第171話 三人の、本当の秘密

「ちゃんと説明するから。話しを聞いて!!」



「私も心配していたんっすけどねぇ……、まさか敵と乳繰り合っていたなんて、勇者さん結構ハーレム好きなんすねぇ」


 ルチアはニヤリとからかう物言いで言う。


「とりあえず後で裁判するから、とりあえず死刑で」


 ジト目に変わったイレーナの言葉に幸一は突っ込む。


「ち、違うんだって。ここに来たらすでにメーリングがこんな姿になっていて……その──」



「英雄色を好むとは言うが、こんな時に一番警戒している敵とこんなことをしているとは──。そこまで性欲が抑えられなかったのか」


 ルーデルが額を抑え、無表情で囁く。


「幸一さん、ああいう胸の人。好き……」


 シスカは自分の胸を押さえながらがっくりと囁く、




「とりあえず、話の本題に入りましょう」


 サラがオホンと咳こむと、一気に真剣な雰囲気になる。

 そしてメーリングがバルトロとの関係を告白。彼女が支配下にあることも話す。


「そ、そんな……。どうにかならないの?」


「無理よ、気づいた時にはもう遅いんだもの。みんなが傷ついて、傷つけた時の記憶がよみがえって……、いつも自分が発狂しないように耐えるので精いっぱいなんだもの──」


 メーリングはそっぽを向きながら答える。


「私だって何とかしようとしたわ──。全部無駄だったけれど」


 その言葉通り彼女は何度も抵抗した。

 しかしそのたびに失敗し、逆に罰として必要以上に無実の人達を傷つけたりすることになって自責の念にかられたりしたのだ。


「感情なんてあったら私は何十回も発狂して廃人になっているわ」


 ややうつむきながら言い放つその一言。彼女の瞳にはあきらめの色と、うっすらとした涙がにじみ出ていた。



「メーリング──」


 サラがゆっくりと近寄る。物静かながらもどこか気迫を持った様子に、メーリングが一歩引いてしまう。


「メーリングにそう事情があるのは良くわかった。でもそれだけなの?」


「どういうこと?」


 サラの表情が険しくなる、メーリングは感じる。こうなったサラは誰にも


「メーリング、教えてよ。絶対まだ何か隠してるよね??」


「サ、サラ……」


 その気迫に彼女が一、二歩後ずさりする。



 サラが必死になって彼女に詰め寄る。サラは確かに弱気で人見知りな性格だがここぞというときは決して引かない強さがある。


 あの詰め寄り具合からして今がその時だ。

 それがわかっているからイレーナも幸一もルチアも何も言わなかった。言っても無駄だと。


 そしてその雰囲気をメーリングは感じ取り覚悟を決める。


「──サラには負けたわ。すべて話すわ」


 そしてメーリングはサラたちに視線を向け静かに口を開き始める。



 彼女たちは貧困層の住むエリアで生まれ育った。

 治安が悪く警察などの治安維持機能が全く喪失したこの地区では、力と暴力だけが唯一信じられるものだった。


「私達は決心したの。自分たちが強くなって、この街を、みんなを守るって」




「──うん」



「はい私達は強くなる事を決めたッス」


 サラとルチアがコクリと頭を下げ同調する。

 守るためには強くなければならなかった。三人は必死になって自らの魔力を磨いた。



「メーリングが魔力に覚醒しました。その強さは圧倒的な物で周囲に誰も逆らえる者はいなくなりました」


「そういえばギルドや教会からスカウトが来ていたッスね。大金の代わりに俺達の力になってほしいって誰もがメーリングに言っていたッス」



「私も、メーリング程ではないッスけれどそれなりに戦う力を手に入れたッス。けど──、サラだけは戦いに使えるような力が手に入ることが出来なかったッス」


 ──コクリ。


 サラは再び無言で頭を下げた。



「そして私とメーリングは決心したッス。二人でこの街のみんなを守ると誓ったッス」


「けれど、物語はそれで終わらなかったわ」


 ルチアとメーリングの表情が暗くなる。その表情から彼女たちがその後どういう運命をたどったかを、ここにいる全員が理解する。


 まず圧倒的なメーリングは警戒されるようになった。いつの間にか彼女の周囲には秘密警察などが寄り付き始める。

 それだけでなく、彼女の強さを悪用出来ないかと──。


「毎日のように、一般人に変装した特殊警察の人が偵察をしていたッス。住民たちがおびえた目つきをしていたのが今でも記憶に残るッス」


 そしてそれだけではなく……。


「狙われたのよ、サラの能力が──」


 サラの能力は幸一も知っている。主に知識などに関する魔力で、戦闘向きではない。本人の基礎体力の低さも相まって彼女は裏方での活躍が主な役割になっていた。


「けどそういう力って冒険者の中でも貴重な部類なのよ。ひょっとしたら天使や魔王軍に関係する強力な力が関わっているかもしれない、その答えに政府関係者がたどり着くのにそこまで時間はかからなかったわ」


 サラがその言葉に驚愕し表情が固まる。


「うそ……。狙われていたの?」


 驚くサラ。当然だ、そんなことサラは聞いていなかった。特殊警察たちが時々偵察らしき行為をしていたのは知っていたが、あれはメーリングを見ている人だと感じていたからだ。


「あたりまえじゃない。教えなかったんだもの。そんなこと教えたらあなた自分を追い込んじゃうでしょ?」


 サラは返す言葉が見つからない。その通り、サラは自分に非がなくても何かあると自分を責めてしまう傾向が強い。


 今回ももし事実を教えたら、サラは自責の念に駆られ、自ら身を差し出すことだってやってしまうだろう。


「サラ、あやまるッス。だから黙っていたッス」

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