第108話 さてと、最初は冒険者ギルドへと報告しますか。

前回のあらすじ:フロストの町へと戻ってきた。大勢出迎えてくれた。




 フェラー族長に側仕えしているライラが、冒険者ギルドのギルド長を呼びに行っている間に、勇者(笑)達が引き起こしたモンスタートレインについて話を聞いていた。彼らが敵わずに逃げた魔物というのが、アンバードラゴンというBランク相当の魔物だったらしい。ちなみにアンバードラゴンという魔物はドラゴンという名前は付いているが、実際にはトカゲの一種であるらしく、平たく言うと石化能力のないバジリスクのような存在だそうだ。



 そのトカゲが単体で屯していたところを腕試しということで仕掛けたところ、近くに仲間がいたらしく、一気に形勢逆転し、逃げまくった挙げ句の出来事だったようだ。アンバードラゴンは基本大人しい性格且つ、草食らしいので、弱い魔物、例えばファーラビットクラスの魔物ですら、アンバードラゴンが近づいても逃げることはないらしいが、攻撃されて怒り状態になっていたため、こういう事態に陥ったらしい。



 モンスタートレインといっても、1000匹程度なら、うちの領民達だけで十分お釣りが来る程度だそうだけど、困ったことに思った以上に広範囲になってしまい、トリニトの町へも被害が及んだらしい。幸いにもトリニトの町は現在、弟のアッシュが領主代理として治めているようで、すぐさま冒険者ギルドの通信機能を利用してフロストの町に援軍を呼んだため、トリニトの町自体は混乱こそある程度あったが、人的被害は軽傷のものがそこそこ出たものの、重傷者や死者はでなかったらしい。アッシュよ、よくやった。てか、親父何してるんだよ、、、。こういうときこそ、自慢の火魔法を使って先頭に立って魔物を蹴散らして回らないといかんでしょうに、、、。まあ、その辺は帝都に行きがてら、アッシュに会って話しを聞くとしましょうかね。トリニトの町がどうなってしまったか確認しないとならないしね。



 ちなみに援軍であるが、率いていったのがフェラー族長、もちろんセバスチャンモードで行ってもらったようだ。本来ならエーリッヒさんが率いていくのが最も効率がよかったのだけど、残念ながらエーリッヒさんは前世はともかく、今は紛れもなくゴブリンである。我が町であれば問題ないけど、流石にトリニトの町ではゴブリンが援軍を率いてきたというのはまずい。更に混乱をもたらすのは火を見るより明らかだ。一応カモフラージュ用にラヒラス特製の全身鎧になる魔導具はゴブリン族全員に支給されているが、隊を率いる総大将は兜をとらないとならないから、結局はゴブリンだとバレてしまうのだ。



 じゃあ、人族が率いれば良いじゃん、ということだけど、残念ながらウルヴもアインもラヒラスも今回はタンヌ王国に行っている。集落出身の村長もいるにはいるけど、当人は固辞して一般住民として過ごしている状態だし、実際にカムドさんやフェラー族長のような内政をしたりなどの能力は残念ながらなかったので、こういう状態になっている。ということで、急遽フェラー族長が率いることになったようだ。フェラー族長が部隊を率いるのは大変ということで、実際にはエーリッヒさんが部隊の隊長をするということで、トリニトの町へと援軍を出すことにしたらしい。



 フロストの町から出した援軍は、全軍の3分の1のようで、部隊編成もしっかりとそれぞれの部隊を綺麗に3分の1にしてトリニトの町へと行ったそうだ。ゴブリン族はもちろん、獣人も人族も、さらには、ウサギ族やコカトリス達まで3分の1ずつに分けて繰り出したらしい。念のために、ウサギ族からはレオが援軍に加わっていたので、作戦指揮が非常にラクだったとエーリッヒさんは言っていたらしい。



 トリニトの町では城壁の一方面と城門がやばいことになってしまったようだが、アッシュが心を入れ替えて戦闘訓練に励み、それにつられてトリニトの守備兵達も日頃の訓練を怠っていなかった甲斐もあり、どうにか持ちこたえている状況だったようだ。そんな折に、我がフロストの町から援軍が到着したということで、形成が一気に逆転して、どうにか殲滅できたようだ。この大きな活躍によって、フロスト領におけるゴブリン族や獣人達はもちろん、ウサギ族やコカトリス達までも大きな歓待を受けたそうだ。特に、ウサギ族に関して言えば、強さはもちろんだが、あの愛くるしい見た目にやられた人達も大勢いたそうだ。また、ゴブリン達はアッシュが積極的に接触していたこともあり、全身鎧の魔導具を解除して姿を表しても、最初こそ驚かれたが、人語も問題なく話せるのもあり、守備兵達に特に受け入れられていた。中にはエーリッヒさんに戦闘訓練や戦術眼を習うものも出てきたようだ。



 これはモンスタートレインであったが、スタンピードに近いものだったので、魔物の数も多く、手に入った素材や肉も、その分大量に手に入ったけど、トリニトの町で倒した魔物達に関しては、その大部分をトリニトの住民達に提供したようだ。流石はフェラー族長、見事な判断である。ちなみに、その判断はフェラー族長だけでなく、援軍として行った住民達全員も同じ考えだったらしい、というのも、彼らはただ暴れたかっただけのようで、魔物の強さはともかく、思いっきり戦えたので満足したらしい。



 フロストの町でも、援軍に向かったメンバーがいたので、1人の担当する数がその分多くなったため、暴れ回ることができて満足したようだ。アンバードラゴンについてだけど、もちろん我が住民達では役不足だったようで、問題なく仕留めたそうだ。



 ちなみにアンバードラゴンの皮は需要がかなりあるらしく、冒険者ギルドの職員がホクホク顔で回収していったようだ。肉についてだが、淡泊な味わいの鶏みたいで、オーク肉などよりは少し旨味は落ちるようだけど、他の町ではそこそこの値段で売れるようなので、こちらもギルド職員が回収していった。



 モンスタートレインを引き起こした当人達である勇者パーティだが、モンスター達を殲滅した後、勝手にこの場所を離れようとしたが、カムドさんの威圧であっさりと動けなくなったらしい。まあ、アンバードラゴン程度にびびって逃げ出すような連中が、ゴブリンエンペラー(しかも個体種)であるカムドさんの威圧に耐えられるわけがない、というのはフェラー族長の話だ。ってか、カムドさんをそこまで怒らせるというのは、あいつらどれだけカムドさんに失礼なことをしたんだろうと思った。実際にエーリッヒさん達からも、カムドさんが怒ったという話は一度も聞いたことがなく、実の娘であるカムイちゃんですら、カムドさんが怒ったところは一度も見たことがないそうなのだ。



 カムドさん曰く、あそこまで失礼な相手は見たことがない、らしいです。そういう訳で、フロストの町やトリニトの町に大きな迷惑をかけた連中のことは後回しにしても反対意見を出さなかったのはそういう理由らしいですよ。ちなみに今夜はオークエンペラーのお肉で焼き肉パーティを開きますが、彼らにはもちろん肉のひとかけらもやるつもりはありません。まあ、外に出す気ゼロですしね。



 そんな話をしていたら、ギルド長が息を切らした状態でこちらにやって来た。



「フロスト伯爵、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした!」



「いや、大量の魔物の素材を処理していたのですから、大変だったでしょう。こちらこそ、そんなときに呼び出して申し訳なかったね。」



「いえ! こんな時に私を呼び出したのですから、何かもの凄くいい話に決まっております! フロスト伯爵がこういう状況なのを承知で私を呼び出したのですから!!」



 ギルド長の言ったことに嘘は感じられず、疲れている表情ではあるが、その目は非常に生き生きとしていた。とはいえ、こんなくそ忙しいときに呼んでしまって申し訳ないとは思った。私はギルド長がそこまで忙しい状態だというのは全く頭になかったのだけど、考えてみれば、モンスタートレインによる大量の魔物の襲撃が終わって間もないのだ。普段であればフェラー族長が状況を説明してくれるので、それを聞いていれば呼び出さなかったのだが、そのフェラー族長が止めずに、むしろ控えにいるライラさんに命じてまでギルド長を呼び出したのだ。まあ、いい話には違いないと思いますので、、、。



「お疲れでしょうから、まず水を1杯飲んで落ち着きましょう。」



 私はギルド長を労うために、空間収納から水筒を取り出す。そばに控えていたカムイちゃんが水飲み用のボウルを持ってきてくれたので、水筒に入っている水をボウルにいれる。もちろんこの水はねぐらから直に汲んできた湧き水である。ちなみにこの水筒は、外見は竹のようなものになっているが、もちろんマーブルの空間魔法が付与されており、見た目とは比べものにならないくらいの水が蓄えられている。言うまでもなく時間停止状態になる優れものだ。



「伯爵自ら注いで下さるとは、ありがとうございます。・・・これは! 今まで飲んでみた水のなかでもこれほど美味い水を飲んだのは初めてです。フロスト伯爵、この水は一体?」



「これは、アマデウス神殿の水場で流れている水の源流から汲んできたものです。とは言っても、アマデウス神殿の水場もこれと同じくらい上質な水が湧いておりますよ。アマデウス神殿へと行ったら、水場に足を運んでみては?」



「おお、そうでしたか! いや、私もアマデウス神殿には何度も足を運んでおりますが、アマデウス神の像に祈り、いえ、日々の活動報告をするだけで、そのまま出てしまうんですよね。領民の皆さんが報告が終わっても別の場所に行ってしまうのはそちらに行っていたのですね。これからは、そちらに足を運んでから戻るとしますよ。」



「そうして下さい。まあ、この話はそのくらいにして。お忙しいようですので、単刀直入に言います。ギルド長を呼んだのは、我が領に新たなダンジョンが見つかったからですよ。」



「新たなダンジョンですか! それは凄いですね!! 本来、1つの領地に2つのダンジョンが見つかるのはとても珍しいのです。それで、フロスト伯爵、それを私に話してくれたと言うことは、そのダンジョンを冒険者ギルド、いえ、通常の冒険者にも開放していただける、ということでよろしいですか?」



「はい、その通りです。先日同行してもらった『恵みのダンジョン』ですが、あれは、大量に出回ってしまうといろいろヤバイものが揃っていたので、我が領民専用にしましたが、こちらのダンジョンは間口を広げても問題のないダンジョンでしたので、日頃からお世話になっておりますので、冒険者ギルドが中心となって進めてもらおうと思いまして。」



「ありがとうございます! ところで、フロスト伯爵、その口ぶりから察しますと、フロスト伯爵はそのダンジョンをすでに踏破されているようですが。」



「はい、お察しの通り、あのダンジョンはほぼ探索を終えております。ある程度の情報でしたら提供致しますよ。」



「ありがとうございます。それで、そのある程度というのはどの程度なのでしょうか?」



「そうですね、あのダンジョンは一応、地下3階までとなっております。まあ、ほとんどの人は地下12階までと感じてしまうかも知れませんけどね。」



「・・・? 仰る意味がわかりませんけど、、、。」



「まあ、そうでしょうね。本来は地下3階までですが、体感的には地下12階まであると考えてくれると混乱しなくて済みますよ。というのも、この地下3階部分が全部で10階層に分かれておりまして、その構造のせいで地下12階まであると感じてしまうんですよね。」



「そういうことですか。それでは、一応ギルドとしましては、地下12階まであるという発表でよろしいでしょうか?」



「それでいいと思います。仮に地下3階の構造について理解した方がいたら、実は地下3階が10階層に別れているという説明をすれば良いだけの話だと思います。」



「なるほど、わかりました。しかし、フロスト伯爵、一応地下3階までというお話には裏がある気がするのですが、よろしければお聞かせ願えませんか?」



「ほう、そこに気付くとは、流石はギルド長ですね。別に隠すつもりはあまりないのですが、実はですね、その地下3階の下にもまだ続きはあるんですよ。」



「そうなんですか? でも、そうでしたら、別にまだ続きがあると仰って頂ければ、、、。」



「まあ、普通ならそうなんですけど、地下3階の下はかなりヤバイ場所でして。」



「フロスト伯爵ほどの方がヤバイ場所と仰るのは、、、。」



「先に言っておきますと、実は地下6階まで確認しております。恐らくですが、地下6階が最下層で間違いないと思います。ですが、、、。」



「ですが?」



「地下4階からは、出てくる魔物の強さが桁違いです。少なくとも、マーブル達と同等クラス、いや、単体でドラゴンを楽勝で倒せる程度の強さでないと正直言って無理ですね。我が領民ですら厳しいでしょう。ギリギリで戦姫の3人がどうにか1戦できるくらいのレベルですかね。」



「え? 戦姫の3人でも1戦がやっとの状態なのですか? マーブルちゃん達ってそこまで強いのですか?」



 ギルド長が驚きを隠せずに言うと、こちらでも少し驚いていた感じだったアンジェリカさんが話し出した。



「ええ、マーブルちゃんとジェミニちゃんの強さは、ワタクシ達3人が束になっても、とうてい敵いませんわ。ライムちゃんでしたら、ワタクシ達でも勝負になりますが、恐らくギリギリでしょうね。そして、そのマーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃんの3人でもアイスさんにはとうてい敵わないのですわ。」



 はい? 私がマーブル達より強いって? それはない。って、何でマーブル達まで頷いているの? 私そこまで強くないよ? 君達の方が強いに決まっているじゃん。



「アイスさん、そんなに驚くことですか? 私の見立てでも、マーブル殿達よりもアイスさんの方が強いのは明白ですよ。」



 カムドさんまで、、、。みんな過大評価過ぎるのですが、、、。まあ、マーブル達と戦うなんてありえないからいいか。



「フロスト伯爵の強さはわかりました。どちらにしろ、地下4階以降がそれだけ危ないところ、というのはわかりました。しかし、地下4階へ行けるものが現れた場合は?」



「一応、地下4階への入り口は、とある条件を満たしたものだけが通れる仕様になっておりますので、それだけの条件を満たせる程の腕があれば、どうにか、という感じでしょうかね。一応ギルドでは地下4階への挑戦は禁止しておいてください。それ以降は領主の許可がいるということにして頂ければ。」



「わかりました。地下3階までは冒険者ギルドの管轄とさせて頂きまして、地下4階以降はフロスト伯爵の権限ということにさせて頂いてもよろしいですか?」



「ええ、それで構いません。」



「ところで、フロスト伯爵、そこのダンジョンは何が手に入るのですか? 一応売りといいますか、何かの特色が欲しいところです。」



「そうですね、そのダンジョンは採掘ポイントが存在します。こちらで確認したのは、銅鉱石と鉄鉱石、あとは黒鉱石ですかね。ダンジョンの採掘ポイントですので、掘り尽くしたと思っても、ダンジョンから脱出すれば採掘ポイントは復活するようですね。」



「鉱山の採掘ポイントですか? 銅鉱石とはいえ、復活する採掘ポイントなんて聞いたことありませんよ!! それだけでも、凄いダンジョンですよ!!」



「それでですね、地下3階までとはいっても、1階がそれぞれかなり広いです。地下1階や2階には罠は存在しませんが、地下3階には罠が存在しておりますので、マッピング要員とスカウト技能の優れたメンバーが必須ですね。特に地下3階は魔物が宝箱を出す場所が多いので。」



「なるほど。情報提供ありがとうございます。もし、ですけれど、できましたらギルド用に地図をいただけませんでしょうか?」



「地図ですか。恐らく私が潜ったときの地下1階と地下2階とは異なりますね。地下3階については冒険者各自で作ってくれた方がいいと思いますよ。」



「そうですか、それは残念です。」



「まあ、状況が落ち着いたらでかまわないので、冒険者を派遣して探索されてみては?」



「はい、そのように致します。良い情報ありがとうございました! 何かありましたら、相談に伺ってもよろしいでしょうか?」



「ええ、私がいる時でしたら、いつでもいらっしゃって下さい。私の方でも領民達に訓練がてら潜ってもらうつもりですから。」



 あとは少し内容を詰めてからギルド長は戻っていった。あ、周りから詳しい内容について聞きたそうな視線を感じる、特にそこにいる美女3人から強い視線を感じる、、、。うーん、これから宴会の準備を始めたいのだけどね、、、。その前に、帝都に行く準備を進めないとね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る