第95話 大型魔獣「カクタス」

周りも奮闘、サイクロプス達は次々と消滅していく。冒険者たちは善戦し戦況は優位に進んでいった。遠目に見ていたサラでもその戦況は理解できるほど分かりやすかった。


「みんな、善戦してるみたい。頑張って──」


 いつもと比べてやや大きな被害は出た物の召喚されたサイクロプス達はほとんど消滅。そして皆が感じ始める、この後にはさらなる大型魔獣が登場する時間だと──。



 ざわざわとした雰囲気がこの場を包み始める。そして空が漆黒に光り始める。それを見てここにいる誰もが理解する。


「来るわ、大型魔獣が──」


 青葉の囁くと空が紫色に光り始める、そして召喚される。その大きさと威圧感に冒険者たちは圧倒され息をのむ。


 ぱっと見はサボテンに見えるが筋肉質な腕と足が生えている。身体は抹茶色で40メートルほど。

 その姿を見てサラが資料からその存在を思い出し幸一達に話す。


「あれは確かカクタスです。サボテンの形をしていて体中に棘がついています」


「気配でわかる。今度俺達が戦う魔獣は今までの魔獣よりはるかに強い」


「そうか──」


 へイムのその言葉を聞いて幸一はカクタスへの警戒を強める。


 カクタスが全身の棘を周囲にまるで機関銃のように連射する。冒険者たちは各自防御術式を発動させ攻撃に備える。しかし──。


「うわああああああああああああああああああああ」



「何これ? 強い」


 冒険者達の約半数はあまりの威力に防御壁を破壊されまともに攻撃をくらう。そして戦闘不能になる。直ちに救護班の兵士たちが現れて彼らを担架で運び出す。



 そして残った者たちの戦いが始まる。



 氷結なる光輝かせ、その無限の光で寄せ来る敵を打ち砕け!!

 ブリザード・ガントレット  ──連撃のアイス・フレーク──


 マシンガンのように氷の球を無数に連射させる。


 しかしカクタスは障壁を展開。青葉の放った攻撃はカクタスに直撃することはなく防がれる


「今よ、イレーナ。いっけえええええええええええええ」


「うわああああああああああああああああああああああああ」



 その攻撃はおとりだった。そのスキに背後からイレーナが両足に魔力を集中させ一気に飛び上がる。その瞬間青葉が再び魔力ろ込めて攻撃を始める。


 氷結なる力、嵐となりてこの地にその力響かせよ

 ブリザード・フォース ──乱撃のスノー・サイクロン──



 サイクロン状に波動弾が放たれる。


 青葉の攻撃はカクタスの左上半身部分に直撃、凍りついたため左腕が動かせなくなったためカクタスはもがき苦しむ。


 ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。


 イレーナ、幸一、ルト、へイムの4人が四方向から一斉に攻撃を加える。

 カクタスは両手両足、首が切断され身体のパーツがあちらこちらに散らばる。


「やったぁ!!」


「勝った!!」


 周りから歓喜の声がこだまする、カクタスの身体はバラバラに寸断され地上に落下、そして今までの大型魔獣がそうであったようにカクタスの肉体は蒸発するように消滅していく。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。


 消滅していくカクタス、そしてそれを見ながら魔力を使い尽くした幸一は疲労感が一気にきたからか倒れこんでいた。





 そこにマンネルへイムがやってくる。いつもと変わらぬ尊大で傲慢に満ちた態度で幸一に話しかける。


「勇者よ、よくやったな。あれほどの重い一撃、大したものだ。これからの成長が楽しみだ」


 幸一は薄ら笑いを浮かべながら言葉を返す。


「いいのかい、そんな余裕ぶった態度をして。俺はお前と戦ったんだぞ? 俺がお前には向かう存在になってしまっても、お前は同じ態度をとれるのか?」


「構わん、お前はまだ現実を知らない。あり得ない空虚な妄想いずれつまずく時が来る。俺が貴様を屈服させる。そして俺が貴様をうまく使いこなしてやる、必ずな──」


 現実を知らないという言葉、その言葉に幸一は言い返すことができない。ある意味正論ではあるからだ。

 沈黙がこの場を支配しているとルトとイレーナもそこにやってくる。



「夢の中に生きる貴様と現実を知っている俺様。歴史は誰を勝利者として選ぶかこれからがとても楽しみだ」


 するとルトは毅然とへイムの言葉にかみつく。

「歴史は誰かの手によって導かれる物ではありません、自らの手で切り開いていくものだと私は信じています。あなたの表現は間違っていると思います」


「フッ、間違っているかは歴史が証明するさ。貴様たちは俺様に屈服することになるがな──」


 ルトの毅然とした言葉にもへイムは全く動揺しない。そしてそのまま後ろに振り返りこの場から立ち去っていく。


「ではさらばだ、王子よ、英雄よ。また会おう──」


 ルトと幸一は彼の後姿を見ながら考える。彼は味方なのか、敵なのか──。彼の野望は確かに間違っていると二人は考えている。しかし圧倒的な実力、土壇場での味方への寝返り。


 この先今後も彼と関わる場面も多くなるだろう。どのような関係になっていくのか、次に敵になってしまった時果たして勝てるのか、不安と謎で一杯であった。










 そしてこの街との別れの日。宮殿の前、幸一やイレーナ達、とルトや軍部の人達が別れのあいさつをする。


 先日幸一とルトを中心に軍や冒険者、部族の代表が集まって会議を行った。

 確かに横暴を振るう軍部たちである。しかし彼らを悪者にするだけでは何も変わらない。


 今度こそ不幸の連鎖を止めみんなが幸せになれるような制度を作っていかなければならない。


 その想いに関してはみんな一緒であった。


 井戸や食糧、薬はみんなで不平がないように相互監視。

 そして争いが起きないように冒険者や兵士たちで暴走をしないように権力を分散していく方針を固めていく事となった。


 情報公開も行っていき皆が真実を知ることができるようにする。


 そして──。


「ルト、この地の事後はよろしく頼んだ」



 ルトをこの地に名目上の最高権力者として在留する事となった。利害関係の調整役や不正の監視役、中央政府への情報の渡し役などを行う。


 しばらく彼とは会えなくなるだろう、この地域の治安が落ち着いたら各地にも顔を出すとは



「うん、後は僕に任せて。幸一君は魔王軍との戦いに専念してね」


「ルトこそ、困ったことがあったらいつでも呼んでくれよ。力になるからさ──」


 お別れのあいさつをして手を握る。彼らがこの地を平和に安定させてルトが再び中央の政局や魔王軍との戦いに帰ってくる事を信じて。


「幸君、帰りの馬車が来たよ」


「後は俺達に任せな。絶対に平和は守り抜く」


 アルマンドもそんな決意を胸に幸一達を見届ける。

 後ろから青葉の声が聞こえる。振り向くと青葉やイレーナ、サラ、ニウレレと帰りの馬車の姿、幸一達が馬車に乗り込む。


 馬車は発車しルト達の姿が遠ざかる。今度会うときは争いを止めるためじゃなく平和になりそれを祝うときでありたい。そんな思いを胸にしながら幸一達はこの地を去っていった。




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