第161話 熱い約束。かならず守る!
「うん、シスカちゃんの言う通りハンターの人と出会って話をしていたの。そしたらね──」
ハンターたちは互いに視線を合わせイレーナ達にしゃべり始める。
「最近、この辺りを政府の冒険者の人がよく通りかけるのを見かけるんだ」
「会話をこっそりと聞いてたら、入口がどうとか、精霊体とか実験とかいろいろ出て来たよな」
「ああ、何かいろいろ話していたな──」
その言葉にルーデルが反応する。
「そいつらがどの方向にどこから向かっていくのかを聞いてみた。するとだ」
「街の方から、山のある方向に向かって言ったです」
「シスカちゃんの言葉を信じるとなると、あの林から山に向かっていくと切り立った崖につきあたるはずッスよ」
ルチアは腕を組んであのあたりの地形を思い出す。あのあたりは山へ向かう道は無く切り立った崖に阻まれていたはずだった。
「とりあえずみんなでそこにいってみようよ。何かわかるかもしれないから──」
「そうだね、サラちゃん。他に手掛かりなんてないしね」
イレーナの言葉に周囲に異を唱える者は無く、明日は特にようもないのでそこに行くことになった。
そしてルチアがこの場を去り全員がシャワーを浴びた後、幸一はとあることに気付く。
「サラ、イレーナはどこに行ったの?」
「イレーナちゃんはさっき外に出ていったけど──」
サラのその言葉に幸一は違和感を感じる。イレーナがいなくなって時間が経っているからだ。
(ちょっと心配だな──。見てみるか)
幸一はイレーナの事が心配になり表に出てイレーナを探す。そしてホテルの裏の人通りが無い場所に行くと彼女はいた。
「イ、イレーナ、どうしたの?」
「な、なに幸くん」
ちょこんと体育座りで道端に座りこんでいる。
顔を膨らませ、うつむいているのがわかる。
がっくりとうなだれ肩を下すとかすれたような声で彼女は叫んだ。
「作戦なのはわかってる。でも一緒に入れないのがずっと続いていて──」
(あっ、確かにそうだった──)
幸一がとある事実に気付く。
「胸が苦しいの。幸君ともっといたいって体が叫んでいて、つらいの」
イレーナはそう囁くと涙目になりうつむいてしまう。
彼女の弱気な姿を見て幸一は目をそむけ考えこんでしまう。
今まで初めての潜入捜査、メーリングという強敵が現れた事もありイレーナの事を考える余裕などなかった。
結果、彼女をないがしろにする結果となってしまった。
その事実にようやく気付いた幸一はどうすればいいか悩む。沈黙の流れがこの場を支配し始める。
(どうしようか──)
2~3分ほどすると幸一はイレーナの隣に体育座りで座り始める。
そして頭をなではじめた。
「その──ごめんね。イレーナと話したり、出かけたりすることができなくて」
「幸君──」
イレーナは予想もしなかった行動に顔を真っ赤にしドキドキし始める。
「だから、この作戦が終わったら二人でデートしよう」
「デート!!」
「うん。俺、イレーナの事絶対忘れたりしてないから。大切な人だって今も思っているから!!」
その言葉にイレーナは顔が赤くなり心の底からにっこりと笑みを浮かべ出す。
「あ、ありがとう」
すると幸一はイレーナに接近し両肩に手を置く。
イレーナは顔を真っ赤にして体をフリーズさせてしまう。
そして──。
(……えっ)
ぎゅっ──。
幸一はそのままイレーナを抱きしめる。今の自分の気持ちを表現するように強く体を密着させ、耳元で囁く。
「でも、イレーナへの気持ちは全く変わっていないから。だからこの一件が終わったら、以前みたいにまた付き合おう──」
「──幸君」
そして幸一はいったん体を話しイレーナの手をぎゅっと握る。
互いの指と指が絡み合う通称「恋人つなぎ」。
そして自身の顔をイレーナの顔に接近させ──。
チュッ──。
(……!?)
イレーナの唇にそっと口づけする。予想もしなかった行動しイレーナは思考をフリーズさせ何も考えられなくなってしまう。
「だから、今は我慢して。みんなを救う王女様!!」
幸一がにっこりと笑いながら言う。
その言葉にイレーナははっとする。そして思い出す、自分たちが誰のために戦っているのかを、故郷や自分を慕ってくれた人達、彼らを魔獣から守るためにこうしているのだと。
「ごめんね、幸君。私わがままばっかり言って」
「いいんだ、こっちこそもっとイレーナの事気にかけてあげるべきだった。反省するよ」
「私、頑張るから。幸君も頑張って、それでまた今度デートしよう!!」
イレーナはこぶしを強く握り叫ぶ。幸一はその声にフッと微笑を作り言葉を返す。
「わかった、約束するよ!!」
心の底から叫ぶ。今は出来ないけれどこの任務が終わったら再び恋人関係に戻ると。
熱い約束。必ず守ると誓い二人はホテルに帰って行った。
二日後。幸一はイレーナ、ルチア、ルーデル、シスカ、サラと一緒に郊外の林を歩いていた。
先日噂になっていたこの辺りにある洞窟を見つけるためだ。
広葉樹が生い茂る森、時折シカや野良猫などの野生動物を見かける。
けもの道を周囲に警戒を配りながら幸一達は歩いていく。
「この辺りにあるのか?」
「うん、もう少し歩くと出てくるよ」
イレーナはハンターの証言を再び思い出す。確かこの辺りの事を言っていたはずだと──。
「確かあのあたりだ」
ルーデルが指差した先、それは林の先にある切り立った崖だった。
「確かあのあたりにあるはず……です」
「そうか、わかったよシスカ」
そしてその言葉通り高地たちはけもの道を進み崖の近くまで接近する。すると──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます