第146話 さてと、何かとこき使われて困っております。

前回のあらすじ:酵母入りのパンも作ってみました。




 ・・・調子に乗りすぎてしまった。いや、予定ではここまで沢山作る気は全くなかったんだけど、酵母を入れることによって、タネがしっかりと膨らんで柔らかくなっており、焼けたときには予想以上の味わいがあったので、ドンドン作ってしまったのだ。



 鼻のいい領民などは、早い段階で気付いてしまい、こちらが気付いたときには領民達がのぞきに来ていた始末である。



「フロスト様、そこで作っているのはひょっとして、パンですか?」



「うん、そうだよ。酵母が手に入ったから、本格的に美味いパンが作れるようになったんだ。」



「「な、何? 美味いパン、だと!?」」



 それを聞いた住民の1人がここを離れてしまった、と思ったら、何人かこちらにやって来た。



「フ、フロスト様、そのパンの作り方、私達にも教えて頂けませんか?」



「ワタクシも是非教えて欲しいですわ!」



 いつの間にかアンジェリカさんも加わってしまい、今度はパンの料理教室が強制的に開催される結果となってしまった。とはいえ、領民達もそうだけど、アンジェリカさんもパンというより、ナンもどき自体は作ることができるので、教えたのは酵母の割合と、生地を寝かせる必要性についてだけだった。



 3種類の酵母を入れて作り上げたパンのタネを各自で持って帰ってそれぞれ自分たちで焼いてもらうことにしてパンの料理教室が終了した。それぞれに好きな焼き加減があるので、そこまでは面倒見切れないし、正直面倒だ。領民達でできるものは、領民達で頑張ってどうにかしてくれたらいい。



 まあ、何だかんだ言っても、天然の酵母を使用しているので、以前いた世界のようにイースト菌を使っているわけではないので、そこまで膨らまないと思っていたら、そんなことはなく、イースト菌を使ったものと同等か、それ以上の膨らみを見せてくれたので、これはこれで驚いた。



 私達は調子に乗って作りまくってしまったので、順番に焼き上げては、収納スキルで次々に完成したパンを入れていく。そのついでに、アンジェリカさん達が作ったパンを焼き上げていく。アンジェリカさん達が作り上げたパンが焼き上がったところで、私達はパン作りをやめて、焼き上げだけを行う。アンジェリカさん達は早速自分たちで作り上げたパンを味見する。



「「「!!」」」



 3人が3人とも驚いた表情だった。



「どうですか? ご自身で作り上げたパンの味は?」



 こんなことを言ったけど、最初から作ったのはアンジェリカさんだけで、セイラさんとルカさんは、一次発酵後の成形から作業開始していたから、厳密には作り上げたかというと疑問だけど、そこを突っ込んではいけない。



「ア、アイスさん、これって、パンですわよね?」



「そうですよ。アンジェリカさんも最初から作業されていたじゃないですか。」



「ええ、それは承知しているのですが、まさか、ここまで味が違うものだったなんて、、、。」



「以前の世界で食べていたパンは、だいたいこのくらいは柔らかかったですね。」



「アイスさんの以前いらした世界って、とんでもないところだったのですね、、、。」



「食に関してはそうですね。でも、こちらも大概ですよ。まあ、食以外でしたら、こっちの方が私は好きですね。」



「それはそうと、こんなパンを食べてしまっては、他のパンなんて食べられませんわ。」



「私も同感ですね。これほど柔らかくて美味しいパンですと、うどんとこっち、どちらを作ろうか非常に迷いますよね。」



「そうですわね。でも、よろしいのではなくて? どちらも美味しくて、ワタクシ達にも作れるのですから、思い切って日によって作り分ければ?」



「・・・賛成。」



「ルカは食べるだけでしょうに、、、。たまには手伝ってくれてもよろしいのですよ?」



「前向きに善処。」



「つまりは、するつもりがないのね、ハァ。」



 やれやれと言わんばかりにアンジェリカさんが言う。ルカさんって、一応侍女なんだよね?



「おお! いい匂いがすると思って来てみたら、そういうことか。」



 はい、来ましたよ。あの方が。ったく、どれだけ鼻がいいんだよ、、、。



「・・・それにしても陛下、こんなところで油を売っていてもいいので?」



「ん? タンヌ国王のことか? それだったら問題ねえ。既に話し合いも終わったからな。今は俺の別荘でくつろいでもらってる。」



「え? もう話し合いって終わっているんですか?」



「おう! ある程度は決まってたからな。ほとんど書類にサインするくらいのもんだ。」



「移動にしても、会話にしても、いつの間に、、、って、まさか!?」



「おう、ラヒラスに命じて魔導具を作ってもらったんだ。最初は挨拶程度の会話だけだったんだけどよ、そのうち食べ物の話になったらな、『余もその美味い食事を食べたい』と言ってきやがったんだよ、んで、同盟を締結するに当たってな、そのついでといっては何だけど、そのときにその食事を食べたいっていうからな、じゃあ、会場をここにしようって話になってな。それともう1つ理由があってな。」



「なるほど、よくわかりました。元凶が貴方だということが。それでもう1つの理由とは?」



「いや、何、そこにいるアンジェリーナ嬢達のことだ。久しぶりに顔が見たいと言ってな。」



「・・・普通はそっちがメインじゃないんですかい?」



「それは、向こうさんの都合だから、俺は知ったことじゃない。ということで、丁度良かった。アンジェリーナ嬢達は申し訳ねぇけど、俺と一緒に別荘で食事会だ。悪いけど頼むな。」



「一応、タンヌ王国の王族ではありますが、今はフロスト領の領民ですから、トリトン様、いえ、皇帝陛下のご命令とあれば、ご一緒致します。・・・気は進みませんが、、、。」



「面倒な気持ちはわかるが、顔をだしてやってくれ。親子だしな。あと、王妃もそっちにいるらしいから、ついでに会ってやってくれ。」



「お母様もこちらに!? でしたら、ご一緒しますわ。」



「・・・タンヌ国王もかわいそうに、、、。」



「まあ、それが男親なのでしょうかねぇ、私にはわかりかねますけどね、、、。」



 アンジェリカさんの態度にトリトン陛下と私は少しタンヌ国王に同情しつつ、ヒソヒソと会話した。



「ところで、話は変わりますけど、ひょっとして、会話の魔導具に転送魔法も組み込んだのですか?」



「おう、そうだな。別々にする必要があるか? って聞いたらよ、魔石の種類を変えれば、転送魔法も組み込めるって聞いてな、それで、そうしてくれ、って頼んだんだよ。」



「複製される危険性は? 国王は大丈夫だとしても、その側近達とかに対してですけどね。」



「それは大丈夫じゃねえかな。お前さん、ラヒラスにヤバい魔物の魔石渡しただろ? 確か、ドラゴネアだったか? あれ、普通のドラゴンじゃねえからな。あんなもん、どこで手に入れたんだよ、、、。そのクラスの魔石じゃないと発動しないって言ってたぞ。しかもだ、合成してアレに匹敵する魔力まで高めた魔石では発動できないって代物らしく、単体の魔物でないと発動できないって言ってたな。」



「なるほど。ラヒラスがそう言っていたのなら大丈夫そうですね。ちなみに、ドラゴネアですが、フロスト領で見つかったダンジョンの、冒険者にも一般開放している方ですね。」



「おいおい、マジかよ、、、。で、そこからスタンピードなんて起きねぇよな?」



「恐らく大丈夫だと思います。暇つぶしにマーブル達と狩りに行ったりして数は減らしてますから。」



「あのクラスを狩り扱いかよ、、、。俺ら神でも多少は手こずる存在だぞ、あのクラスは、、、。」



「もちろん、楽勝じゃないですよ。合体技を駆使しないとサクッと倒せませんしね。」



「いや、そのサクッと倒せる時点でおかしいんだよ、、、。」



「まあ、そこはマーブル達ですからねぇ。」



「いや、マーブル達もお前にだけは言われたくねぇだろうよ、、、。」



 トリトン陛下の発言にアンジェリカさん達はおろか、マーブル達も同意していた。で、当のマーブル達がトリトン陛下に何やら話しているようだ。ってマーブルが何を言っているのか陛下わかるの!?



「ハァ? おい、マーブル、その話は本当か!?」



「ミャッ!」



「・・・ハァ、マジかよ、、、。」



 何か陛下が呆れかえっているぞ。とはいえ、私は陛下の普段の行動に呆れかえるのだけど、、、。



「まあ、そこはフロスト侯爵だからということで、侯爵、夕食の準備は頼むぞ!」



「いや、頼まれたら作りますけど、タンヌ王国国王にお出しする料理ですよね? でしたら、料理長の方がいいのでは?」



「その料理長推薦だ。諦めて作れ。」



「アイスさん、ワタクシの両親に気を遣って頂けるのは嬉しいのですが、全くもって問題ありませんわ! むしろ、アイスさんがお作りになった方が、うちの両親も喜ぶと思いますの。」



「ということだ、侯爵、頼むぜ。あと、酒もよろしくな!!」



「なるほど、実はそっちがメインだったりしますか。承知しました。とはいえ、申し訳ありませんが急ごしらえになりますけどよろしいですか?」



 トリトン陛下とアンジェリカさんが揃って頷いていたので、了承して夕食の準備に取りかかった。まあ、出席しなくて済むんだから、安いものだと割り切ろう。



 今回はパンを前面に押し出そうかと思ったけど、調味料が足りん、、、。あ、いい機会だ、あれを作るか。ということで、用意するのは、卵、酢、油、スガー。察しのいい方は気がついたかもしれない、そう、マヨ作りますよ、もちろん全卵で。油はいつの間にかあったので、それを使う。鑑定でも「植物油」と出ていたので大丈夫、の、はず、、、。さあ、材料投入して、マーブル、出番です。思いっきり攪拌してやって。



 マーブルの風魔法のおかげで、大量のマヨを短時間で作成完了。味見をしてみると良い感じに仕上がったのではないかと思う。



 次は、タルタル、作るよ。卵を水術で固ゆでの状態にして、殻を割ってマーブルに細切れにしてもらってからかき混ぜる。途中でスガーを投入して味付け。よし、これで十分かな。贅沢を言うと、大根が欲しい今日この頃。特におろし醤油があるだけで、料理の幅が広がるんだけど、ないものは仕方がない。



 肉は、と、どうしようかな。色々用意しておくか。・・・よし、準備完了。あとは葉っぱ系だけど、これは適当に何とかしよう。・・・よしこれも大丈夫だな。



 準備が完了したので、運んでもらった。この部屋にいるのは私とマーブル、ジェミニ、ライムといういつものメンバーのみになった。さあ、頂きましょうか。



 マヨやタルタルについては、マーブル達も喜んでくれた。作った甲斐があったというものだ。にしても、油っていつの間にか手に入っていたんだけど、どこで手に入れたんだろうか、、、。



 ほぼ普段通りの料理だけど、喜んでくれれば幸いかな。まあ、メインはライムミードやマーブルビール、ジェミニビールだろうから、料理はそれほど気にしなくてもいいかな。念のために麦汁ジュースも用意しておいたけど何とかなるかな?



 無事食事会は終わったらしく、ホッとしたのも束の間、今度は料理長の襲撃に遭ってしまった。狙いはもちろんマヨとタルタルである。まあ、別に隠すほどのことでもないし、料理長ならより美味しく作ってくれるだろうということで、喜んで教えた。理解した料理長は満足した顔をして戻っていった。



 とまあ、こんな感じで今日は終わったけど、正直、そろそろ落ち着いてほしいと切に願いながら、モフモフを堪能して床に就いた。



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トリトン陛下「おい、料理長! この白いやつと黄色いやつ知ってるか?」


料理長「いえ、陛下。初めてお目にかかるものです。」


トリトン陛下「そうか、料理長わかってるな?( ̄ー ̄)ニヤリ」


料理長「もちろんです、陛下( ̄ー ̄)ニヤリ」

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