第70話 大型魔獣「シーホース」

「大丈夫。私たち、まだ戦えるから!!」


 冒険者の一人が叫ぶ。動揺、困惑そんなことを微塵も感じさせない空気と雰囲気がこの場を包んでいた。

 たとえ政府で何が起こっていようとこの街を守りたいという冒険者達の想いは何も変わっていない。魔獣たちを倒して平和を勝ち取るというその想い、その信念を胸に彼らはこの場に立っているのである。


「何か心配はなかったみたいね──」


 戦っている青葉が思わず本音を漏らす。

 すっかり最初にあった動揺する光景もなくなっていき、みんなが集中してデュラハン達と戦っていく。


 ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!


 イレーナや幸一も冒険者たちと一緒にデュラハン達を倒していく。


「私たちだって、負けてられないんだから!!」


 イレーナはその言葉通り何十体ものデュラハンを次々に相手取り、無双ともいってもいい状態になっている。


「イレーナ、やる気満々だな──」


 それを見て幸一がほっとした表情になる。

 そしてこの辺りのデュラハンをあらかた倒しきったその時だった。


「前に何かいる!!」


 幸一が叫ぶ。その言葉通り前方に視線を移すと紫色の光柱が現れ始める。


 そこに冒険者達の視線が吸い寄せられる。そして光柱が消えていくと以前戦ったモリンフェンやウィザードに似た雰囲気を持つ体長五十メートルほどの魔獣がそこにいた。


「こいつがこの襲撃の中心的存在だな」


 サラが驚愕して記憶を頼りにその魔獣の情報を説明し出す。


「はい。あれは、シーホースです。気をつけてください、以前襲来した時は襲撃した都市をすべて更地にしてしまったほどの強さを持っているんです」




 鎧に覆われた背中、後ろ半分は魚の尾状になっている。

 前半分は馬の姿をしているが普通の馬についているたてがみは五本程に分かれていてまるでひれのようになっていて。全身はどす黒く光っていて強い威圧感を醸し出している。

 大型魔獣「シーホース」であった。



 そして獰猛類のような威圧感のある鋭い眼光。

 誰もが圧倒的な存在に息をのみ圧倒される。


「みんな、行こう。倒すしかないよ」


「うん、そうだね」


 それでもデュラハンの大軍を倒し、勢いに乗る冒険者達はシーホースに対しても恐怖の感情を抱いていなかった。


 そして彼女たちが一斉に遠距離攻撃をシーホースに向かって発射していく。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 怒涛の連続攻撃、その攻撃がすべてシーホースに直撃、その姿が爆発で全く見えなくなる。


 そして一回攻撃がやむ、煙が徐々に晴れていきシーホースの姿が見えるようになっていく。

 するとそこには──。


「まったく効いていない……」


 攻撃をものともしていないシーホースの姿があった。



「あれ、障壁です。あれのせいで半端な攻撃はすべて防御されてしまうんです」


 サラの言葉通り、冒険者たちの攻撃はシーホースの前に出来た障壁の前にすべて防がれてしまっていた。


 ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!



 今度はシーホースの逆襲が始まる。

 シーホースが雄たけびの声を上げ始める。シーホースの右手が光り始めると、シーホースは右手をさらに天に向かってあげる。


 そして──。


「攻撃が来るわ。みんな、気をつけて!!」




 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 青葉が周りに向かって警告するとシーホースはそこから機関銃のように球状の攻撃を連打していく。


 それも高い威力での連続攻撃。

 周りの建物はその攻撃に耐えきれずに次々にハチの巣になるか倒壊していく。


 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 ガッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!


 各地から攻撃が建物に直撃し倒壊する音がこだましていく。


 そして五分程経つとようやく攻撃がやむ。


 まるで空襲でもあったかのように建物は崩れ、倒壊していた。


 冒険者が身を守るために発動した障壁はことごとく崩壊し大量にシーホースの攻撃を浴び倒れこんでしまっていた。


 中には意識を失っている者も多い。また、建物も空襲にあったかのように多くは倒壊しかかっており早く救助しないとがれきの下敷きになり命にかかわる事態になっていた。


「まず助けよう、イレーナ」



「うん」


 幸一はイレーナに戦いを中断して彼女達の救護にあたろうと訴える。確かに魔獣とは戦わなければならないが冒険者達の命には代えられないからである。


 しかしその声に青葉とルトが反応する。


「駄目よ、あなたたちは戦って!」


「それは僕と青葉がやるから、幸君はイレーナと一緒にシーホースと戦ってほしい」


 正論である。シーホースをノーマークにしておけばさらに反撃にあい甚大な被害が出てしまう。その言葉に反論するものはいなかった。



「私達はこの街を守ることが最大の使命なのよ、本来の使命を忘れないで」


 真剣な表情で青葉が語りかける。


 そして青葉とルトは周りの冒険者の救護へ向かうため戦線を一時離脱する。

 シーホースと戦うのはとうとうイレーナと幸一の二人になった。


「──」


 シーホースと対峙する幸一とイレーナ。

 二人は魔力を補てんするために再び手をつなぐ。

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