第20話 さてと、汚物は消毒ですかな。
テシテシ、テシテシ、ポンポン、いつもの朝起こしだ。これのおかげで今日も頑張れるというものだ。天気が晴れであろうが雨であろうが、暑かろうが寒かろうが、そういったことは二の次だ。しかも時間的にはほぼ同じ時間帯に起こしてくれる。最高のモーニングコール? といっても過言じゃ無い。
それはさておき、朝食を済ませた後、オーガジャーキー用のタレの完成度を確認する。一口舐めてみたがいい塩梅だった。よし、今回はこれで作成することにする。とはいえ、冷まさないといけないので蓋をして放っておく。
昨日置いた転送ポイントに戻ってまずポイントを消す。ラヒラスが木騎馬を出してくれたのでそれに乗って移動開始だ。私達は日によって木騎馬の色が異なる。今回は赤のようだ。マーブルとジェミニとライムがそれぞれ定位置に乗る、うーん、モフモフ。ライムが腰の革袋改め革の筒に入り込んでから私も木騎馬に跨がる。あ、ご存じの通りウルヴは黒のようだ。ちなみにラヒラスが作成した木騎馬はそれぞれ同じ色がいくつか存在するのだが、黒に至っては1騎しか存在しないらしい。もちろんウルヴ戦用となっている、とはいえ性能はどれも同じだそうだ。
そういえば、アインやウルヴはいつも通りの装備だったが、今日はラヒラスの装備が何か違っていた。腰のベルトに黒いTの字のようなものが差してあった。本人曰く魔導具だそうで、効果については秘密だそうだ。まあ、野郎の秘密なぞどうでもいい、その他については左側の背中に6本くらいの何かの棒が装着されていたが、それについて聞いても後でわかるとのことだったので、とりあえずは聞かないことにしておく。ウルヴもアインも頭に「?」マークを浮かべていた。
道中は問題なく進んでいるが、現在地が今どこであるのかは私には全くわからない。マーブル達の案内してくれている通りに移動しているだけだ。ジェミニに念のために聞いてみると、森はあと3分の1くらい進めば出られるそうなのだが、森を出てから街道に合流する必要があるらしい。王都は合流地点から1日くらいの距離だそうだが、流石に街道に出たら木騎馬は使わない方がいい。徒歩となると、ウルヴは戦闘では役に立たない。こちらはそれでも全く気にならないが、本人はそれでは役目が果たせないと、かなり不満げだ。とはいえ、通常の馬は手に入らないだろうし、そもそも通常の馬では荷が重い。私のこの世界での足跡をたどると、結構ご都合主義的な感じで進んではいるが、あくまで私に限った話しであり、そうそう事は上手く運んだりしないだろう。
そんなこんなで特にこれといった問題もなく道中は進んだ。途中で何かとぶつかった感じはあるのだけど、速度が速度だし、のんびりとしてもいられないのでそのまま捨て置くことにした。マーブルが特にアクションを起こしていなかったので、戻って確認すれば良かった、ということはないと思う。
無事に森を抜けると、見通しのいい場所があったので、時間もあってここで昼食を摂ることにした。ねぐらの倉庫には肉をしまっており、オークを始めとした各種肉が冷凍保存状態で存在する。昨日狩ったマーダーディールの肉ももちろん保存状態にしておいてある。冷凍と解凍は水術で簡単にできるし、水術で冷凍状態にしてしまえば、こちらが解凍しようと思わない限りずっとそのままの状態になっている。非常に便利で役に立つスキルではあるが、それでもこれよりも不便でかまわないので魔法が使いたかった(泣)。
今回は各種肉の切れ端をスープにするつもりだ。味付けはもちろんスガープラントで作った塩コショウ(名前が長ったらしいので今後は「スガー」とする。異論は認めない!)を使う。そういえば、スガーで思い出したのだけど、甘みを司る白い部分だが、搾って少し煮詰めると砂糖みたいな感じになるが、正直あまり使い途が今のところ見つからない。というのも、トリニトが貧しすぎてデザートなど作れない状態だったから。そのため結構余ってはいるんだよね。隠し味的要素以外で使っていないから。一応みんなには食べてもらったけど、正直、あれって直に食べるようなものではないんだよね。いい使い途が見つかるといいのだけど。
適当な切れ端と適当な植物を使ってスープを作ったけど、これが思いの外いい出来だった。とはいえ、ほんとうに適当に入れたのでもう一度作れと言われても不可能なんだけどね。昼食のスープは好評のうちに終わり、昼食後はウルヴが入れてくれたお茶を堪能しつつ片付け作業をしている。片付けといっても、食器はライムが綺麗にしてくれるのであとはねぐらから用意した水でゆすいで、水術で水分を飛ばして空間収納にしまうだけの簡単な作業だ。4人+3人程度の食器と鍋程度なら5分もかからない。これもライムのおかげである。
昼食も終わったので先に進むと、街道? に合流した。というのも、街道とは名ばかりの舗装も何もされていない道で、一応それなりに人通りがあるおかげでどうにか道のような形になっている程度のものだった。流石はトリトン帝国というか何というか、、、。ってか、それなりに開けている道なんだから、別に道の上をわざわざ進む必要もないのでは、とか思ったり思わなかったり。
街道に合流してからは徒歩の旅となるので、マーブルとジェミニは私の肩から降りたり乗ったりしている。徒歩の旅ではよくあることなので、降りては私の後ろについてトテトテ歩いたり、ピョンと肩に乗ってはモフモフしたりして徒歩の旅を楽しんでいたが、マーブルが私の肩に乗っていたときにテシテシと叩いてきた。それからマーブルが指し示した方向に気配探知を行うと、何か激しく動いているのを捉えた。この感じは魔物ではなく人同士の争いだ。盗賊の一団が襲っているような感じのようだ。その証拠に人以外にも四つ足が1頭か2頭いる気配を感じるからだ。一応この国の貴族の子供だし、道中のついでということもあるので、手助けすることに決めた。私が歩きを止めて、すぐ後ろにいる3人の方を向いたので、3人も歩きを止めた。
「みなさん、この先に人同士で争っている気配を探知しました。気配からして恐らく盗賊が荷馬車を襲っている感じです。ついでというのもありますが、一応貴族の子弟として見過ごすわけにはいきませんので、盗賊を蹴散らす、というか殲滅します。」
「あ、じゃあ、俺に任せてくれないかな? 俺用の魔導具のお披露目も兼ねてさ。」
「なるほど、じゃあ、ラヒラスに任せるとします。」
「うん、任せて。とりあえず倒す相手は何人くらいかな?」
「すまないが、そこまではわからないけど、とりあえず全部で20人くらいはいるかな。」
「なるほど、その20人は襲っている方と襲われている方の合計人数かな?」
「うん、そういうこと。距離は1キロメートル弱といったところかな。これからは駆け足程度の速度で進むけど、ラヒラスは大丈夫かな?」
「1キロ弱で駆け足程度なら大丈夫だと思う。魔導具作成ばかりしていたとはいえ、合間ではアイン達と一緒に狩りに出たりもしてたから何とかなると思う。」
「そうか、でも、厳しかったら言ってくれ。」
「ありがとう、お言葉に甘えるよ。」
ラヒラスはアインやウルヴとは違って基本動き回る機会がそれほどない。元々部屋で魔導具を作るだけの生活を送っていたので基本的に体力は無い。とはいえ、そのために木騎馬を出すわけにもいかないし、本人もそれを理解している。ということで、ラヒラスがバテない程度の速度で進んでいく。
駆け足程度で進むこと数分、争っている一団の姿を捉えられる距離まで近づく。うん、とりあえず死者は出ていないみたいだけど、重傷者が何人かいるかな。馬車の周りを盗賊が襲っているのか、盗賊は12人といったところかな。そう考えていると、ラヒラスも同じように考えていたらしく私に言ってきた。
「アイス様、盗賊は12人といったところだと思うけど、ここは俺に任せて欲しいんだ。」
「ああ、先程言ったようにラヒラスに任せるけど、行ける?」
「あの程度なら問題ないかな。」
「相手は盗賊だけど、死んだ方がマシと思わせたいから、殺さずに攻撃力や機動力を奪う方向でいける?」
「了解。」
ラヒラスは頷くと、腰に差していたT字の黒い魔導具を取り出して魔力を込めた。その魔導具は魔力が籠もるにつれて色が最初は青っぽかったが、次第に青白く輝いていった。ほどんど白に近い状態まで青白く輝くと前方にその魔導具を投げる。その魔導具は馬車の周りを回ると、ラヒラスが左肩に付けていた棒が飛び出した。その棒はコの字になって馬車の方に高速で移動して盗賊達の周りを回り始めた。
コの字となった物体から矢のようなものが次々と発射されていく。矢は盗賊達に刺さり、盗賊達はその威力に大声を上げていく。その物体から発射された矢は盗賊達の手足に刺さりたちまち戦闘力や機動力が奪われた。盗賊達の全員が身動きを取れなくなると矢の発射が止まる。最初に投げたT字の魔導具がラヒラスの元に戻ってくる。ラヒラスをそれを掴んで腰に差すと、コの字の物体はラヒラスの元に戻りそれぞれ背中に最初の状態で装着された。・・・最後の方はともかく、これってまんまフィ○・ファ○ネルじゃねえか!!
ま、まあ、それは後にするとして、まずは襲われた方達の無事を確認しないとな。戦闘が終わって護衛と覚しき人達がいろいろと確認をとっていた。
「大丈夫ですか?」
護衛の長っぽい人が答える。
「済まん、助かった。いきなり盗賊どもに襲われた上に数は向こうが上だ。荷馬車を護衛しつつ相手をしなければならなかったから、このまま君達が来なければ最悪の結果になるところだった。」
「それよりも、いまの襲撃で命を落とされた方はいらっしゃいます?」
「幸いなことに死者はいない。重傷を負った者もいるが、幸いにして治れば大丈夫な状態だ。」
「とりあえず応急措置を行っておきましょう。」
「それは済まない。お願いしてもいいか?」
「ええ、任せてください。」
そう言うと、湧き水を入れた水筒を出して、負傷者の傷にそれをかけていく。傷の上にトリニトで買っておいた応急処置用の包帯みたいなものを巻く。トリニトで買ったときは結構汚れていたので、ライムに綺麗にしてもらってから洗濯した清潔なやつだ。そうして負傷者たちに応急処置を施していく。その間にウルヴ達は盗賊の体を拘束していた。盗賊達はラヒラスのファン、じゃなかった魔法の飛び道具にやられて激痛のあまり声も出ない状態だった。
護衛の応急処置と盗賊の拘束が終わって少し経つと、荷馬車の持ち主と思われる人が挨拶に来た。
「盗賊達の襲撃から我らを助けてもらい誠にありがとうございました。」
「いえいえ、偶然にも通りがかっただけです。お気になさいませんように。」
「いえ、恩人に対してそんな失礼なことはできません。おおっと、自己紹介がまだでしたな。私はこの国で行商をしておりますトレントと申します。帝都にてトレント商会を営んでおります。」
「私は護衛隊の長をしているゴメスという者だ。」
「これはご丁寧に。私はアイス・フレイム、トリニト領フレイム伯爵家の長男です。」
「えっ? フレイム伯爵家のご子息でいらっしゃいましたか? こ、これは失礼しました!!」
「先程の失礼な態度、誠に申し訳ありませんでした!!」
2人ばかりか、動ける者達が揃って土下座をした。ええ、それは見事な土下座でしたよ。私はそんなこと全く望んでいませんでしたがね。
「みなさん、頭をお上げください。こんな少人数で移動していたら、貴族なんてわかるわけありませんし、私自身そんな態度を望んでおりませんので。」
しばらく彼らをなだめてから、ようやく頭を上げてくれた。といっても頭を上げただけで立ち上がってはくれなかったが。
「ところで、アイス様、助けて頂いたお礼をさせていただきたいのですが、、、。」
「ああ、それについては、たまたま通りかかっただけですのでお気になさらず。どうしてもというのであれば、怪我をされた方達の治療費に充ててください。」
「ア、アイス様、、、。」
正直お礼を期待して助けたわけではないし、いくら商会もちの商人とはいえ、トリトン帝国だからそれほど期待できるものでもなさそうだし、ぶっちゃけそんなもの必要ないと思っている。
「あ、そこで縛られている盗賊達ですが、そのまま引っ捕らえたまま突き出すのもよし、放っておいて魔物の餌にするもよし、お好きになさってください。では、先を急いでいますのでこれで。」
そう言って、この場を立ち去る。感謝してくれるのは嬉しいが、それで移動を制限されるのは嫌だ。唖然としている彼らをそのままにして先を進んだ。
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