第19話 セクハラ勇者誕生
(れれれ、冷静になれ、彼女は明らかに誘っている)
何とか動揺している自分をただす。
リーラは恥じらいもなく誘惑行為を続ける。すると今度はなんと幸一にぎゅっと抱きついてきたのである。
豊満な胸の柔らかい感触に動揺を隠せず思わず声を上げてしまう。
目をぱちくりさせながら彼を見つめる。マスカラが盛られカールされた程よく長いまつ毛、程よい化粧をしたきれいな肌。
美人で色っぽい大人という言葉がとても似合う。
「私好みよ、あなた──」
「や、やめて下さい、そんな……」
幸一の言葉を無視するかのようにリーラの誘惑は続く。
店のライトにほのかに照らされた瞳が幸一の理性を更に溶かしていく。
誘惑に何とか耐えていろいろな話を行った二人。
彼の様子から勝ち誇った笑みを浮かべるリーラ、しかしその表情を幸一は見逃さなかった。
リーラの一瞬の気のゆるみから彼女が何か企んでいたことを察する。幸一が再びリーラをじっと見る、そしてリーラが一瞬ポケットに視線を移していたのを見逃さなかった。
そしてさっきまでいろいろ彼女が聞いていたことからとある仮説を思いつく。
「そのポケットに入っているダイヤル、没収させてもらう」
一瞬歯ぎしりをするリーラ、そして右手をポケットに入れ──。
「あいよ……、よくわかったね──。鼻の下伸ばしてたくせに」
「余計な御世話だ」
リーラが嫌々ポケットに入っていたメモワール・ダイヤルを渡す。幸一がその内容を聞いてみる、するとさっきインタビューのように質問した内容がすべて盗聴されていたのが分かった。
いわゆるハ二―トラップであった。恐らくは幸一が何か口を漏らしたらそれをゆすって何かをしようとたくらんでいたのだろう。
そしてそのダイヤルを幸一は床に落として踏みつける、ダイヤルは粉々に砕け散っていった。
「危なかった、あんたの好きにはさせないよ」
そう言い残して代金を払い幸一は店を後にしていった。
その後ろ姿を見ながらリーラはフッと笑い囁く。
「けど甘いわ──、勇者さん」
もちろん幸一にその言葉は聞こえていない、しかし知ることになるその言葉の意味を──。
翌日
今日は初めて幸一が議会へ出席する日である。時間の少し前に出席するために早目に行動していた。
イレーナは他の用事があるらしく今日は外に行っている、サラはすでに議会へ行ったようであった。
宮殿の中を一人で移動していると背後から誰かが幸一に向かって叫んできた。
「お前は国民の敵だ!!」
幸一はその叫び声に驚き声がした背後を振り返る。そこにいるのは金髪のつんつん頭をした若い兵士だった。
「な、何だ?」
突然の大声に戸惑いながら背後を振り返る、その時──。
「幸君、議会始まるよ!!」
正面の議会の入り口でサラが叫ぶ、理由が分からないが渋々この場を後にして扉を開け議会に入る。
中には何十人もの議員や貴族達が円形になって席に座っていた。そして扉の先には国王が豪華なイスにもたれかかって陣取っている。
貴族や議員の人達が幸一の姿をじろじろと見る。その異様な雰囲気に幸一が少し戸惑う。異様な雰囲気もそうだがそれ以上に気になったのは彼らの視線、少なくとも勇者を歓迎する様な視線ではない。
たしかに幸一自身も必ずしも歓迎されるとは考えていなく時には厳しい視線を送られると予想はしていた。
しかし今の視線はそれ以上だった。厳しいのもそうだがどこか軽蔑しているといった雰囲気も醸し出している。
その雰囲気を押しのけて幸一は国王に問いただす。
「何があったのですか国王。申し訳ありませんが私はこの世界に来てから何かまずいことでもしましたか?」
するとざわつく周辺、何故こんな奴が勇者? この期に及んで開き直りか? などと周りにいる議員たちがつぶやく。
そして国王が重く口を開き始める。
「先日の魔王軍との戦い、大活躍だった。だからこそ聞きたい。この不始末、どうするつもりであるかな?」
「不始末……、俺あの後何かしましたか?」
もちろん幸一に身に覚えなんてない。この世界の法律などもすでに知っていて破ったこともない。
サラに視線を送るがサラも何も言えずにただうずくまっていた。
業を煮やした国王がサラに口を開く。
「この重い雰囲気の正体、それはこの女性に聞いてみるとよい!!」
国王の後ろから涙を流している声がした。その人物が後ろから姿を現すと幸一は驚愕した。
リーラがそこにいる。
「この人です、昨日酒屋で私にセクハラをしたんです、胸を触ったり、持ち帰ろうとしたり。無理矢理、本当にひどかったです」
そう涙目になりながら叫ぶ、もちろん幸一はそんな事していない。しかし周りを見ている限りみんなリーラの言葉を信じ切ってしまっているようだった。
「セクハラ勇者誕生、ですな──」
議員の誰かがそう囁く。リーラはポケットからダイヤルを
「む、胸……いいじゃん──」
「や、やめてください」
はたから見れば全員がセクハラを行っているように見える会話がそこにはあった。
もちろん幸一はこんなやりとりはしていない、動揺するなか思考を張り巡らせどうすればいいかを考える。
まずこのダイヤルの音。所々音が切れていた、というか明らかに合成だった。それよりもまずはダイヤルであった。確かにインタビューではそんなことは言っていない、しかしよく思い出してみると部分部分で行った記憶がある。
しかし当然こんなセクハラなど幸一はしていない。
おそらく録音した後何らかの技術で加工したのだろう。しかしここにいる人たちはそれを信じ切ってしまっている。
それだけではないダイヤルは昨日酒屋で壊して使えなくしたはず、なのになぜ存在しているのか──、そういった魔法なのか?
「バカな──、ダイヤルは発見してってそっか!!」
幸一がそう囁いた瞬間、とある考えを思い浮かべる。
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