第119話 さてと、これは思わぬ物が手に入りました。

前回のあらすじ:ハエが群がってきたので、追い払った。ついでにゴミも回収してもらった。




 面倒な使者ご一行は犯罪者を回収して帰途についた。本来であれば一泊させて次の日の朝に出発してもらうのが筋だろうけど、領民達は先程の遣り取りについて一部始終知っているため、誰も使者一行に気を配ることがなかった。同じ領民に迷惑をかけた上に、それについて一切わびることなくそれが当然といわんばかりの口上では当然だろう。まあ、罪人達を運ぶ馬車? については、重量軽減の魔法をかけてもらってあるから見た目ほど大変な行程ではないことだけは言っておく。



 私達は怒りを鎮めるために、恵みのダンジョンへと行っており、もちろん彼らの見送りなどはやっていないのは言うまでもない。これから公国と教団は我が領が冒険者ギルドで卸している素材や魔石を売らないように通達を出してあるので、正規の値段では手に入らない。恐らく別の所から購入するのであろうが、間違いなくぼったくられるであろうことは想像に難くない。今までは教団関係者がかなりの量を買い占めていたそうだけど、これで他の所にも回るようなので、むしろ感謝されたようだ。ギルド長がそう言ってた。



 仮にお金が手に入らない状況に陥ったとしても、指示したのはこちらだから、ここの冒険者ギルドの職員の生活の面倒はしっかりとみるので安心して欲しい。私がそう話すと、ギルド員達は喜んでくれていた。ギルド員の中には、ギルド所属ではなくフロストの町所属だと思っている職員も結構多いらしい。



 ところで、なぜ恵みのダンジョンへと向かったかというと、単純に時間がないというのが大きい。あいつらのおかげで、ほぼ半日潰れてしまったので、ウィ、じゃなかった、もう1つのダンジョンを探索するのには時間が足りないのだ。というのも、どこからかかぎつけてきたのか、訓練所からアンジェリカさん達が一緒に行くという話になってしまったのだ。あ、情報源というか、トリトン陛下がドナドナされていったときに確認しているのか。一応3人には、今日はもう1つのダンジョンではなく、恵みのダンジョンだよと言ったけど、それでも一緒に行くとのことだったので、同行してもらうことにしたのだ。



 恵みのダンジョンへと到着し、地下1階へと移動する。いつも通り最初の広間には誰もいなかったので、次の広間に到着した途端、豆柴達が一斉にこちらに飛びかかってきて、ペロペロ攻撃を思いっきり受けてしまった。まさか、ここまで喜んでくれるとは思わなかった。こちらもお返しと言わんばかりに思いっきりモフってやった。しばらくモフモフタイムを堪能してここを去る。骨をあげようとしたら、今日はいらないといわんばかりに興味を示さなかった。住人達もこまめにここを訪れているようだ。



 豆柴達の見送りを受けて、次の広間へと向かうと、いつも通り豆柴に化けたダンジョントラッパーが襲ってきたので、いつも通り氷の結界を張って対処、骨を入手した。この先は階段のある広間まではひたすらダンジョントラッパーが出現するはずだけど、階段の手前の広間には違う存在がいたのだ。



 その広間にいたのはスライムであったが、特に敵意は感じられなかった。しかし、ライムの「ボク達とはちょっとちがうー。」の一言が気になったので念のために鑑定をしてみた。



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『ゼラチンマスター』・・・全身がゼラチンというものでできておるようじゃのう。一応念のために言っておくが、こやつは、あくまで「ゼラチンマスター」じゃからな、「スマター」ではないぞい。


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 なるほど。ゼラチンですか、、、。って、何でアンタが「スマター」とか知ってるんだよ、、、。アンタ私の生きていた時代の人じゃないでしょうに、、、。まあ、それは置いといてだ。ゼラチンか、、、。うん、デザートの幅が広がるかな。純度によってはオニジョロウの強化もできるかもしれないな。問題はどうやってゼラチンを手に入れるかだけども。



「アイスさん、どうしましたの? 何やらあのスライムに何かあるようですが、、、。」



「ああ、アンジェリカさん、あの魔物は「ゼラチンマスター」という名前らしく、どうやらスライムとは少し異なるようです。ライムも「ちょっと違う」と言ってましたしね。」



「なるほど。しかし、あの魔物からは敵意を感じられないのですが、どうなさいますの?」



「そこなんですよね。あの魔物は「ゼラチン」という物質でできているみたいで、そのゼラチンですが、いろいろと使用できる便利なものなので、どうしようかと考えておりまして。」



「いろいろ、ですの? 例えばどんな使い方が?」



「ゼラチンは、熱湯で簡単に解けてしまいますが、冷えると固まる性質があるんですよ。ですので、接着材として使用したりするのが基本ですね。ただ、このゼラチンって食用にもできるんですよ。これでデザートの幅が広がったりしますね。といっても、私程度の知識ではゼリーを作るのが関の山ですけどね。」



「えっ? 新しいデザートですの!? ゼ、ゼリー? そ、それは一体どんなものですの?」



 アンジェリカさんだけでなく、セイラさんやルカさんまでこちらの肩を掴みだす次第。近い近い、、、。



「とりあえず、落ち着いて。ゼリーとはですね、基本的には甘い飲み物に溶かしたゼラチンを入れて冷やして固めて食べる物ですね。プリンより少し硬い感じかな。作り方によってはプリンより柔らかいか。」



 それを聞いてますます興味津々の3人、いや、3人だけではなく、マーブルやジェミニやライムまで反応していた。みんな期待した目でこちらを見ていた、、、。



「みんな、ちょっと落ち着いて。そもそも、ゼラチンの説明をしただけで、今現在手に入っている訳ではないんですからね、、、。」



 そう言うと、ライムが元気よくこう言ってきた。



「じゃあ、ボクがあの子に「ゼラチン」というものをもらえるか、きいてくるー!!」



 ライムは張り切って、スマt、じゃなかった、ゼラチンマスターの所へと向かって行った。それを見て、マーブルとジェミニもその後についていった。



 ライムはゼラチンマスターのところへと行くと、ピーピー言いながらその場をピョンピョンしていた。それを見て、スマ、じゃなかったゼラチンマスターはそれに対応するように同じくピョンピョン跳ね出した。マーブルとジェミニが到着してその周りを駆け出すと、ゼラチンマスターはさらに激しくピョンピョン跳ねた。それを見て、アンジェリカさんの所にいたオニキスもそっちへと向かって行き、一緒になってピョンピョンし出した。傍目から見ると、単なる癒やしの空間でしかなかったけど、あれ、一応交渉してるんだよなあ、、、。



 しばらくじゃれ合っていたと思ったら、マーブルが戻ってきて、私の肩に乗ると、テシテシと肩をたたいてから、ゼラチンマスターの方を指した。つまりは、そっちへ行けということなのね、了解したよ。アンジェリカさん達も了解したとばかりにゼラチンマスターの所へと向かう。



 私がそっちへ行くと、ゼラチンマスターは私に飛びついてきた。おおう、プヨプヨしているが、硬さ的にはライムやオニキスより硬い感じだ。何だかゴムみたいな感触だった。ってか、これ結構デカいぞ、、、。実際に結構重く、重量軽減無しでは持つのが大変だねえ。アインは例外ね。



 重たいゴムの感触を味わっていたら、ライムが結果を話してくれた。



「あるじー、この子、ゼラチン分けてくれるって-!」



「アイスさん、その代わりに条件があるそうですよ。」



「おお、それは嬉しいね、で、その条件って何?」



「いっしょにつれていってほしいっていってる-。」



「それが条件みたいですよ。あと、この子お肉しか食べられないそうです。」



「一緒に行くのは構わないけど、普段は領内に居てもらうことになるけどいいの?」



「それでいいそうです。ただ、お肉が欲しいそうで。」



「なるほど、わかったよ。じゃあ、一緒に行こうか。」



 そう言うと、ゼラチンマスターは嬉しそうにその場で跳ねる。重いから少しは加減してくれ。感覚的には顔2つ分くらいのスーパーボールが勝手に跳びはねる感じと思ってくれると、それがどれだけキツいかが分かってもらえると思う。



 戦姫の3人も興味津々だったので、順番に持ってもらおうとしたけど、重くて誰も抱えられなかったみたいだ、、、。あ、それと、ゼラチンマスターは長いので、「ゼータ」と名前を付けることにした。ゼータも喜んでくれているみたいだ。



 その後、地下2階へと行き、ハニービー達のモフモフの歓迎を受け、蜂蜜一式を頂いて、お礼にオークジェネラルの肉を差し入れとして渡してから、蜘蛛達の所へと向かい、ヴィエネッタに会ってオニジョロウの点検をしてもらいながら、こちらでもオークジェネラルの肉を差し入れた。



 その後、羊さん達には特に用はなかったので、一気に地下6階へと移動して、お猿さん達と戯れた。お猿さん達はゼータを気に入ったらしく、ゼータを使ってキャッチボールをして遊んでいた。ゼータも楽しそうだったのでよかったよかった。帰りに味噌の実を少しもらい、こちらもお返しにオークジェネラルの肉をあげて今日の洞窟探訪は終了っと。



 フロストの町に戻ると、アンジェリカさん達がゼリーを作って欲しいと言って聞かなかったので、早速ゼリーを作ることにした。ゼリーを作るにしても、何のゼリーにするか迷う。というのも、ゼリーにできるようなものは今のところかなり限られているから。ご存じの通り、我がフロスト領は文字通り何もないところからスタートしているため、肉などはほぼ最高級の物を使用しており、植物に関しても、水の加護が効いているのか、質もかなりのものという自認はあるけど、貨幣を使った取引はほとんど行われていないため、商人の出入りもそれほどではないので、果物の確保が出来ていない状況である。



 そんな感じで迷っていたけど、あるものが浮かんできた。そう、先程もらった蜂蜜と、まだ大量の在庫が残っている牛乳だ。よし、これで牛乳プリンを作るとしますか!



 牛乳プリンといっても、作り方は簡単である。牛乳に蜂蜜を入れて甘くしてから、温めてゼラチンを投入して混ぜながらゼラチンを溶かす。ゼラチンが完全に溶けて、もう少しかき混ぜてから容器に入れて冷やすだけの簡単なお仕事です。注意点としては、ゼラチンの濃度によって硬さが変わってしまうことだ。



 ということで作成開始。割合を決めたいので、最初は少量で試す。ストックしてある牛乳に先程もらった蜂蜜を投入して混ぜて、甘さを確認する。注意するのは普通に飲む時よりも少し甘くするのがコツだ。良い感じの甘さになったのを確認して、割合を決定してから本格的に作成する。



 しっかり混ざったところで、3分の1くらいを取りだして、水術で温める。これはゼラチンを溶かす用のものだ。



「ゼータ、ゼラチンを出してくれるかな?」



 そう言うと、ゼータはゼラチンを出してくれた。いきなりポンっていう感じで球体で出てきたので少しビックリしたが面白かった。ゼータは言葉こそ話せないけど、案外賢いようで、恐らく良い感じの分だけ出してくれたようだった。流石に素手ではまずいので、別の容器で受け取ってそれを温めた牛乳の中に投入する。



 このゼータが出してくれたゼラチンはかなり質がいいみたいで、すぐに柔らかくなったと思うと、あっさりと溶けてしまった。念のためしっかりとかき混ぜてから、元の鍋に戻してから、またしっかりとかき混ぜて、十分に混ざったと判断できたら、小さい容器にそれぞれ入れ、水術で冷やして冷たく固まったら完成。以前の世界ではほぼ一晩冷蔵庫で冷やしていたのだけど、水術のおかげであまり時間がかからないのがいいね。



 どうにか完成したので、それぞれに配って実食編とまいりましょうかね。ちなみに、今更ではあるけど、フロスト領、といいますか、この世界で使う容器というか、食器は基本的には木製である。カトラリーについても、フロスト領では私が箸を使っているので、領民達も箸を使い出してはいるけど、基本的には素手、あるいはフォークやスプーンやナイフを使って食べる。戦姫の3人も基本はスプーンやフォークやナイフを使うけど箸も使い始めるようになった。言うまでもなく、これらも木製である。



 話はそれたけど、木の匙で牛乳プリンを食べる。軽く容器を揺らすとプルンプルンと揺れる。うん、いい塩梅の硬さである。ゼータGJ!! これなら木の匙でも十分だね。木の匙で牛乳プリンをしっかりと掬い、プルンプルンした白い物を口に運ぶ。甘さも良い感じである。砂糖ではなく蜂蜜を使っているので多少、牛乳の甘さが殺されている部分があるのは否めないけど、砂糖を使ったものよりコクがしっかりと出ているので、ここは個人的な好みの問題だろう。私個人的にはどっちも好きである。そんなことを考えながら味わって食べていると、周囲から声が出てきた。いや、もう少し静かにしてくれないと他の人達にバレるんですけど、、、。



 で、結局バレた、、、。アンジェリカさん達は申し訳なさそうにこちらを見ていたが、バレてしまったのは仕方がない、ということで、どうなったかというと、ハイ、予想通りです。全員の分作るハメになりまして、今こうして頑張って作っているわけであります。いや、作ること自体は大した手間ではないけどね、いかんせん量が量だけにね、、、。肝心のゼータはというと、バリバリゼラチンを生み出していましたよ。ご苦労様ですね、後でお肉たくさんあげるからね。



 ヒーコラ言いながらかき混ぜまくってどうにか全員分完成して、配り終えたところです。その傍らでニヤニヤしながらラヒラスがこちらを見ていたのを見逃しませんでしたよ。ラヒラス、後で覚えとけよ。あ、そうだ、攪拌する魔導具作らせるか。


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トリトン皇帝「何だか、アイスが美味いもん作ったみたいだぜ。」


リトン公爵「では、私めもご相伴に、、、。」

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