第194話 さてと、どうしてこうなった、、、。

前回のあらすじ:チャーハンリベンジが成功して少し満足した。



 近衛兵? らしき人物に案内されて王城内へと入り、謁見の間へと案内されて目に入った光景に少し驚いていた。そこには参加者全員がそれぞれ顔が倍に膨れあがっていた上に瀕死の状態で息も絶え絶えの状態で倒れていたのだ。一応鑑定してみると、息絶え絶えではあったけど、放っておいても死なない程度には手加減されていた模様。


 周りを確認すると、アリア王女はおろおろするばかり、王や大臣などは呆然と見ているだけの状態だ。こうなってしまった原因は何となくわかった。手応えが全くなく手持ち無沙汰の状態となっている戦姫の3人がそこにはいたからだ。恐らくそこにいるルクレチ王が参加者達をけしかけて戦姫に勝負を挑んで返り討ちに遭った結果だろう。


 ・・・しかし、何で戦姫に喧嘩を売るかなぁ、どう考えても勝てる相手ではないと思うんだけど、、、。まぁ、相手の力量すら推し量れない程度かもしれないし、力量差が大きすぎてわからなかった、いや、単純に前者の方か。まぁ、聞いてみないことにはわからないから聞いてみますか。


「ルクレチ国王陛下、この状況は一体?」


 私がルクレチ国王に話しかけてみると、どこからか声が出てきた。


「御者の分際で、恐れ多くも、我らが国王陛下に直接話すなどとは!!」


 私が問いかけたところで我に返った国王が返答してきた。


「構わん。それに、御者をしておるが、こちらの方は、トリトン帝国侯爵、アイス・フロスト殿だ。」


 紹介されたので、先程の声がした方向に向かって一応挨拶をかましてみた。


「ただいまご紹介にあずかりました。私はトリトン帝国フロスト領領主であるアイス・フロスト侯爵です。侯爵に向かっての不謹慎な発言、本来ならそちらの方が恐れ多いと思うが、今回に関しては知らなかったこともあろうから許して使わす。まぁ、今後会うこともないだろうから、それほど気にしなくてもよい。」


 そう言いながら、殺気を込めて伝えると、ドサッと膝から崩れ落ちる者がいた。ああ、あいつだったのか。いるんだよね、ここぞとばかりに相手に居丈高に言ってくるやつって。まぁ、この国も以前のトリトン帝国と同じで基本的に他国とは交わらない方針だから仕方がないか。それはそうと、どうすればこんな有様になるのか聞いておかないとね。


「国王陛下、出場者の皆さんがどうしてこのような有様になっているのか、ご説明頂きたいのですが。」


 国王陛下の代わりに大臣が説明し始めた。この国では武術大会の優勝者はアリア王女の婿となる権利が与えられることになっている。で、今回は剣士が見事優勝してアリア王女の婿となった。そして、表彰式も終わって祝賀パーティを開いたまではよかったのだけど、そのときに準優勝者であった魔術師がこともあろうにアンジェリカさんに求婚を迫ったらしい。で、他の参加者もアンジェリカさんだけでなくセイラさんやルカさんにもそれぞれ求婚を迫ったらしく、アンジェリカさんが「自分より弱い相手には興味がない」とにべもなく撥ね付けたところ大騒ぎになり、騒ぎが大きくなる前に国王の発案で急遽対戦することとなったようだ。


 で、結果は言うまでもありませんね、ということで参加者がああいう状態になっているということである。しかし、疑問に思ったのは、何故優勝者までも!? 続けて話を聞くと、圧倒的な強さをその目で見て、今の自分とどれほど差があるのか確認してみたかったらしく、腕試し感覚でアンジェリカさんに勝負を挑んだ結果があの有様のようだ。


 ・・・なるほど、と思って頷いていたら、とんでもない発言をしてきたのだ。


「フロスト侯爵よ、私から頼みたいことがあるのだが、聞いてもらえるだろうか?」


「・・・正直言うと聞きたくないですね。私は付き添いで来ただけなので、この国と国交を結びたいとか微塵も思いませんので。」


「・・・そう連れないことを申すな。私から頼みたいのは、アンジェリーナ王女と戦って欲しいのだ。アンジェリーナ王女が強いとは聞いておったが、まさかここまでとは思わなかった。」


 国王の発言に反応したのは、何とアンジェリカさん本人だった、、、。


「アイスさん! 是非とも手合わせしてくださいませ!! ・・・正直、彼らでは物足りなさすぎて、むしろ鬱憤が溜まってしまいましたの、、、。できれば、セイラとルカも一緒に相手をしてもらえると助かるのですが、、、。」


 えーっ、とか思いつつもセイラさんとルカさんの方を見ると、驚くことに2人とも嬉しそうに頷いていたのだ。マジかよと思いつつもアンジェリカさんの話は続いた。


「で、手合わせのルールですが、アイスさん1人と私達3人で戦ってもらいます。マーブルちゃん達の参加は無しの方向でお願いしますね、勝負になりませんから。あと、アイスさんは攻撃に関して水術の使用を禁止ということで!!」


「いや、それって思いっきり私が不利じゃないですか、、、。しかも、何で私が戦う前提になっているんですか、、、。」


「そうでもしないと、私達がアッサリと負けて終わりじゃないですか!! それでは戦闘訓練にすらなりませんわ!!」


 国王とその取り巻き達はそのやりとりに驚きを隠せなかった。無理もない、綺麗な格好こそしているとはいえ、まさか、自分たちの国自慢の精鋭達をいとも簡単にフルボッコにした戦姫が3人がかりで、しかもその相手にハンデを要求していたのだ。・・・彼らが驚いている間にも、アイスと戦姫のやりとりは続いていた、しかも模擬戦を行うことは確定という前提の元で、、、。


「・・・分かりました。そこまで言うのであれば模擬戦の件、受けましょう。・・・また、先日みたいに管巻かれて寝られなくなる事態は避けたいですしねぇ、、、。」


「うっ、それを言われますと、、、。あの件は本当に申し訳なく思っておりますわ、、、。」


「まぁ、いいでしょう。では、模擬戦を行うとしましょうか。っとその前に、ライム、倒れている人達の治療を頼むね。」


「ピーッ!!」


 ライムが触手みたいなものを出して敬礼して応える。やはりいつ見ても可愛いね。


「マーブルは観客に被害が来ないように結界を頼むね。ジェミニは万一の事態に備えて結界の外で待機ね。」


「ミャア!!」


「・・・なるほど、了解したです!!」


 マーブルとジェミニが揃って敬礼で応えた。うんうん、いつも通り可愛くて結構。どうしてもホッコリとしてしまう。戦姫の3人もホッコリしてしまっていた。


 私達がホッコリしている間にもマーブル達がそれぞれの任務を果たすべく動いていた。おっと、こっちも気を引き締めないとね。ということで久しぶりにストレッチをして準備をし始める。それを見て、戦姫も気を入れ直して3人でかたまった。作戦会議だろう。少ししてアンジェリカさんがこちらを見て頷いた。準備完了ということなのだろう。それを見てこちらも頷き返した。


「国王陛下、こちらの準備も整いましたので、試合開始の合図を。」


「うむ、しかし、侯爵、お主、その格好で大丈夫なのか!? 得物は使わんのか!?」


「問題ないです。こう見えても、アラクネの糸で作られた服なので、下手な防具よりも優れていますので。それと、私が得意とするのは格闘術ですので問題ないです。普段は弓を使いますが、水術を攻撃で使えないので弓は無しですね。まぁ、弓では戦姫相手では荷が重いですしね。」


「ア、アラクネの糸だと!? い、いや、今はその話ではないな。それでは武術大会特別戦を行う。両者とも準備はよいな? それでは始め!!」


 ルクレチ王国国王の試合開始の声で始まった。恐らくこの戦いでは、メイン火力はルカさん、サブ火力はアンジェリカさん、セイラさんは補助や妨害関係の役割でこっちを攻撃してくるだろう。伊達に何度も一緒に冒険はしていない。まぁ、向こうも私がそう考えていることは百も承知だろう、そういう理由でアンジェリカさんがサブ火力となっている。


 今回私は攻撃における水術の使用を禁じられているため、近接での攻撃しか攻撃手段はない。投擲にしろ水術ありきなので使えない。一応城の床を破壊してその破片を使って投擲武器にするアイデアもあるかもしれないけど、恐らくマーブルの結界でそれはできない状態にしてあると思う。


 また、今回はあの3人が相手なので、打撃でしか攻撃手段がなさそうだ、というのも、3人の連携が完璧すぎるし、私の行動もほぼ把握しているので、投げたり極めたりしようとしても、それは大きな隙になってしまうのだ。


 ということで、私の採る作戦はズバリ、相手のスタミナ切れを狙うことである。というか、それ以外では勝ち目がなさそうなんだよね、、、。とはいえ、模擬戦だし、戦闘訓練でもあるから、こっちも積極的に攻撃していきますよ。


 この3人で最初に狙うべきは誰か? それはルカさんである。近接攻撃しかない私にとって、強力な火力による遠距離攻撃は脅威でしかない。まぁ、ルカさんを攻撃するためにはアンジェリカさんやセイラさんの攻めをかいくぐる必要があるので容易ではない、、、。が、それも踏まえての行動である。


 言うまでもなく、戦姫もそれは理解しているので、ルカさんの方へ移行とする私を防ぐべくアンジェリカさんが立ちふさがる。


「さあ、アイスさん、勝負ですわ!!」


 そう言って、鋭い突きを繰り出してくる。槍が相手なので、基本懐に潜り込んでしまえば何とかなるのだけど、槍の達人相手にはそれは難しいことも事実である。とはいえ、槍一辺倒の相手であればどうとでもなるのだ。格闘術極は伊達では無いのだ。とはいえ、どうとでもなるのは、あくまで槍一辺倒の相手の場合であり、そうでない相手の場合はその限りではない。


 アンジェリカさんの凄いところは、槍術もさることながら、懐に入られた場合でも、足技を繰り出したり、槍自体を短く持ったりして間合いに応じてほぼ確実に対抗できてしまうところにもある。また、アンジェリカさんの愛用している槍は、不壊性能を持っているチート武器であるため、槍破壊を狙って柄を攻撃しても通じない、というか、こっちが痛い、、、。


 それでも近づいてしまえばこちらに分がある。今も隙ができたのでローキックで相手の足を封じようと仕掛けると、セイラさんがその足を狙って短剣で攻撃してきた。普通の相手であれば、そのままアンジェリカさんを封じる方向で問題ないのだけど、セイラさんとなれば話は変わってくる。そのまま攻撃してしまうと逆にこちらの足を封じられてしまうのだ。ということで、そのままセイラさんに攻撃対象を移して短剣を持っている手を攻撃しようと手刀を繰り出すと、今度はアンジェリカさんの槍でそれを防がれてしまう。


 そうした遣り取りが続いている間に、ルカさんの詠唱は進んでいく。ルカさんの場合は、基本詠唱は短めでその分手数を多くしている場合がほとんどだけど、今回は詠唱を長くしてでも威力を優先させている。ってか君達、容赦なさ過ぎ、、、。特にルカさん、アンタ、ドラゴン相手の時だって、そこまで詠唱時間長くなかったよね? という感じでルカさんに少しでも気を取られると、アンジェリカさんの容赦の無い攻撃が飛んできて、それを躱しつつ隙を見て攻撃しようとすると、セイラさんの援護攻撃があり、それをいなしても、アンジェリカさんがまた攻撃してきたりする。


 そんなこんなでルカさんの詠唱が終わると、ヤバい魔法がこちらに飛んでくる。避けている余裕が全く無いので水術で防いだりする。で、その防ぐ動作に合わせてアンジェリカさんとセイラさんが攻撃を仕掛けてきたりと非常に厄介である。また、その飛んできた魔法は有効範囲が非常に狭く、その分凝縮されて高威力となっているのが質が悪い。ひょっとしたら、詠唱時間が長いのは、範囲を絞りに絞って凝縮させる工程を経ているせいなのかもしれない。どれだけ狭いのかというと、魔法が炸裂してもアンジェリカさん達には被害が及ばないくらいの狭さなのである。


 こんな感じで一進一退の攻防が(ほぼこちらは防戦一方?)続いていたけど、やがてその均衡も崩れ初めて来た。まず脱落したのはルカさんだ。長い詠唱魔法を何度も使っているうちに魔力の枯渇状態になったのだ。そこからやがてセイラさんのスタミナが尽きたようで、動けなくなり、アンジェリカさん1人となってしまった。アンジェリカさんはしばらく頑張っていたけど、やはりスタミナ切れとなり、持っていた愛用の槍を落としてしまい、降伏してきたので試合終了。


 3人は疲労困憊で立ち上がるのも厳しそうだったので、マーブルがすぐに結界を解除してライムが3人に光魔法で3人を癒やした。ライムのそばにいたオニキスがアンジェリカさんの方へと向かい、巨大化したと思ったら、アンジェリカさんを包み込んだ。しばらくしてからアンジェリカさんの元を離れると、全体が汗だく状態であった体が、いつもの綺麗な体に戻っていた。オニキスはアンジェリカさんだけでなく、セイラさんやルカさんに対しても同じ事を繰り返し、セイラさんやルカさんもいつもの綺麗な状態に戻っていた。


「オニキス、ありがとう! おかげでサッパリしましたわ!!」


「ピーッ!!」


 オニキスはセイラさんやルカさんにもお礼を言われて喜びのその場ジャンプをしていた。やはり元がライムなだけあって、行動がライムそっくりで可愛い。ライムはライムで私を包み込んで綺麗にしてくれたので、私もライムにお礼を言うと、ライムもその場ジャンプを始めてしまった。・・・オニキスの速度もかなりのものだけど、やはりまだまだライムの方が上か、とか思いながらホッコリしていた。


「アイスさん、模擬戦を受けてくれて感謝致しますわ。正直、水術を使わない状態なら何とか、と思っておりましたが、ワタクシ達もまだまだですわね、、、。」


「いえいえ、3人の連携はお見事でした。正直、3人のスタミナ切れを狙う以外こちらの勝ち目はありませんでしたから。私としては、かなりキツい戦いでしたので、もうやりたくない、というのが本音ですかね。」


「フフッ、アイスさんにそう仰っていただけると、ワタクシ達も精進した甲斐がありますわね。」


 戦姫と和気藹々と話している一方、観戦していたルクレチ王国側の面々は顔面蒼白の状態だった。それもそうだろう、他国から使者を呼んで自国の強さをアピールする為に開いている武術大会のはずが、その使者に手も足も出ずにフルボッコにされ、そのフルボッコにした使者達をものともせずにスタミナ切れにしてしまう光景を見せつけられたのだ。


 この後、気を取り戻した国王陛下から、お褒めの言葉をもらい、ルクレチ国内における冒険者活動、つまり魔物の討伐とそれに付随する素材の権利、及び、食べられる植物を採取する権利がもらえることになった。これは地味に嬉しかったので、それはもらっておいた。その権利を行使するかどうかは別としてね。


 また、ライムに治療してもらった参加者達が、戦姫に土下座をして謝り、一応許しを得ていた。優勝者以外の面々はみんな震えていたなぁ、、、。本気でビビっていたんだろう。優勝者の剣士だけど、まだまだ修行が足りないとやる気に満ちていたなぁ。まぁ、頑張れよ!!


 ということで、ルクレチ王国でのイベントも無事終了し、国王以下国民ほぼ全員の見送りを受けてルクレチ王国を後にした。・・・流石に見送りを断って、マーブルの転送魔法でフロストの町に帰るのは無粋でしょう。まぁ、ルクレチ王国を離れてからさっさとフロストの町に戻ったけどね。


 町に戻って、解散した後の戦姫の3人の表情は晴れやかなものだった。さて、私達も美味しいものを食べてのんびりしましょうかね。・・・誰かさん達が集りに来なければいいのだけど、、、。


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アンジェリーナ「アイスさん、今日はありがとうございました!」

アイス「いえいえ。」

アンジェリーナ「そこで、今日はワタクシ達がうどんをご馳走致しますわ!!」

セイラ「アイスさん、沢山食べてね!」

ルカ「・・・ウサちゃん達も一緒、、、。」

アイス(領民達に殺されるかも。黙っていよう、、、。)


次の日、トリトン陛下に咎められて領内で騒ぎとなったらしい、、、。

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