第40話 与えられた力

 いまも彼女たちに価値を感じる者が後を絶たず彼女たちを守らなければならない。


 そして今も突然誰かが忍び込んで拉致されてしまうという話があった。二人も警備して対策をしているのだが五十人ほどの人数ともなると見きれなくなってきている。


 なので有政の知り合いである青葉を頼ったのである。


「それでさ、いいアイデアがあるんだけどいい?」


 青葉は依頼を受けてからここに来るまでにアイデアを考えていたらしく、腕を組みながらアイデアを提案し始める。


 周りはそれに興味を持ちながら耳を傾ける。



「やっぱり犯人を待っているだけじゃ事件は解決しないわ。こっちから捕まえにいった方がいいと思うの」


 そして青葉が細かな内容を説明し始める。そして──。



「わかった、そうすればいいんだな?」


「うん、確かにそれなら捕まえられそう」


 賛同する幸一とイレーナ。

 結局青葉のアイデアが採用された。そしてそのための行動に出る事となる。






 そして作戦は決行となる。



 孤児院の授業が終わった後、二、三人で固まって歩く子供たちを幸一が背後から物陰に隠れて追いかける。



(なんか不審者に間違われそう……)


 うさ耳や毛耳を付けた幼女の背後をずっとつけまわす。

 事情を知らない人から見れば不審者以外の何物でもない──。


 どこか複雑な気持ちで二人の跡をつけていたその時。



 物陰から腕のようなものが出てくるその腕は下校していた毛耳を付けた一番外側にいる少女の腕をつかみ引っ張る。


 すぐに幸一は物陰から飛び出し少女たちの所へダッシュする、走りながらバックから先日購入した槍「カシラニコフ」を取り出す。


 幸一はその場所にたどり着くと少女を抱えながら裏路地に逃げている黒い服を着た男を追いかける、そして追い付くや否や戦闘に入る。


 結果は一瞬だった。




 幸一が男の正面に入り力いっぱい腹パンをする。

 男はその場にぐったりと倒れこむ。すぐに幸一が男の身体をあさり始め何か手掛かりが無いか探し始める。

 すると──


「手帳──?」


 彼のポケットから一冊の手帳を見つける。その手帳を読んでみるととある事実が分かってくる。


「ライトエンジェルリスト?」





「そっちは捕まえた?」


 そこに青葉が走ってやってくる。たまたま青葉が犯人を追いかけている時に見かけたので走って追って来たのだった。


 幸一は自分ではそのリストの意味が分からず青葉に見せてみる。青葉は真剣な表情になりその意味を幸一に話す。


「これが私とルトが探していたリストよ。この後の捜査にも深く関係しているわ……」


「ルトと青葉が捜査していたこと?」



「人身売買よ、彼女たちだけじゃない。不当に奴隷たちを手に入れて売買を繰り返して利益を得ている集団のことよ。そしてそれにマフィアや国の官僚たちがかかわっているの」



「そんな大事だったんだ──」


 唖然とする幸一、そしてポケットから縄を取り出し犯人を拘束する青葉。


 何も無い前方を見て睨みつけながら囁く。




「この騒動、絶対に許すわけにはいかないわ。協力、頼むわ幸君!!」


「わかった」


 迫力のある青葉の表情に幸一は首を縦に振る。

 そして二人で犯人の持ち物を調べた後犯人を兵士に引き渡していき一日が終わった。







 次の日、孤児院で過ごした幸一達、周囲の査察や尾行などを行ったが特に問題もなく一日が過ぎる。


 その夜。


 有政と青葉は施設内のベンチにぽつんと座っていた。

 孤児の女の子たちが無邪気に遊んでいた公園。日はすでに暮れていて静寂な空気がこの場を包む。


 この時期、昼は暖かくても夜は一気に気温が下がり肌寒くなる。なので露出度が高く腕をすべてさらけ出す服を着ている青葉は寒さを感じ少しだけちぢこまり始める


「この服装じゃちょっと寒い季節になってきたわね……」


 二人は以前から交流があった。青葉は七年前、有政は五年前からこの世界に転生してきた。

 異世界に召喚された者同士時折出会っては情報交換をしたり愚痴を言い合ったりしている中だった。




 見透かしたような表情で青葉が口を開く。


「ちょっと顔見れば」


「ただ本当に」


「あの言葉、やっぱりあんたには引っかかってたみたいね……」


 それは孤児院の女の子が言った何気ない一言だった。


「つまりお兄ちゃんの力って神様から与えれた借り物の力ってことだよね」


 歯に物が詰まったように有政の心の奥に引っかかっていた


「確かにこの世界ならいくらかならあなたの魔力を上げたり、うまい戦い戦い方を教えることだってできるわ。

 でも、あなたに勇者としての力を授けることは出来ない、どんな偉人だって、名コーチがいたってそう」


「人からもらった力、いいじゃない!! その力で、みんなに笑顔を届ければ、あの子たちを」



 バンと背中をたたく、そしてウィンクをすると言い放つ。


「確かに有君は元の世界はいじめられっ子だったかもしれない。でも、私だっている、あなたを欲している人達がいる。少なくてもこの世界では有君に絶対にみじめな思いなんかさせない絶対約束するから!!」


「あなたが彼女たちに平和と笑顔を与えている限り道は続く」


 青葉が視線を夜空に浮かぶ星達に視線を移す。


「だって考えてみ、私たちの世界だって野球の才能がある人がいっぱい練習して野球選手になったり絵がうまい人が努力して画家になるのはおかしくないでしょ。でも別にそれをひがんだりなんてしないでしょ」


 そして有政の方を振り向いて強い口調で言葉を続ける。



「あなただって彼女たちを守るために必死に努力をしている、時には自分が傷ついたりもする。一緒よ。誇りに思いなさい!!」


 その言葉に突き動かされる有政。 いじめられっ子で目立たない存在だった。

 それが突然天使トマスによってこの世界に召喚されこの孤児院の運営を任された。


 そして青葉の言葉で彼は強く感じた。

 確かに与えられた力だった。しかしそれでもいい、この子たちを絶対に守り抜くと──。


「わかったよ。俺頑張ってみるよ」


「そうよ、その意気よ!!」


 有政は青葉に元気づけられる形で宣言する。


「だから、青葉さんが闘う姿僕も応援させてもらうよ」


「え──?」



 その言葉に青葉は少しばかり動揺する。何かを思い出したように──。


「う、うん。私だって、が、頑張るよ」


 立ち上がり両手を腰に当て青葉はさらに言葉を進める。


「はい、もうしんみりした話は終わり」


 ほんの少しばかりうつむいた後青葉はいつもの明るい表情を取り戻しホテルへと帰って行った。

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