大規模地域観測作戦

「ふぅ~」


 広い工場の中で、シオリは一息ついた。


「棟梁、お疲れ様です。これで準備は完璧ですか」

「ああ、全ての機材、設備のアップデートが完了した。ついでに、今までの全データの補完プログラムも完成している。あとは、あの黒い煙をもう一度観測するだけだ」

「……ですが、そう上手くあの煙は出てきてくれるんですか?」

「だから、こういう観測機材を使ってスキャンするわけだ」

「そうなんですか?」

「ああ、あそこらへんを見てみろ」


 シオリに指を差され、ハヤテはその方向を向いた。そこに置かれているのは、自分のドラゴンの姿よりも大きな、翼の生えた機械。それが大量に置かれている。その近くにも、大小さまざまな翼のある機械が置いてある。


「これを、主に都市部上空で飛ばす。これが、常に都市を観測し続けるわけだ。そして、反応があった場合にもっと小型のドローン、そして、お前が叡持を乗せて直接赴く。そうやって、観測を効率化しているんだぜ」


 そういえば、以前にそんなことはなされた覚えがある。ドローンという空飛ぶ機械を使って、被検体を探しているとか。


「じゃあ、この整備されているドローン? で合ってますか?」

「ああ、大型から小型まで、すべてドローンだ」

「じゃあ、このドローンは、この後都市の観測に赴くんですね?」

「まあ、普段はそうなんだが、今回は少し違う」

「そうなんですか?」

「ああ。今回は、ドローンの大部分を一部の地域に集中させる。なんでも、そこで紛争が起こっているらしいんだ。そこらへん一帯を、ドローンで集中的に観測するようだ」

「はー。ところで、この大きなドローン一機で、どれくらいの範囲を観測出来るんですか?」

「まあ、帝国5個分は観測できる範囲がある。移動しながら観測するから、実際はもっと広範囲を、細かく観測できるがな」


 なんてこった。ここまで調べられる機械が、ここには大量にある。一体、この陣営だけでどれほどの戦力があるのか。少なくとも、ここ以上の情報力を持った勢力はないだろう。


「まあ、こういう性能を持った機体を、何機も投入するんだ。叡持がどれほど本気か分かるだろ?」

「……はい」

「なら、お前もしっかり精進しろよ!」


 バーンと背中を押され、よろけるハヤテ。シオリは大笑いしながら、戸惑うハヤテを眺めていた。


〇 〇 〇 〇


 大草原の上で、対峙する二つの軍隊。片方は急速に拡大を続ける少年領主の軍隊。対するは、故郷を護ろうとする防衛軍。勝敗に関係なく、多くの血が流れることになる。それでもなお、領主は戦争をしようとする。それはつまり、暴力の行使。多くのコストを払い、無理矢理何かをしようと、いや、暴力の行使そのものが目的にだってなりえる。


 軍隊の陣地では、一人の少年が立っている、他の者は恐怖に震えあがり、その少年を黙って見ている。


 彼の腰には、一振りの長剣が佩かれている。この長剣こそ、恐怖の証。


「じゃあ、もう攻めちゃおう。いつまで睨み合っているんじゃ退屈すぎる」

「し、しかし……、現在我が軍は劣——」


 バシュッ!


 この瞬間、一人の忠臣が、命を散らした。


「よし、攻め込もう!」



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「シオリさん、ドローンの配置状況はどうですか?」

「ああ、大型ドローンの15%、中型ドローンの20%を集中させてるぜ。観測体制はばっちりだ。ここまで集中させたのは初めてじゃないか?」

「はい。僕の予想が正しければ、ここで大きな動きがあります。それを、しっかりと観測しなくてはいけません」


 叡持とシオリが会話する中、ハヤテはずっと、モニタリングされる少年を見ていた。


 彼は哀れだ。Dドライバを使うまでは臣下に、使ってからはDドライバに。結局力に支配され、振り回されている。


 確かに彼には、力を我が物とする力はない。だが、それは少しずつ身に着けていくものではないか? 初めから強い者などいない。俺だって、決して強いわけじゃない。俺も、場合によってはこんな哀れな姿となったのだろうか。他人にはとても思えないこの少年を、ハヤテはずっと眺めていた。


「この少年の軍団は、恐らく敗北するでしょう。しかし、彼にはDドライバがあります。それも、破壊力がトップクラスのものが。さて、もうそろそろ頃合いでしょう。ハヤテさん、準備をお願いします」


「え? は、はい……」



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「敵は目前です! 早くお逃げください!」


 バシュッ!


「僕は逃げない。だって、この剣があるんだから」


 既に軍隊は壊滅している。兵はほどんと逃げ、自分の臣下さえも脱走している。絶望的な敗北だが、少年領主はまだ立ち向かおうとする。


「敵の大将だ! 討ち取って名を上げろ!」


 敵は既に陣地に到達し、手柄と立てようと大勢の雑兵が押し寄せる。


「なんだよ……、どうしてみんな、僕をいじめようと……。うわああああああ!」


 絶望の中、少年領主は剣を振った。すると強烈な衝撃波が発生し、辺りの兵士、木々草花をなぎ倒す。見るとそこには、バラバラになった兵士が、草原を埋め尽くしている。


「はは……、なんだよ。この剣があれば、別に軍隊なんか要らなかったんだ。この剣さえあれば、僕は最強なんだ!」


 ブオンブオンと剣を振り、人間をゴミの如く掃除する。既に少年は、人間の目をしていなかった。血に飢えた獣、残虐で、破壊を楽しむ、ただの災厄の権化と化していた。

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