第20話 証明

「バカな──、ダイヤルは発見してってそっか!!」


 幸一がそう囁いた瞬間、とある考えを思い浮かべる。


(そうか、ダイヤルをもう一つ隠し持っていたんだ)


 あの状況でダイヤルを見つければ、誰だってそれを使って盗聴をしていると考えてしまう。

 そして、他にダイヤルが隠してあるという思考が頭から消え、もうダイヤルは無いと思いこんでしまう。

 そう考え、二重に罠を仕掛けていたのだった。


(しまった、油断していた──)


 そのそぶりから、リーラも幸一が自分の策を知ったことを悟る。


(やっと気付いたみたいね……、でも遅いわ。もうあんたは犯罪者、国会での立場は失ったも同然よ)


「幸君──」


 サラが思わず心配し彼の名を囁く。幸一はサラに接近し耳打ちで質問をした。


「そうですね、それなら証明できますが……」


「わかった」



 そして二人は立ち上がり、国王に向かって幸一が叫ぶ。


「ちょっと無実を証明してくる」


 口調としては冷静に見えたが、口調は明らかに動揺を隠せていなかった。そう叫ぶと幸一とサラが小走りで議会を後にして行く。







 昼前。

 繁華街にあるバーの店「アステルナ」、夜に開く店として深夜の時間帯まで営業を行っていてマスター。汚れた店内の掃除や夜の開店に合わせて下ごしらえを行っていた。


「しかし昨日は珍しかったな……、まさか勇者さんが来るとは」


 小太りで三十代半ば程の男性のマスターが、独り言をつぶやきながら店内の机を拭く。普通勇者程の人物は宮殿で貴族や国王の様な地位の高い人といることが普通、一般人に興味が無いので今でも幸一のことが印象に残っていた。


 そんなふうに考えていると、誰かが扉をドンドンとノックをして叩いてくる。こんな時間に誰だと考えながら扉を開けた。


「ちょっと、まだ開店してないよ」


 そう言って追い返そうとすると、そこにいた人物に驚きを見せる。


「すいませんマスター、お願いがあります」


 幸一だった。早歩きで来たせいか、軽く息を荒げ、汗をかいていた中でマスターに話しかける。








 午後二時ごろ、国会。


 サラと幸一がマスターを連れて国会へ戻る。


「み、みなさんお待たせしました。証人のほう、つれてきました」


 そう叫ぶとサラに幸一が指示を送る、サラは国王の席の奥へ移動。

 幸一がそれを使うように周りに指示をする。ざわめきだす周り。まるでそれが悪魔の道具でもあるかのように……。





 それは幸一とサラが、先ほど酒屋に行く前の会話だった。


「何かいい方法はないかサラ」


「確か国会には真実を告げる羽があります。それで証言すれば真実かどうかわかります。他の人はあまりお勧めしませんが……」


 話しによると、その真実の羽が青く変色するとその言葉が真実であると、表し赤く変色するとその言葉が偽りであるということが分かっている。

 しかし原理が今だ分かっておらず、議員達は不気味がって使いたがらない。なので、あまり議会では使用されていないのが実情だったが。


(だが、現状それ以外に方法はない、頼むぜ)



 そしてサラが羽を黒い布にかぶせて持ってくる。

 黒い布を開けると確かに手のひらサイズの白い羽があり、サラが皆に見えるように議会の中央にある台に置く。


 そして議会が再開。まずは幸一が席を立ち中央の台へ早歩きで進む。そして半円形に配置された議員席へ向かって叫ぶ。


「これから私の無実を証明させていただくため証人を連れてきました」


 この国会でもし虚偽の証言を行った場合犯罪となり罰せられる。なのでこの国会で嘘を尽くことは元々許されない。

 おまけに幸一が真実の羽を使うことを宣言したのでここでの言葉は絶対真実ということが分かっている。


 それを理解したうえで幸一はマスターに問いただす。


 マスターは幸一がリーラと会話はしていたがいかがわしい事を何一つせず店を去っていった事を証言する。


「確かにそうでした、彼はその女性に対して犯罪行為やいかがわしい行為などを行っていません。無実です」



 真実を告げる羽は青色を示した、つまり店主の証言は本当ということになる。それが渡り幸一がはっと笑みを見せ動揺している議会にたいし訴えかけるように言葉を進める。


「リーラ、最後にお前に対して質問する。俺はお前に対していかがわしいことなどしていない、そのダイヤルはお前が俺の声を勝手に切り取りなどを行って改ざんした──、違うか?」


 リーラは幸一を睨みつけながら小さな声で囁く。



「そうよ……」



 羽は青いままだった、つまり幸一の言葉が本当だったということになる。

 ほっとした安心感が顔に現れ、議員達に向かって叫ぶ。


「どうですかみなさん、これが真実です。私は──そのようなことをしてはいません」


 ざわめく国会、リーラは幸一を睨みつけながら歯ぎしりをする。


「どうだリーラ、無実を証明したぞ!!」


「チッ──」


 リーラはそう舌打ちをして、怒りを抑えながら議会を後にしていった。






 そして議会の仕事を終えて議会を出た幸一、サラ。その五メートルほど前方に一人の青年がいた。


「すまなかったな、あんなことを言って」


 そう話しかけてくるぶっきらぼうでやさぐれた印象を持つ金髪でツンツン頭の青年。


 先日幸一が議会に行く途中にいきなり「貴様は国民の敵だ!!」と怒鳴りつけた兵士であった。


「ちょっとカッとなってつい叫んじまってよ、こんな勇者に国を明け渡したくないって強く思って気が付いたら叫んでた。その……、すまんな」


 そっぽを向いて言いずらそうに謝罪する兵士。しかし幸一は彼が気持ちを顔に出しずらい性格だとわかり彼を特にとがめることはしなかった。


 たった一度の過ちでそこまで起こることは無いと考え謝罪に対して気にしてないと言葉を返す。


「わかってくれればいいよ、特に気にしてはいないから──」


「……わかった」


 兵士がぶっきらぼうにそう言って、この場を去っていった。




 そして幸一は自分の部屋に戻る。すると──。


「幸君? サラから聞いたよ、昨日は何をしていたのかな?」


 いつもと違って穏やかな口調なのが逆に恐ろしかった。


「な、何でもないよ、ただこの国の現状を知りたいから街の中に飛び込んだだけで。まあそれで」


「や、やっぱり怒ってる? イレーナ……?」

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