第67話 あなたの愛人になります。

 俺の目の前に足楽彩子。いったい何を企んでいる?


 トイレはこの階の端っこにある。人は来るけど多くはない。それでも目立つ。足楽彩子はお構いなしだ。俺から別の場所へと言うのは違う気がする。


「もう一度聞くけど、雲雀さんに騙されているってどう言うこと?」


「和希さんは、『雲雀さんは俺一筋』と思ってるでしょ? でもコッソリ油木光と連絡を取り合ってます」


 それはない。雲雀さんにかぎってそれはない。


「いま『雲雀さんにかぎってそれはない』って思ったでしょ? 可哀想な人」


 ぐぬぬ。バレてる。


「証拠は?」


「証拠? そんなのさっきの対決を見ていれば一目瞭然でしょ? 普通『勝った方の嫁になる』って言いますか?」


「それは俺を信じて——」


「それはあなた個人の考えでしょ? それにさっきの勝負はあっさりとテルは負けたでしょ? 雲雀とテルは約束してるんですよ」


 あっさり負けた? 神域に入った俺に勝てないと思ったからでは? でもテル君のバッターの時は確かにあっさり過ぎたけど……。そんなことよりも——


「雲雀さんとテル君の約束って何? なぜそんな事をする必要がある?」


「和希さんを目立つ存在にするためですよ。そして和希さんを隠蓑に、和希さんと結婚後二人でコッソリ会うんですよ。それが約束です」


「何を言ってる? 二人は終わっているんだろ?」


 足楽彩子は大きくため息を吐いた。


「和希さんは『ヨリを戻す』って言葉知らないんですか? あなたと違って二人は隣近所。幼なじみですよ? 会う機会はいくらでもあります。会っていれば気持ちなんて直ぐに変わりますよ」


「言ってることは分かるが、俺は雲雀さんを信じる。それにテル君も悪い奴じゃない。そんな事をする二人じゃない」


「それがあの二人の作戦です。あなたにいい奴と思わせる。まだ分からないんですか?」


「おまえの言う事は信用できない」


「信用しなくてもいいですよ。いずれ分かる事です。その時ツライ思いをするのは和希さんです」


 はぁ〜。めんどくさくなってきた。この子は馬鹿なの?


「和希さんがつらい目にあった時、誰かがそばにいないといけませんよね? 大丈夫です。私がそばにいてあげます。私、和希さんの愛人になります」


「はぁ! おまえ何言ってんの?」


「大丈夫です。体には自信があります。雲雀のお子様ボディなんてゴミと思いますよ」


 やばやばやばば。この子ヤバイ。頭おかしい。ボク達高校生。愛人とか体とか何言ってんの。

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