第161話 さてと、領民が増えてもやることは変わりませんね。

前回のあらすじ:人間の諜報部隊を結成した。



 ラヒラスとアインに頼んで、暗殺者ギルドを我が領の諜報部隊に組み込んだけど、これで暗殺者ギルドがなくなったのかと言ったら、そうではない。というのも、暗殺者ギルドは非合法な組織であるので、冒険者ギルドや商業ギルドみたいにどこかに本部があって各国にネットワークが存在する、ということではなく、各国にそれぞれ存在していると思ってくれれば問題ない。



 あくまで、フロスト領で取り込んだのは、我が領にちょっかいをかけてきたサムタン公国の暗殺者ギルド、いや、正確にはガブリエルを頭とした組織のみである。アバロン帝国にももちろん存在するし、あそこは下手をすると複数存在しそうだ。ちなみに、我がトリトン帝国には存在していない。というのも、ぶっちゃけ必要がなかったからだ。それ以前に、暗殺者ギルドに支払う代金すら用意できる状態ではなかったようなのだ。



 話も終わり、アインがガブリエルを連れて出たので、ラヒラスだけになった。



「ラヒラス、任務お疲れ様。ガブリエルは、ここの領民になることを希望したけど、納得いってない人物も一部はいるよね?」



「もちろんいるに決まっているよ。数人はアバロン帝国とか他の国に移ったようだし、ここの領民になった者達でも数人は割り切れていない感じだね。」



「まあ、そうだろうね。ということで、その他の国に移った者達は放っておくとして、割り切れていない数人を他国に常駐させようと思うんだけど、どうかな?」



「その辺は任せて。すでに、手は打ってあるから。実は、アバロン帝国へと行った数人は、アバロン帝国で諜報活動をしてもらうことにしたんだよね。で、割り切れていない数人についても、追加でアバロン帝国以外の国へと向かってもらったから。そういった連中は俺が使うけどいいよね?」



「それは構わないよ。基本的にフロスト領に面倒な案件が来たときだけ報告してくれればいいから。細かいことはそちらに任せるよ。で、予算なんだけど、とりあえず金貨2000枚を当座の予算として渡しておくから好きに使って。」



「・・・好きに使ってって、、、。アイス様、どれだけ個人資産あるんだよ、、、。まあ、有り難く使わせてもらうけど。」



「入ってきても、基本使うことってあまりないからねぇ、、、。使うにしても、屋台のおっちゃん達に支払う串代くらいなもんだし。まだギルドに卸していない素材も腐るほどあるし、、、。」



「・・・そういえば、そうだったね、、、。食事にしても、自分達で手配しちゃうからねぇ。後は使うにしても服装くらいなものか。それでも、そんなに持っていないようだしね。」



「その辺は、余所は余所、うちはうち、ということで。ということで、細かい指示に関してはそちらに丸投げするけどいいよね。」



「了解。あと、当座で渡された資金だけど、こっちで勝手に運用しても大丈夫だよね?」



「しっかりと彼らに正当な報酬を払ってくれたら問題なし。仮に足りなくなったら言って。とはいえ、毎日同じ額よこせ、って言われても出せないけどね。」



「流石にそんなことはしないよ。そうならないための運用だからねぇ。フェラー族長達にこれ以上苦労させる訳にもいかないし。一応、向こうに行ってもらった連中には、ここの組織を抜けたい場合には一言伝えるようには言ってある。無断で抜けたり、裏切り行為をしたりした場合どうなるかも含めてね、ククク。」



 うわぁ、久しぶりにラヒラスの黒い顔を見たけど、マジで怖ぇ、、、。配下にしておいてよかったよ。



 ガブリエル達が率いる暗殺者ギルドを諜報部隊として我が領で使うことにしたことを、トリトン陛下やリトン公爵へと伝える。



「ほう、侯爵も自前の諜報部隊を揃えるのか。」



「はい、詳細はアインとラヒラスに丸投げですけどね。」



「いいんじゃねぇか。それにしても、侯爵が諜報活動をしてくれるとなると、俺らとしてもかなり楽ができるよな、宰相。」



「ええ、ええ。フロスト侯爵の方で、そういったことをしてくれると、私達の仕事が減りますからな。フロスト侯爵なら、我が国民に対して悪い使い方はしないでしょうから。」



「そうだな、このままいっそ。」



「ですな、いっそのこと。」



「それ以上は言わなくていいです。その先にある面倒事を押しつけようと考えるなら、この国を去りますけどよろしいので?」



「「うっ、、、。」」



 まったく油断も隙もあったもんじゃない。この2人、何かとあったら、国を任せるとか平気で言ってくるからなぁ、、、。



「ところで、諜報活動の報告って、陛下や公爵に逐一行ったりします?」



「ん? どうなんだろうな? 宰相、その辺はどうなってる?」



「そういえば、アイン殿が聞いて来ましたな。一応把握はしておきたいので、頼むと伝えましたが。しかし、フロスト侯爵も律儀ですなぁ。」



「そうだな。普通、自前の諜報部隊は、自分たちでのみ把握して、その一部を俺らに伝えたりするもんなのだが。」



「まあ、その辺りがフロスト侯爵らしいといえば、そうなのですな。」



「正直、面倒事は背負いたくないので。本音を言うと、そっちに丸投げしているようなものですけどね。」



「どのみち、我らには大規模に諜報活動させるだけの予算は今のところございませんので、非常に助かることには違いありませんな。」



「そうだな。諜報担当が他の貴族ならともかく、フロスト侯爵が担当してるから、安心だな。」



「ええ、全くその通りですな。」



 やっぱり、この主従おかしい、、、。まあ、私には最低限の報告でいいとアイン達には伝えてあるし、アインもラヒラスもしっかりと精査して2人に報告してくれるだろう。



「それにしても、陛下。」



「うん?」



「ラヒラス殿に諜報部隊を与えてしまうと、飛べない災厄クラスの魔物に翼を与えるようなものですな。」



「ガッハッハ! そうだな! 他国の連中には同情してしまうな!」



「ですな、いやぁ、敵でなくてよかったですな。」



「全くだ!!」



 ありゃ、2人も同じ事考えてたよ。ってか、あの2人もラヒラスの異常性について知ってる!? まあ、知っていても不思議ではないか。



 とまあ、情報が2人にも伝える感じで話が決まったようだ。その辺はアインとラヒラスに任せておけば大丈夫だろう。



 あれから数日が経過し、ガブリエル達もここでの暮らしに馴染んできたようで、領民達と一緒になって食事をしたり、ウサギ達やコカトリス達と遊ぶ風景を目にするようになった。ここに来たときには、死んだような濁った目をしていた彼女達だったが、嬉しそうに日々を過ごしている光景を目にして、呼んで正解だったと個人的には思っている。



 また、アバロン帝国の内情も徐々にわかるようになってきた。ってか、まだ数日しか経ってないのに早すぎないか!? どうやら、通信用の魔導具を渡しておいたそうだ。あれって、かなりの量の魔石を消費するんじゃなかったっけ?



 話を聞くと、私達が持っている魔導具は、魔導具間でそれぞれ通信できるようにしてあるため、消耗が激しいそうで、彼らに渡したのは、フロスト領にある本体としか遣り取りできないようにしてあるため、あまり消費しないようだ。また、元が暗殺者ギルド員だけあって、腕もそれなりにあるので、いざとなったら、自分たちで魔石を調達するのは容易とのこと。



 いろいろと情報が入ってくるようになり、ラヒラスもそうだけど、アインもたまに黒い笑みを浮かべるようになったのは正直どうなのだろうか、、、。



 とりあえず、アバロン帝国から来る使者であるが、あと2週間くらいで到着するそうだ。2週間もあれば、使者がこちらに来る詳細な目的もつかめるとのこと。どうせ、まともなこと考えていないだろうな、というのは容易に想像できる。とりあえず、のんびりと待つとしましょうかね。まあ、期日通りに来ようが来まいがどうでもいいけどね。



 アンジェリカさん達は、相変わらず氷王の訓練場に通っているみたいで、彼女たちに追いつこうと、冒険者達はもちろん、領民達も積極的に氷王の訓練場に潜っているようだ。それに伴って、マーシー教官による訓練もさらに活発になっているようだ。



 また、冒険者達や領民達が積極的に活動しているおかげか、フロストの町の冒険者ギルドの経済活動も活発化しているようで、税収が結構増えているとフェラー族長から報告を受けている。逆に使い途がなくて経済活動がしづらいとのことなので、帝都やリトン公爵の領地にはあっても、フロストの町にはない物を積極的に購入する動きが出始めているようだ。さて、どんなものが手に入るのか。



 私の方は相変わらずで、領主の仕事をこなしつつ、ミード、ジャーキー、腸詰めなどの製作、マーブル達とあちこちに行っては、未知なる素材を探索しに行ったりしていた。残念ながら、未知なる素材については今のところ発見には至っていない。帝都やリトン公爵領でいいものが見つかるといいなとは思う。



 そういえば、夕食の度に、トリトン陛下やリトン公爵夫妻が料理長や成果上位者を連れてこの町を訪れているのは当たり前の光景になってきたけど、最近、タンヌ国王夫妻も来るようになったらしい。生まれたばかりの王子を連れて、、、。どうやら、王子は1日に1回はここに連れてこないとかなり不機嫌になるらしく、逆にここに連れてきた次の日は非常にご機嫌とのこと。



 自国の皇帝が、首都を離れて毎日ここに来るということだけでもおかしいのに、同盟国となったとはいえ、他国の国王が毎日他国の一都市に来ているのはどうなのだろうか? そのように、一緒に夕食を食べているアンジェリカさん達に話すと、アンジェリカさん自身もタンヌ国王にはそう言っているらしいが、王子のご機嫌を名目に全く聞いちゃいないそうだ。下手に王宮にいるよりも、ここにいた方が安全とまで居直られてしまったと愚痴をこぼしていた。



 そういえば、アンジェリカさん達はここ毎日、最後にゴーレムに戦いを挑んでは、どれだけ強くなったのか試しているそうで、最近ようやく影のゴーレムまで戦えるようになったと言っていた。炎のゴーレムは倒せるようになったけど、まだ消耗が大きく、影のゴーレムを倒すまでには至ってないようだ。戦姫ほどの実力を持ってしても倒しきれないとは、、、。ダンマスに頼んで確実に逃走できるようにしてもらったのは正解だったなとつくづく思った。



 ここ最近、戦姫の3人とは一緒に行動していないせいか、その分、夕食では一緒に食べることが多くなっている、というか、毎日3人がここに来ては一緒に食事を摂っている。夕食だけじゃなく朝食もこっちに来て食べているな。マーブル、ジェミニ、ライム成分が足りないのだろう。まあ、気持ちはよくわかる。私としてもマーブル達がいない生活なんて耐えられないからね。そんなことを思わず呟いたとき、マーブル達からはもちろん、セイラさんやルカさん、さらにはオニキスまでジト目でこちらを見ていた。何か間違ったこと言ったのかな?



 こんな感じで日々を過ごしていたら、ウルヴから、アバロン帝国の使者があと2、3日でこちらに到着すると報告が来た。・・・ゴメン、すっかり忘れていたよ。


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冒険者A「おい、今、戦姫は3人だけで活動しているようだぞ!」


冒険者B「本当か!? ご領主は一緒じゃないんだな?」


冒険者A「ああ、今は戦姫の3人は氷王の訓練場で修行中のようだぞ。」


冒険者B「よし! 俺も氷王の訓練場で修行だ!!」


ギルド員「戦姫の3人は現在地下3階におりますが、あなた方は大丈夫ですか?」



冒険者達「・・・。」


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