第51話 さてと、大物の来客ですな。



 フロストの町について周辺に少しずつ広まっている。フロスト領の西にある森には豊富な食料となる素材と食べられる魔物が多く生息していること、またその魔物の肉料理を安い値段で提供していること、そして、魔獣ウサギがペットとして癒やしてくれるという噂も聞こえてくる。何よりもスタンピードが発生してその素材が数多く提供されていることで徐々に人が増え始めていた。



 そんな中、フロストの町はかなりの騒ぎになっていた。というのは、今までこの町に来ていた冒険者は、これといった実績も実力も大したものはいなかったのだが、今回来た冒険者は近隣でも名高いメンバーだったからである。



 そのメンバーの名前は「戦姫」。女3人のパーティだ。戦姫を率いているのはアンジェリカで、そのアンジェリカをセイラとルカが補佐している。彼女たちの冒険者ランクはそれぞれAだが実力はSランクとも言われている凄腕のパーティだ。彼女たちはドラゴンも討伐しているので「ドラゴンスレイヤー」の称号も持っている。彼女たちがそこまで有名になっているのは実力だけではない。彼女たちそれぞれが美貌で知られており、勧誘やその他の事件に巻き込まれそうになったのも少なくはない。そのため、彼女たちは基本的には3人でしか行動していない。



 そんな有名なメンバーなのだが、実はアイス含めマーブルとジェミニとライムも何度か彼女たちと一緒に冒険したりしている。もっともアイス自体は転生して今は15歳の新生領主であり、彼女たちの知っているアイスではなかった。



 実は、アイスは彼女たちの所属している国であるタンヌ王国においてえん罪で投獄された経験があり、それが原因でアイス達はタンヌ王国を離れ、カムドが長をしていたゴブリンのムラに移動して、そこで今の状態に転生したという経緯をもつ。タンヌ王国はその原因となった第2王子とその配下の貴族を処分したついでに、邪魔な存在でしかなかった貴族達を粛正して財政の建て直しに成功した。それ以上の内容については割愛しておく。



 戦姫の3人はその出国したアイスの行方を探っており、最近起こったスタンピードをほとんど被害を出すことなく解決した、という情報を耳にした。戦姫の認識では、スタンピードを被害無しで解決できるのはアイス達だけだという認識があり、それが隣国であるというのも彼女たちをフロストの町へと足を運ばせる要因となっていた。



 近隣でも噂になっている戦姫がフロストの町に来たということで、領内では騒ぎになっており、非番の領民達はもとより、フロストの町に来ていた旅人や冒険者達が一目その姿を拝もうと戦姫の周辺に集まりだしていた。とはいえ、フロスト領は開発途上であり、人が来ているといってもそれほどの数はまだいないので、他の町に比べると大した人混みではないにせよ、宴会以外でここまで人が集中するのは珍しかった。



 そんな騒ぎにもかかわらず、アイスは、いつものマーブル達に加えて、獣人のアイドル2人とウサギ各種1体ずつと一緒に見回っており、いつもの視察に勤しんでいた。



 そんなアイス達を戦姫の3人は追いかけようかと思ったが、それよりもまずはギルドでスタンピードなどの情報収集や、ギルド長に挨拶させることを優先することにし、まず先に冒険者ギルドへと向かうことにした。意外なことにそれがアイス達との再会を早めることになった。



 私達が見回りに勤しんでいたとき、カムドさんお付きのゴブリンからギルド長が話したいことがあると伝えてきた。領内の騒ぎの原因かな、と思いつつ領主館へと戻る。館へ到着すると、カムドさんが出迎えてくれた。



「アイスさん、お忙しいところ済みません。ギルド長がどうしても話したいことがあるとのことです。」



「そうでしたが、お役目ご苦労様です。早速会うとしましょうか、お茶の準備をお願いします。」



 実は現在、謁見したりする場所が領主館にはなかったりする。というのも、現在フロスト城を建築中であり、そのフロスト城は訓練所とマーシィの間しか完成していない。ということで、謁見したりする場所はアマデウス教会となったりしている。少し不便ではあるが、そういうときに使わないと、アマデウス教会はお祈りの間と水くみ場しか使用している部屋がない状態なので、使えるものは使っておこうという考えでそうなっている。



 そんなわけで、アマデウス教会へと移動する。私達は神官の間へと移動する。ちなみに、ウサギさん達とアイドル達はウサギ広場でみんなと遊んでいるため一緒に連れてきてはいない。マーブル、ジェミニ、ライムの3人だけと一緒だ。カムドさんたちは会議室でお茶の準備をしてくれている。少し待っていると、ギルド長が来たと伝えてきたので、私達も会議室へと向かった。会議室へ入ると、ギルド長がスタンバっていた。



「フロスト様、お仕事中にお呼び致しまして申し訳ありません。」



「いえ、それは構いませんが、こんな時間に呼び出しとは珍しいですね。何か問題が起こりましたか?」



「いえ、今は特に問題となっていることはありませんのでご安心下さい。フロスト様をお呼びしたのは、今フロスト領に凄腕の冒険者が来ましたので、顔をつないでおけば後々で助けになるかもと思いまして。」



「なるほど、それでここに連れてきてくれたんだね。早速お会いするとしましょうか。」



「早速のお聞き届けありがとうございます。では、すぐにお呼び致しますのでお待ち下さい。」



 少し待っていると、再びギルド長が戻ってきた。ちなみに、まだここには扉がないので、ノックもくそもない状態だ。まあ、別に隠し事してるわけではないし、そこは問題なし。



「フロスト様、こちらがタンヌ王国に所属しているAクラスの冒険者である戦姫の3人です。戦姫の3人よ、こちらにいらっしゃる方はここの領主である、アイス・フロスト伯爵だ。」



「ワタクシは戦姫のリーダーであるアンジェリカと申します。タンヌ王国からも最近噂を耳にしますフロスト伯爵にお会いできて光栄でございます。」



「私はセイラと申します。同じく戦姫のメンバーです。」



「・・・私はルカ。」



「ご丁寧にありがとう。私はこの領域を治めているアイス・フロスト伯爵です。まあ、ここは数ヶ月前に開発したばかりだから、この町以外には何もないけどね。あ、ギルド長、私は彼女たちにいろいろと冒険の話を聞こうと思っているから、君は戻っていいよ。素材の処理とかでまだまだ忙しいだろうし。」



「ありがとうございます。それでは私はここで失礼させて頂きます。」



「うん、大変だろうけど頑張ってね。」



 まさか、アンジェリカさん達がここに来るとはねぇ。そりゃ、騒ぎにもなるわな。さてと、彼女たちは、と、うん、マーブルとジェミニとライムに関しては確証があるけど、私については半信半疑といったところかな。まあ、無理もないかな。名前こそアイスだけど、転生したから別人だしね。それでも、半分は私を同一人物だと見ている3人の眼力は流石かな。まあ、マーブル達が一緒にいるというのが一番大きいのかも知れないけどね。一応再会と言えば再会と言えるのかな。流石に扉もないし、話を聞かれるのはまずいから少し結界でも張っておきますかね。私が扉の入り口に氷の結界を張ると、マーブルも音が出ないように合わせて結界を張ってくれた。流石は我が猫である。



「さて、結界も張ったので、これで声が外に漏れることはなくなったかな。とりあえず、お久しぶりと言った方がいいのでしょうかね、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん。」



「やはり、アイスさんなのですね。」



「そうです。外見はこうなってしまいましたが、あなたたちの知るアイスです。」



「ワタクシ達の知るアイスさんではありませんが、、、。一体何が起こったんですの? かなり若返ってしまいましたし、ワタクシ意味がわかりませんわ。」



「そうですね。今この場には私達しかいませんので、正直に話しますと、私は転生してこの場におります。」



「転生ですか? ということはアイスさんは一旦亡くなられたのですか?」



「その通りです。私は一旦生涯を終えて、この場にいるのです。」



「信じられません、、、。アイスさんを殺せる存在がこの世にいるなんて、、、。」



「ああ、そういうことですか。実際にはそういう死ではないのです。」



 彼女たちは信用できるし、ライムが話せることも知っているので隠し事をすることもないかと思い、今までの経緯を説明した。今ここに住んでくれているゴブリン達のムラで生涯を終えて、今度はこの国の領主の長男として転生することになったが、マーブル達と最初から一緒に過ごせるように条件をつけたこと、何やかんやあって、何もないこの領域に領主として任じられて今に至ることなどを話した。



「なるほど、普通の方でしたら、眉唾物ですが、アイスさんでしたら、あり得そうな話ですわね。」



「そうですね、アイスさんなら納得です。」



「・・・同感。」



「・・・貴方達の中で、私という存在が一体どんな存在なのか小一時間ほど問い詰めたい気分ではありますが、それはまあいいでしょう。それで、戦姫の3人は何故わざわざこんなところに?」



「アイスさんが、タンヌ王国を出国したからに決まっているじゃないですか。アイスさんのえん罪のおかげで我が国に巣くっている無駄飯食いの貴族達は一掃できましたが、それでも兄上達が追放された先で何か企んでおりますのよ。アイスさんがいなくなってからは父上も、兄上達を排除するのが忍びなくなったのか、そんなことを企んでいると知っていても黙認する始末。いい加減、ワタクシ達もあの国には愛想が尽きたのですわ。ですから、ワタクシ達もアイスさん達と合流して一緒に冒険しようと思っておりましたの。」



「なるほど、話はわかりましたが、今現在は私はここの領主となってしまったので、おいそれと冒険出来ない状態なのですがね。」



「そんなことを言っても、何かあったら誰かに業務を押しつけて冒険に行ったりするでしょう?」



「ぐっ、ソンナコトハナイデス。」



「棒読みですわよ。伊達に幾度となく一緒に冒険しておりませんわ。アイスさんのことはある程度理解しているつもりですわよ。」



「姫、こう言ってはなんですが、どうせ王国に戻らないつもりなら、拠点をこちらに移してここの領民になりませんか?」



「セイラ、いいことを言いましたね。そうしましょう!! ここで過ごした方が絶対に楽しいに決まっております!」



「賛成。ここにはウサちゃんもいる。」



 はい? 止め役のセイラさんがそんなことを言って大丈夫なの? しかもみんな賛成してるし、、、。とはいえ、アンジェリカさんが、タンヌ王国の王女だと知っている者は少ないし、どうにかなるのかな? でも、ここの冒険者ギルドはもの凄い喜ぶだろうなあ。こちらとしても、有能な人が領民になってくれるのは嬉しいからなぁ。まあ、タンヌ王国についてはどうでもいいか。タンバラの街の皆さんのことだけが心配かな。



 いつの間にか再会を済ませた後、夕食時に領民達へ戦姫の3人が領民として加わったことを伝えると、領民達は大喜び、何よりもギルド長がもの凄く喜んでいた。ほぼSランクに近い凄腕の冒険者がこちらに来たのだからそうなのだろう。ただ、これ実は国際問題なんだよね。正直知ったこっちゃないからいいけど。



 戦姫の3人は人族のみならず獣人たちやゴブリン達ともしっかりと打ち解けていた。というか、タンヌ王国にいたころよりも表情が柔らかくなっていないか? まあ、ここの住民は下心や打算を持たずに接してくれていることが大きいだろうけど。もちろん、アイドル扱いのクレオ君やパトラちゃんも思いっきり懐いていた。我が領が誇る2人のアイドルに戦姫の3人もメロメロだった。うん、獣人モフ恐るべし。あ、実は戦姫の3人にはスライムの従魔がいたりする。黒いスライムで、名前を「オニキス」という。ちなみに、オニキスはライムが分裂して生まれた存在だ。ライム達も再会をもの凄く喜んだのは言うまでもない。今までに見たこともない位の早さでその場を跳ねていた。もの凄い分身の数だったのは驚いた。しっかりと可愛がってくれているようで何よりだった。



 そういえば、ウルヴやアイン、ラヒラスの3人も戦姫の美貌にみとれているようだった。私達が戦姫と親しげに話をしているとき、羨ましそうにこちらを見ていた。まあ、私達は初対面ではないからこれは仕方がないということでガマンしてくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る