上げる。サラは全力を出すが押され気味になってしまう。
「うっ、うぅぅ……」
徐々に押され気味になる。
「人間と天使じゃ、根本的に造りが違う。思い知れ!」
何とか押し負けないように精一杯の魔力を供給するサラ。
苦しい表情をするさらにメーリングはうつむいて考えこむ。
何度も抵抗しようとした。でも抜け出すことはできなかった。
しかし──
(自分を見捨てたはずの親友が、自分のために必死になって戦っている。戦う体力が無く、いつもは裏方でちょこんとしていただけのサラが、圧倒的な力、人間では絶対にたどり着くことが出来ない存在である天使を相手に一歩も引かずに──)
それを見たメーリングが出した答えは一つしかなかった。
「私が戦わなくって、どうするのよ!!」
メーリングも、自身の魔力をひねり出してアンデラの魔術に抵抗し始めた。
(もう、アンデラなんて怖くない!!)
否、乗り越えてなどいない。恐怖は残っている、両足に震えが残っている。それでも懸命にあらがう。
この世界のために、自らに課せられた、彼女の奴隷になる運命。それを乗り越えるために。
メーリングもアンデラを睨みつけながら、精いっぱいの抵抗を見せ始める。
それを見たアンデラはほくそ笑む、馬鹿にするようにニタニタと笑いながら叫ぶ。
「無駄だ。私と組んだ時点で、すでに貴様の運命は決まっているんだよ。私の下僕となり、世界を滅ぼして、理想の世界を作るために動くと言う使命がな」
「私の運命は、この世界の運命は、あなたになんて決めさせない!! 私の未来は、私が切り開くもの。この世界の未来は──、この世界の人達の意思で決める物!! 私達はあなたの命令通りに動く人形じゃない!!」
「そうよ、頑張って! 私もついてる」
サリアも感情をこめて思いっきり叫ぶ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
メーリングのその声、そこに今までのようなあきらめの文字はなかった。どんな荒波でも、嵐でも自分の意思で未来を切り開こうとする強い意志。
その力をそのまま魔力に込める。
メーリングとサラの力、それが少しずつではあるがアンデラの力を押し始める。
「何!! この私の力が、天使である私が──、押されているだと??」
アンデラも全力でメーリングに命令を送り込む。いつもならここでメーリングの抵抗に競り勝ち彼女を操っていた。
人間と天使、所詮人間風情が天使にかなうわけがない。それは人間が重力にあらがえないのと同様、いつの時代変わらない法則のようなもの。
しかしアンデラの魔力は押されたまま。
そして──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
(馬鹿な、私の魔力が、負けただと、天使であるこの私が)
アンデラの肉体は数メートルほど吹き飛んだあと。メーリングを覆っていた魔力が消える。
「運命を、打ち破った?」
メーリングは驚いて表情を固まらせる。今まであらがえなかった力、それを初めて弾き飛ばした。
(やっぱり、私は──)
それを見たサリアが何かに築く、切なく何かを悟ったような瞳。そして幸一とメーリングに耳打ちし始める。
「わかった」
幸一は首を縦に振る。
一方アンデラ。
「やるじゃねぇか──」
アンデラがゆっくりと立ち上がる。
その目をみて幸一達全員がおびえだす。
さっきまでのような相手を見下す様子はない。対等な敵として、本気でこちらを抹殺しようとする目だった。
そしてアイヒも一歩へ出て幸一とメーリングをにらみつける。戦う意思を感じたメーリングが彼をにらみ返す。
「聞いたことがないわ。あんたが戦えるなんて」
「まあ、俺一人では貴様とは戦えない。だが俺にはこいつがいることを忘れていないか?」
するとアンデラがアイヒへすっと手をかざす。
「もうお前たちを隠したなんて考えない。俺様の最高の戦術と力で、ぶっ倒す」
「おおっ、感じるぞぉ。絶大な魔力が」
彼の肉体に人間とは思えない魔力が充填されているのがわかる。
サラは身の危険を感じ、幸一たちの後ろに移動。
そして──。
「これでいい」
「天使の力を自分に? どんな代償が来ても知らないわ」
「構わん。どのみち、負けたらつかまって死刑間違いなし。お前たちを消し炭にすればそれで満足よ!」
幸一もメーリングも、戦うしかないと腹をくくる。
対峙してにらみ合う4人。
「じゃあ行こう、メーリング」
「ええ、私たちは、勝つ」
そして彼らの、戦いが始まる。
世界の運命をかけた──。
メーリングたちが戦い始めたころ、一人来た道を早足で返す人物がいた。
茶色で短髪の少女サリアだ。
一つはメーリングたちのことを他に知らせる役割。
もう一つは、彼らがもしも帰ってこれなかった場合、アイヒや天使たちのことを伝える役目だ。
というのもあるが。自ら幸一とメーリングに申し出たのだ。
私は身を引くと──。
怖じ気づいてはいない。もし逃げ道がなく、戦わなければいけない状況なら迷わず戦っていた。
だがあの場に残るにはふさわしくないと考え身を引いた。
サリアは思った。
覚悟が足りない。中途半端な自分がいても、足を引っ張るだけだと。
三人は、それこそ燃え尽きてもいいくらい、すべてをかけて戦っていた。それだけの理由が彼らにはあった。
確かに物語の主人公のような大義名分がなくても、目先の利益や使命感でひとは戦える。
しかし、さっきのサラの時のような、勝ち目がほとんどない難局や強敵に挑むとき、自らの本当の覚悟が試されることも知っている。
それくらい強い覚悟がなければ、自然と体は背を向け、逃げだすだろう。最悪人質となされ、彼らの足を引っ張ってしまうだろう。
メーリングたちが戦っている相手とは、そういった相手だ。
いつか彼らのようになりたいと。心の底で強く感じて道を歩いていた。
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