第79話 さてと、これより試し撃ちです。

 木工職人のゴブリンさんから弓をもらって、アラクネのヴィエネッタからほぼ最上級の弦をつけてもらい、ハニービーから蜜蝋をもらって手入れの準備も万全となったので、張り切って狩りを行いますか。



 会場はもちろん地下3階のグレイトさんたちですよ。お肉をたくさん頂く予定だ。もちろんソーセージの大事な材料である腸もしっかりと頂きたいと思う。マーブル達もやる気です。



 今はここのダンジョンマスターである私は、このダンジョン内であれば、好きな場所に移転できるらしい、らしいというのは、先日マーシィさんから聞いただけなので、まだ実際にはやっていないし、地下3階なので実験するほどの距離でもないので、転送実験はその後かな。まずはお肉だ。



 地下3階へと進む。お、早速羊の群れ発見。早速開始といきますか。



 羊達の縄張りに侵入すると、羊の集団が襲ってきた。さてと、確かMMOの時はこんな感じだったかな、と水術で矢を作って弓に矢をつがえて準備完了。すれ違いざまにぶっ放す感じでいく。よし、良い感じだな。では、発射、と、、、、。



「いってーーーーー!!」



 何かもの凄い衝撃と振動が両腕に響いた。もちろん変な感じで矢が飛んでしまったし、なんじゃこりゃ? そういえば、MMOの時は洋弓だったっけ。和弓と洋弓ってこんなにも違うんだねぇ、、、。しかし、これだけ衝撃が凄いとしっかり撃てるようになれば、威力ももの凄いものになりそうだな、、、。うん、こりゃ、練習あるのみだな。最初はとにかくしっかりと飛ばすことから始めないとな。



 マーブル達は私の訓練も兼ねていることを理解しているので、基本的にはすれ違いざまに1体ずつ倒している。羊達は私達が縄張りに侵入しているので、何度でも向かって来ているので、マーブル達が全滅させるのが早いか、私が1体でも倒すのが早いか勝負かな。



 少なくともMMOの時のようなやり方では、上手く飛びすらしないので、動きながらではなくそこは工夫してやるしかないかな。



 第2射では、腰を据えて放つことにより、両手にかかる衝撃も少なくなっていた。あと、和弓って、思いっきり引かなくても結構飛ぶんだね、、、。本来は単一素材で作られているらしいが、これいろんな素材組み合わせているよね、、、。まあ、その辺はいいか。まずは慣れないとね。



 3射、4射と繰り返しているうちに、狙い通りに撃てるようになってきた。通常の射撃訓練では恐らくこんなに早く飲み込めなかったと思う。やはり実践あるのみだな。



 そんなこんなで、羊の集団を殲滅することに成功、羊肉も腸もしっかりと手に入れ、マーブル達も喜びをあらわにしていた。もう少し様子見で動きながらではなく、腰を据えて放つことにしますかね。



 お、今度は牛さんの集団だね。気合い入れるとしますか。



 牛さん達を倒しているうちに、和弓の感覚がつかめた感じがした。遠距離の狙撃となると、まだまだ修行が必要だろうけど、どちらかといえば、近距離でぶっぱする予定なので、こんな感じで大丈夫だろう。ただ、これに慣れると洋弓は少し使いづらくなるかな。和弓と洋弓って狙い方が少し違ったりするんだよね。まあ、その辺はスキルさんがどうにかしてくれるでしょう。水術で氷の矢を量産できるから、矢の数は心配しなくてもいいし、かなりこれ相性がいいのではないだろうか?



 この後、牛さんを始め、羊さんや山羊さん達を倒していくうちに、MMOの時と同じような動きができるようになってきていた。よし、これで実践でどうにかなりそうだな。次は矢の実験かな。



 矢については、水術で作った氷の矢よりも、木などの矢に水術で氷を纏わせて当てた方が当然威力があるのだけど、どこまで纏えば効果的かを確認しておきたい。あとは、水術のみの矢と矢に水術を纏わせて作った矢ではどれだけ威力に差があるのか、ということもかな。



 結果から言うと、わからなかった。慣れると氷だけの矢でも貫通してしまったから。では、連続して貫通できるかといったら、それは無理だった。だって、魔獣の皆さん、さりげなく一撃で連続して貫通射撃できるほど密集していることもなければ、列も揃っているわけではなかったから。まあ、そこら辺はあとで検証できる場面があれば検証しますかね。



 十分すぎるほどの戦利品にホクホク顔だった私達だったが、私の脳内に『侵入者を発見しました。』というメッセージが伝わった。恐らくダンジョンマスターの機能の1つなのだろう。侵入者は地下1階ではなく地下7階、つまり最下層にいるようだ。豆柴達やハニービー達が通常通りであったので、少なくとも地下1階から侵入したのではなさそうだ。



 と、あれこれ考えても仕方がない。さっさと侵入者に会って、排除するのみである。



「みなさん、つい今し方、侵入者発見の報告がこのダンジョンからありました。場所は地下7階、つまり最下層です。やることは皆さんご承知ですね?」



 私がそう言うと、みんなは敬礼で応える。いつみても眼福ですな。



「というわけで、ダンジョンマスター権限でもってその場所へ向かいます。準備はよろしいですか?」



 マーブル達が頷いたので、早速転送してみる。ダンジョンマスターとしての機能を使用するときは、ステータスを確認する感じでやってみると、何かメッセージが浮かんできたので、そこにある転送を選んでから地図ではなく侵入者という項目を選ぶと、周りの景色がいきなり変わった。無事に地下7階へと着いたようだ。周囲を確認すると、、、あ、マーブル達発見。よし、全員で転送できたな。



 さてと、侵入者はどこかな、と、あ、いたいた。扉を通過できなくて立ち往生しているか。まあ、あの部屋はダンジョンマスターである私でないと入れないけど、、、。しかし、ここまで近づいても気付かずに夢中になっているとは。大方、多少魔力と頭脳に自信がある感じかな。そんなことを考えながら近づいていくとようやく気がついたらしく、こちらを向いてきた。自信満々に振る舞っているようにみせているが、内心びくついているのはバレバレだ。偉そうにこちらに話しかけてきたよ。



「ほう、このダンジョンのことを知っており、ここまで来るとは。」



「偉そうにいうのは構わないけど、オッサン、どこから来たの?」



 どうでもよさげに答えて上げると、プライドが傷つけられたのか知らないけど、何かいらついていた。



「オ、オッサンだと! ま、まあいい。それよりも小僧、どうやってここに来た?」



「普通に地下1階から降りてきたんだよ。そんなこともわからないなんて、オッサン馬鹿か? それよりも、オッサンは地下1階からここまで来られるような実力はなさそうなんだけど、どんな手段を使った?」



 ダンジョンマスター権限で本当は3階から転送してきたけど、別にいう必要はないだろう。何度もここまで転送せずに自分の足でここに来ているしね。



「地下1階から来ただと? あそこには地獄の番犬がいるというのに一体どうやって抜けてきたのだ?」



「普通に倒してきたに決まっているだろう。まあ、オッサン程度の実力では無理なのはわかるが。」



「ふんっ、小僧の実力がそこまであるとは思えん。どうせ何か別の入り口から来てあの番犬共を避けてきたのだろう。」



「なるほど。ということは、あそこ以外にも入り口があるんだね。ああ、なるほど。この魔方陣で転送してきたのか。ご苦労なこって。マーブル、これ邪魔だから消しといて。」



「ミャア!」



 マーブルは可愛く鳴くと、右前足を上げて黒い魔力の玉を作り上げて魔方陣にぶつける。爆発音とともに魔方陣は消滅した。もちろんタネも仕掛けもちゃんとありますよ。普通にマーブルの魔力をもってすれば簡単につぶせるけど、ダンジョンに被害が及ぶかもしれないので、ダンジョンマスター権限で外部からの転送をマーブルの魔法団に合わせて禁止に設定した。ギルドにこのダンジョンの記録があったということは、他の国でもこのダンジョンの記録があってもおかしくないからだ。というわけで、今後一切、ここのダンジョンへは実力で入らなければならなくなった。あ、フロスト領の領民は別だよ。



「オッサン、これで帰れなくなったね。」



 想定外の事を起こされて、侵入者は唖然とする。中途半端に知恵があるものに限って、こういう想定外になりやすいことは予想しない。自分が一番賢いと思っているから、可能性を絞ってしまう。これでこいつはダンジョンの餌確定となった。まあ、魔力はそれなりにありそうだから、ダンジョン的には美味しい餌となってくれるでしょう。



「こ、こうなったら、お前も道連れにしてやる!」



 餌は詠唱を始めた。詠唱を潰すこともできたのだけど、何をするのか愉しみだったから、最後まで待って上げることにした。しばらく目を閉じてブツブツ言っていたが、ようやく詠唱が終わったのだろう。こちらを見てニヤリと笑いながら身の程知らずなことを言ってきた。



「フハハ! 少しはできる小僧だと思っていたが、こちらの思い違いか。俺の恐ろしさを思い知るがいい! 出でよ、ゴーレム達!!」



 餌が袋から石粒みたいなのをばらまくと、その石粒が巨大化して合体した。



「お前のせいで、転送魔法で帰れなくなったが、その分魔力はたくさん使える状態だ。見ての通り俺はゴーレムをも生み出すことが出来る。お前だけは一緒に道連れになってもらうぞ!!」



 現れたのは4体の石でできたゴーレムだった。って、ゴーレムだと? 何てことだ、、、。今回の実験におあつらえ向きではないか!! しかもストーンゴーレムだ! よーし、頑張っちゃうぞ!!



「さて、みなさん。相手はご覧の通りストーンゴーレムです。私にとっては、あれはいい練習相手となりますのでガンガン倒していきたいと思います。とはいえ、みんなも退屈でしょうから、1人で1体ずつといきましょうか。恐らく、本体はまだまだゴーレムを生み出せると思いますので、バリバリ生み出してもらうことにしますので、くれぐれも本体は攻撃しないように。」



「ミャア!」



「了解です! 適当に倒していくです!」



「あるじー、ボクがんばるよー!!」



 3人も嬉しそうに賛成してくれた。



「では、戦闘開始です!!」



 そう言って、私は弓を構えて矢をつがえる。実験開始だ。弱点は何となくわかるので、それを狙わないように矢を放っていく。最初は水術のみで作り上げた無制限に撃てる矢を放つ。ストーンゴーレムが殴ってくるが大した脅威ではないので、それを躱しながら何本か放っていく。弾き返されるかなと思ったけど、矢の3分の1くらいは刺さった。予想以上に威力があるな、この弓。次は魔樹の矢に水術を纏わせたものを放っていく。その矢はストーンゴーレムを貫いた。やはり芯があると矢の威力が増すなあ。では、その次は、と、鏃の部分だけ水術で氷を纏わせたものを放つ。こちらも同じ勢いでストーンゴーレムを貫いた。威力はほぼ同じかこちらの方が強いかも、ということは、実際に矢を使うときは鏃の部分だけ水術を纏わせれば大丈夫だな。



 マーブル達はすでに倒してしまっていたので、私も倒しにかかる。弱点は何となくわかっているので、その部分に矢を放ち、中にある核を粉砕して終了。わざとらしく挑発しながら次を促す。



「おい、オッサン。まさか、これで終わりじゃないだろう? ほら、次出してくれよ次を!」



 まるで手応えがなかったかのように馬鹿にしたような表情で次を促す。まあ、実際手応えはなかったけどね。いい練習にはなったけど。



「フフッ、そうだな、本番はこれからだ!!」



 余裕のありそうな口調で話してはいるが、こちらに恐怖しているのは明らかだった。何せ次の詠唱がとにかく長かった。いや、あれ途中で間違って最初からやり直ししていそうだな。時間がかかりそうだったので次はどんな矢を作って攻撃しようかとゆっくり考えながら待機する。



 続けて出てきたのは、同じくストーンゴーレムだった。数はね、8体くらいじゃなかったかな。てかこいつ本当に馬鹿だよね。4体でも結構窮屈だったはずなのにそれを8体とは、、、。まあいいや。折角出してくれたんだから倒さないと相手に失礼だよね。ということで、バリバリ試していく。今回は矢がもったいないので、水術だけで作った氷の矢を使った。先端をドリルにして回転するように工夫してみた。



 結果はというと、思った以上に貫通力があり、アッサリと撃破した。その様子を見て、マーブル達は1体だけ自分たちで倒すと、あとは私に譲ってくれた。ありがとう! 流石は私の可愛い猫達だ。



 お言葉に甘えてアッサリ倒すと、餌は何か取りだして飲んだ。恐らく魔力回復の薬ではないかと思われる。ということは、まだまだ練習できるということだ。頑張れ、オッサン!!



 オッサンこと餌は、薬を飲んではゴーレムを召喚師続けた。ゴーレムが召喚できなくなると、今度は自分がああなってしまうと恐怖にかられていたからだ。まあ、実際そうなるけどね。ゴーレムを呼んでは倒されてを繰り返し、ついに魔力の薬が尽きたころ、餌の様子がおかしくなった。発狂しだしたのだろう。



 発狂した餌は今までとは違い大声で召喚魔法を唱えたようだ。何か黒いゴーレムが現れた後、餌は倒れて、しばらくしたら消えてしまって、文字通りダンジョンの餌となった。最期の方では何か言いたいことがあったようだけど、何言ってるかわからなかったし別に良いか。



 黒いゴーレムはこちらを攻撃してきたが、今までのゴーレムに毛が生えた程度だったので、避けるのも非常に簡単だったが、その分、非常に硬かった。そうなると、矢がもったいないので、水術のみで作った氷の矢が出番である。とはいえ、流石に硬いだけあって、ドリル矢を使っても少ししか貫通しなかったので、試しに爆破させてみたら、刺さっていた部分をその周りは砕けた。一応効果があったので、続けざまに矢を突き刺しては爆破を少し繰り返すと、ようやく核が出てきたので、それも爆破式のドリル鏃の氷の矢で粉砕。



「これで任務完了です。お疲れ様でした!」



 私が任務完了の宣言を行うと、マーブル達が敬礼のポーズで応える。いつ見てもこれはいいものだ。

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