第81話 さてと、結局なかったことにしました。

前回のあらすじ:レプラホーンに会った。住民になってくれるか聞いてみた。


 今日はのんびりと過ごすつもりだったが、あの鉱石のある洞窟について考えていた。あの洞窟は、あまりいい鉱石は手に入らなかった。この洞窟深くに彼らは住んでいると言っていたので、恐らくこまめに採掘しているのだろう。無理にあの場所にこだわらなくても、あの山脈には他にも鉱山があるだろうと思った。



 というわけで、記憶だと他にも洞窟の入り口があったような気がしたので、そちらへと行くことにし、転送魔法でこの洞窟の入り口まで戻り、別の入り口を探すことにした。記憶だと、ここと第2ねぐらの中間くらいにあったような気がしたので、とりあえず南下してみますか。



 急ぎではないとはいえ、記憶程度なので、正直あるかどうかわからない。私は方向音痴だしね。ただ、マーブル達は特に反対していなかったので、恐らくあると思う。水術で足と地面の接地面を凍らせ始めると、マーブル達は定位置に乗ってきた。ためらいなく乗ってきたということは、恐らく見つかる+結構距離があるということなんだろう。全速力で向かうと見過ごしそうなので、ある程度速度を抑えて移動しますかね。



 移動すること2、3時間くらいかな、マーブルが私の肩をテシテシと叩いてきた。恐らく近いのだろう。速度を駆け足程度の速さに落として進むと、ええ、見つかりましたとも。こりゃ、わからんわ。穴は開いているが、どう見ても洞窟と呼べる大きさじゃないね。そりゃ、記憶程度でしか覚えてないな、というか、よく記憶程度でも覚えていたなと感心するレベルだね。



 この小さい穴はマーブル達なら入れるけど、私は無理、という小ささだ。さて、入れないから諦めて帰ろうかと思っていると、ジェミニが土魔法で穴を広げてくれた、って、少し広げただけだと思ったのに、それがかなりの広さになっているって、、、。



「アイスさん、不思議に思ったかもですが、ここって最初の入り口の部分こそ小さいですが、その部分を広げてしまえば結構大きな洞窟です。ってマーブル殿が言ったですよ。」



「なるほど、でかした、マーブル! ジェミニもよくやった! ライム、これから期待してるよ!」



 嬉しくてマーブル達を褒めると、マーブル達もこちらに飛びついてきたので、代わる代わるモフって感触を堪能する。モフるのは双方にとってこれ以上ないご褒美というのは言い過ぎかもしれないけど、その気持ちはわかると同意してくれる人もいるはずだ。



 ここにも転送ポイントを設置してもらい、入り口が広くなった洞窟に入る。暗かったのは最初だけで、少し入ると明るくなった。ってこれひょっとしたらダンジョン? 正直ダンジョンだとしたら、豆柴達のいるダンジョンのような許可制が必要なものではなく、誰でも入れるような冒険型のダンジョンであってほしい。そうすれば、フロストの町にいる冒険者にも開放できる。



 そんな期待を胸に、洞窟を進んでいく。道は一本道ではないものの、それほど複雑ではなかったのが幸いかな。魔物はそこそこいたが、倒すと死体が消えたことから、ここはダンジョンだということが判明した。もう少し進んでみてから、冒険者ギルドへと報告するかどうかを判断しますかね。そういったことは後にするとして、今は探索していきますか。



 魔物を倒しながら先に進んでいくと、いくつか採掘ポイントらしきものが見つかった。同じ場所を掘り出しても、銅鉱石が出たり、鉄鉱石が出てきたりと採掘できるものが変わったりしていた。何度か採掘すると、その場所はどれだけ採掘しても鉱石類が手に入らなくなったりした。しかも、私が採掘できなくなったとしてもジェミニは採掘できていたり、その逆だったりと色々特殊だった。ちなみに、何度掘ってもダンジョンの地形は変わらなかった。今の私にとって、現実であるのに、実際には現実でないような感覚だ。ただ、目の前でこういうことが起こっているので、現実として受け止めますけどね、、、。



 時間も頃合いということで、今日の探索はここまでということでフロストの町へと戻ることにした。明日また探索してみるのもいいかもしれない。



 フロストの町へと戻り、ゴブリンの加工師に手に入れた鉱石を渡しつつ、今日レプラホーンと会ったことを話したが、あまりいい顔はしなかった。話を聞いてみると、レプラホーンという種族は自分たちを過大評価するだけでなく、他種族を下に見る傾向が強いらしい。しかも大言壮語癖があるそうで、あまり関わりたくないということだった。気になって他の領民達にも話を聞いてみると、どうも同じような話しか聞かなかった。



 何やら以前いた世界での、どこかの国の国民のような気がしたが、恐らく気のせいであろうか。私が出会ったレプラホーン達については、そんな印象は受けなかったが、それでも、そこまでして領民に加えたい気持ちはなかったので、領民達の気持ちを優先して後ろ向きに対処することにした。



 ラヒラス達にもレプラホーンに会った話をすると、特に家長が御山の大将を気取りたいがために、あまり大人数で暮らすことはしないそうだ。更に少しでも名声のある人物と一度でも接すると、あたかも自分がその人物と仲がいいかのように話したりするらしい。明日会って領民に加わるかどうかの話し合いをすると話したところ、念のため、保険として自分たちとは関わりがないことを強調した文書を渡しておいた方がいいとのことだったので、その通りにする。内容を改竄できないようにマーブルに魔法で保護してもらうのも忘れずにしておいた。



 次の日になり、朝食を済ませてから、カムドさんやフェラー族長と決済が必要なものに関して吟味して、少しは領主らしい仕事をしてから、洞窟へ転送して昨日約束した場所へと移動した。何か少しでも面倒なことがあれば、この洞窟に関してはもう関わることはしないつもりなので、銅鉱石でも、ある程度採掘しながらゆっくり進むことにした。



 まだ少し早かったが、昨日の閉じ込められていた場所へと到着した。レプラホーン達はまだいなかったので、マーブル達と少し遊びながら時間を潰していた。彼らが来たのは約束の時間からある程度過ぎた頃だったので、私の中で心が決まってしまった。



「話し合いが長引いてしまったので、遅くなってしまった。」



 来たのは、昨日いた面子だった。彼らは遅れたことに対して全く申し訳なさそうにしていなかった。



「人が少ないから1日あれば十分と言ったのはそっちじゃなかった?」



「済まない、予定ではそうだったのだけど、意見がまとまらなかったのだ。」



「まあいいや。で、話し合いの結果はどうだったの?」



「話し合った結果だが、領民になるのは反対だと家長が言ってな、私自身は領民になってもいいと話したのだが。」



「領民になってもいい、か。なるほど。正直、私はそこまでして君達にフロスト領の領民になってもらいたいとは少しも思っていないので、拒否ということでいいな。というわけで、この辺りはフロスト領であるが、君達に対しては一切関与しないということで家長に伝えて欲しい。」



「え? それは我らの独立を認めると言うことか?」



 素晴らしいくらい斜め上の発言ありがとう。昨日、何かに襲われて逃げた上に閉じ込められ、しかも、集落までたどりつくのは時間の問題と言っていた連中に対して、どこをどう考えれば独立というものが認められるのか、、、。なるほどね、領民のみんなからの評判がなぜ悪いかわかったよ。



「勘違いしないでもらいたいのだが、昨日話したよね? 断ったら所詮それまでの縁だったということだから。領民なら護るけど、領民でないなら言葉通り何もせず、君達がどうなっても知ったこっちゃない、とね。つまり、独立とかそういったものではなく、君達の存在を見なかったことにするんだよ。」



「それは、独立を認めたことと違うのか?」



「いいかい? よく聞くんだよ。独立を認めた場合には、君達の領域と我が領土が何かしらの関わりを持ったりできるわけ。でも、独立を認めたわけではないから、君達が仮に我が領に来たりしようものなら、有無を言わさず領土侵攻として犯罪者として排除の対象になるわけ。もう一度言うけど、君達がこれからどうなろうとこっちは全く知ったことじゃないの。わかった? あ、その証拠に、これを家長に見せてくれれば良いよ。念を押しておくけど、これは君達を認めたお墨付きではなく、『君達を認めない』お墨付きだから。」



 レプラホーン達は言葉が出ない。恐らく少しでも条件を良くしようとして、一旦拒否してから交渉しようと考えていたのだろうが、残念ながら他の人であればそれは有効な手段だったかもしれないけど、私はそういった交渉は嫌いだ。いきなりここまで突き放されるとは思ってもいなかったのだろう。確かに鉱石などの加工できる技能を持った領民は欲しいけど、領民達の気持ちを無視してまで欲しいとは思わない。今フロスト領に住んでいる領民達の幸せを優先するのが領主の仕事だ。



「というわけで、話し合いはここまでだから。この洞窟内で何をしてもかまわないけど、ここから出て何かしら我が領に被害が及んだら、遠慮なく犯罪者として処罰の対象になるからそのつもりで。それでは。」



 私はそう言って、マーブルを見ると、マーブルは心得たとばかりに転送魔法を使ってこの場から離れた。



 マーブルが転送してくれた場所は、昨日のダンジョンだった。今日は昨日の続きということで探索をしていくとしますか。その前に腹ごしらえをしないとね。



 昼食は焼きおにぎりである。マーブル達もご満悦だ。よかったよかった。



 では、早速ダンジョンに突入してみたが、残念ながら昨日の続きというわけにはいかなかった。というのも、このダンジョン、昨日とは中身がうって変わっており、昨日頑張って作ったかは別にしても作成した地図が役に立たなかったのだ。とはいえ、今後この作った地図が役に立つかもしれないという期待も込めて一応取っておくことにした。



 探索してみて思ったのが、ダンジョン内の道順は変わるけど、手に入るモノや魔物が昨日と変わっていないのだ。ということは、道順はともかくとして、手に入るモノや現れる魔物については参考にできるということなのだろう。まだ2回目だから結論を下すには早すぎるけどね。



 それにしても、このダンジョン結構広いな。階段にたどり着く気配すらない、、、。もしかしたら1階層しかなかったりするのかな?



 結局、探索は続けたものの、次の階層への階段などは見つからずに、昨日と同じような戦利品を手に入れてフロスト領へと戻った。



 今日一日に関しては、骨折り損のくたびれもうけ、と言えるかも知れない。



 明日から少し腰を据えて探索するのもいいかもしれない。今日のことをカムドさんやフェラー族長に話して、レプラホーン達を迎えるのは無しになったことと、新たに見つけた洞窟が実はダンジョンだったことを伝えて、特に急ぎの用事がなければ、明日から少しダンジョンを本格的に探索しても大丈夫か聞いたところ大丈夫そうだったので、お言葉に甘えることにして、今日は終了。あとはモフモフタイムが待っている。

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