第182話 さてと、移動中に監禁されました。

前回のあらすじ:カレーの存在がバレたので、急遽公開調理することになった。



 なし崩し的に始まってしまったカレー祭りも無事終了? したので、ルクレチ王国へと再び進むことに。森の中を進む予定だったのに、急遽街道を再び進むことに決定していたのは驚きを禁じ得なかった。また私の知らないところで話し合いがあり、満場一致(もちろん私以外)で街道を進むことにしたそうだ。


 馬車を引くのは相変わらずマーブル達を筆頭にウサギ族や豆柴達が担当している。一応タンヌ王国の王紋がつけられているタンヌ王国の王族しか乗れないような馬車(実体は私が所有している馬車にタンヌ王国の王紋をつけただけのもの)にもかかわらず、実際にこれを引いているのは立派な馬ではなく、見た目も大きさも非常に可愛らしい小動物達って、、、。


 数日で飽きてしまったので、森の中を突き進むことになっていたのだけど、どうしてこんなことが起こったかというと、実はカレーが大いに影響していた。というのも、今、私は御者席には座っておらず、というか、御者席には誰も座っていない状態なのだ。もちろん理由がある。察しのいい方は現時点で理解したかもしれないが、そう、ぶっちゃけアドバイザーとして馬車の中に監禁されているのである。


 言うまでも無く、この馬車は私所有ということもあって、マーブルが自重していない状態の空間魔法が付与されているということもあり、中~大規模の食堂クラスの広さにできる。普段は馬車の大きさより2、3倍程度の広さにしてあるが、今回はガッツリ拡大状態になっている。


 そこまで広くしてあるのは、ズバリ、メンバーが大幅に増えているからである。私やマーブル達、戦姫の3人とウサギ族に豆柴達のみだったものが、何故か知らないけど、料理長を始め、ギルドの食堂担当の者などの料理を司っている者達まで加わっているからだ。


 彼らは各自でスパイスを用意して、あーでもない、こーでもないを繰り返している状態で、こちらに味見をさせては意見を聞いてあれこれやっている。何故かアンジェリカさん達も各自であれこれ調合したりして味を確かめていた。ちなみに、戦姫の3人はカレーうどんを作りたいのだそうだ。気に入った味が出来上がるように頑張って欲しいと思う。でも、私を巻き込まないで欲しいと思うのは当然だと思う。


 また、馬車を引くローテーションも変更になったそうだ。今までは2交代だったものが、今度は3交代となり、1つは馬車を引く班、もう1つは森で食材を調達する班、で、もう1つは待機という名の味見をする班だそうだ。これによってウサギ達は日によって担当が変わるのは同じだけど、豆柴達がこちらに常駐することになったようだ。・・・君達、恵みのダンジョンの門番がメインの仕事なんだけど、、、。


 恵みのダンジョンについては、シロップ率いるハニービー達と、アラクネのヴィエネッタ率いるシルクスパイダー達が交代で門番を行うそうだ。それに加えて、安全性を高めるためにラヒラスが鑑定の魔導具を入り口に用意したそうだ。というのも、ハニービー達もそうだけど、アラクネ達でも豆柴の本来の姿であるケルベロスとオルトロスには敵わないそうだ、、、。何で、カレー>ダンジョンの安全になっているんだ? あ、そういえば、あのダンジョンって、ダンマス私だったっけ、、、。こっちでも警戒レベル上げておくか、、、。


 まあ、こんな状態になってしまったので、私だけが暇な状態になってしまったのはつらい。誰もこの気持ちを分かち合うことができないというのは、、、。ということで、最初の数日は我慢していたけど、アドバイザーという名の監禁は精神的にきついと訴えて、どうにか採取任務を受け持つことができたのは幸いである。こんなんでも、一応戦姫の護衛任務としての依頼でもあるので、この場は任せてフロストの町で引きこもりを敢行するわけにはいかないという事情もある。


 取り敢えず、採集班での活動という外出許可がおりたのは非常に大きく、思わず張り切って採集して回ったおかげで、改めて生姜やニンニクも含めた新たな香辛料や、人参、ジャガイモといった定番の野菜も見つかり非常に良い結果となった。数こそそれほどないけど、これらもしっかりと育てることにより当たり前のように食卓に上ってくれるだろう。


 お肉については、別段目新しいものは手に入らなかったけど、種類も豊富だし、特に問題はなかった。それ以上に面白かったのは、各班ごとに行動が異なることだった。マーブル達+オニキス、ウサギ達と一緒であったときは、ウサギ達の個人的な戦闘力を上げるべく、マーブルやジェミニがフォローしたり、ライムやオニキスが援護の防御をしたりと、これはこれでしっかりとバランスの取れた戦闘を繰り広げていた。


 ウサギ達のみの場合だと、それぞれ隊長の役割を持って、残りはその指示に従ってこちらもしっかりとした連携をもって魔物を倒していた。しかも、戦闘ごとに隊長を変えて戦っていたりしていた。豆柴達の場合は、魔物の気配を感じると1体の豆柴を残して、オルトロス×2でもって対応したりしていた。後でジェミニに聞いた話だけど、ケルベロスになってしまうと、力の制御が難しいらしく、魔物が逃げてしまうのだそうだ。そうならないように、力の制御をしやすいオルトロスになっているのだとか。


 戻り方もそれぞれ変わっていて興味深いものだった。ウサギ達は、一直線に馬車の元へと走るが、豆柴達は合体を解いてから、一旦街道に出て、街道沿いに馬車を追いかけたりした。マーブル達ですか? もちろん私の上に飛び乗って私が水術で移動するんですよ。本当なら、ウサギ達や豆柴達も私の上に乗ってモフモフしながら戻りたいそうだけど、慣れていないから無理ということで、到着してからモフモフしてもらうことにしているのだそうだ。これは後日にカムイちゃんから聞いた情報だ。それを聞いたときは非常に嬉しかった。


 そんなこんなで、馬車で移動すること2週間弱、ルクレチ王国まであと1日というところで、馬車でのカレー研究は終了となり、メンバー編成、及び、馬車を引くローテーションなども初期のものに戻った。解散したときは、みんないい笑顔になっていた。ある程度満足のいく配合ができたんだろうな。これで完全に私の手から離れたので、味だけではなく、料理についても広げていって欲しいと思った。


 国境まであと数時間というところで、冒険者の格好をしていた戦姫が、姫モードの服装に着替えるべく馬車の中に籠もった。私は今回は護衛依頼、つまり冒険者として来ているので、そのままの格好である。とはいえ冒険者装備でヒドラ皮の革鎧一式を身につけた状態である。サイズ的には全く問題なかったけど、基本装備などはあまり身につけていないので、結構違和感があったのは致し方ない。


 今回、馬車の引き手としての大トリを飾ったのは、ウサギ族だった。ウサギ族はレオを真ん中に、レオの隣には、左右をそれぞれファーラビットとベリーラビットが、両端にはホーンラビットという配置となっており、陣形的には見事な感じではあった。戦闘面では全く隙が無い状態である。でも、見た目や大きさは、どこにでもいそうなウサギ、、、。


 そんなウサギ達に馬車を引いてもらいながら、国境に到着。御者席の隣にはマーブル達が、御者席の後ろの席には戦姫がそれぞれ座っており、外交的準備は万端であった。タンヌ王国側の守備兵達には話が伝わっていたようで、特にトラブルもなく、、、。いや、トラブルはあったか。ここでもやはり戦姫。戦姫を一目見んと守備兵達が集まってきてしまった。その上立派な馬車を引いているのはウサギ達、もうすっかり守備兵達は馬車に釘付けですよ、、、。


 最初こそ、おお、戦姫大人気! とか、流石はウサギ達、可愛いよね! とか思っていたけど、余りに動けなかったのでいい加減うんざりしてきていた。戦姫もさっさと先に進みたいような顔をしていたし、マーブル達もいい加減、我慢の限界が近い感じのようだった。まあ、さわり方が乱暴だったりとか、腹立つ要素は他にも沢山あったのかもしれない。ついにレオ達が、いい加減にしろ!! とばかりに周りに殺気を振りまくと、あれほど騒ぎが大きかったのにもかかわらず、一気にシーンとなり、また、モーゼのように人の波が綺麗に分かれた。


「任務ご苦労様ですが、いささかハメを外しすぎたようですね。今回は見逃しますが、次はありませんよ、いいですね?」


「「は、ははっ!!」」


 セイラさんが守備兵達に声をかけ、その声を合図に、まだレオの殺気が抜けていないのか、直立不動のまま応える兵士達。これ以上のことは起こらずに、このまま国境を通過して、ルクレチ王国側の関所に到着した。


「ここから先はルクレチ王国です。我が国には何用で?」


「任務ご苦労様です。私達は此度の武術大会に招待されました、タンヌ王国の使者、アンジェリーナ・デリカ・タンヌ王女殿下の者です。」


 ルクレチ王国の守備兵が話してきたので、私が答えた。今の私はトリトン帝国侯爵じゃなくて、アンジェリカさん達の警護兼御者だしね。


「そうでしたか、ですが、念のために招待状を確認させて頂きます。」


「はい、こちらです。」


 アンジェリカさんから預かっていた招待状を袋から取りだして兵士に袋ごと渡す。兵士達は招待状を入れていた袋に驚いていた。無理もない、招待状を入れていた袋は、これもアラクネの固有種であるヴィエネッタの糸のみを使って、その糸は洞穴族の手で加工され、それをゴブリンの職人達が腕によりをかけて刺繍とかして作り上げた逸品なのである。今まで見たこともない贅沢な袋を見て驚くな、と言う方が無理だろう。


「た、確かに確認致しました。し、しかし、武術大会はまだ1月ほど先になりますが。」


「1月ほどは、こちらの国をのんびりと観光などしたいのですが、よろしいですか?」


「・・・あまり大きな声では言えませんが、残念ながら我が国では、見るべきものはほとんどありません。」


「豊かな自然を見て回りたかったのですが、何か問題でもおありで?」


「なるほど、自然ですか。我が国は確かに自然豊かな国です。が、残念ながら、場所は大きく制限されてしまいますが、それでもよろしいですか?」


「ええ、構いません。確認出来る場所だけでも構いませんので。」


「でしたら、一旦王都へと足を運んで頂き、その旨を伝えていただければ、担当の者がおりますので、後はその者に聞いてください。我らはあくまで国境の警備担当ですので。」


「ご丁寧にありがとうございます。では、そのように致します。」


「あ、すっかり失念しておりましたが、今回の代表の方はどなたになりますか? 申し訳ありませんが、これも規則故ご容赦願いたい。」


 彼の発言を聞くと、今まで一言も話していなかったアンジェリカさんが声をかけた。


「任務ご苦労様です。ワタクシがタンヌ王国の代表である、アンジェリーナ・デリカ・タンヌですわ。」


「ま、まさか、貴方が、かの有名なアンジェリーナ王女殿下でございますか!? お、お会いできて光栄でございます。」


「こちらこそ。ところで、もう通過してもよろしいですか?」


「は、はっ。どうぞ、お通りください。そして、ルクレチ王国へようこそいらっしゃいました!!」


「ありがとうございます。任務、大変かと思いますが、頑張ってくださいませ。」


「「は、ははっ!!」」


 兵士達は直立不動のままであったが、視線はアンジェリカさん達一点に向けられていた。いや、それはいいんだけど、馬車を引いていたのがウサギ達だったことについては誰も突っ込まなかったことに驚きを禁じ得ない私がいた。


 国境の砦を越えると、その先にはしっかりと舗装された道が続いていた。しばらく進むと分かれ道になっており、「←町、城→」という看板があったので、もちろん城側の道を進んでいくと、やがて王都へとたどり着いた。


 王都の門でも、招待状の有無を確認してきたので、先程の袋と一緒に渡す。同じように驚かれたけど、やはり同じような遣り取りが起こった後に袋+招待状を返してきたので、受け取ってそれをしまった。観光をしたい旨を伝えると、城の外ならば、どこを観光しても構わないといわれたが、食べられるものについては採取を禁じられてしまった。


 というのも、勝手に食べ物を取られてしまうと、国民達の食べる分がなくなるからだそうだ、というのも、この国は、確かに自然豊かで木の実など豊富にあるけれども、その分畑などはほとんどないらしい。そういえば、街道もそうだったけど、木は生い茂っているけど、畑などは一切見られなかったことを思い出した。


 また、宿泊設備だけど、町には一切そういった施設は存在せず、王城にいくつか存在する程度だそうだ。基本的にはこの国を訪れる者は来月の武術大会で呼ばれる来賓、あるいは外交に来る者くらいなんだそうだ。まあ、宿泊はフロストの町へと戻るのでこちらとしてはどうでもいい、のんびりと観光さえできればね。


 とりあえず王都に無事到着して、さらに観光の許可は取れたので、今日の所は転送ポイントをどこにするかを決めて、フロストの町へと戻るだけだ。そんなことを思いつつ、何故か心のどこかで引っかかりを覚えていた。・・・何だかこの国って、記憶にあるぞ、、、。


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トリトン陛下「おう、料理長、首尾はどうだ!?」

料理長「バッチリです。」

リトン宰相「他の方達の様子はどうでした?」

料理長「彼らも何かを掴んだようです。これで、食文化が一気に花開きますよ!!」


トリトン陛下やリトン宰相だけでなく、周りにいた人達も何故か大声で叫んでいた、、、。

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