第44話 雲雀さんの励まし。

『そっか。沙羅ちゃん留学するんだね。寂しくなるね』


「はい……」


 俺は電話でお話中。相手は雲雀さん。


 今は沙羅から留学の話を聞いた次の日。時刻は午後七時。晩御飯、風呂など一通り終わり自分の部屋にいる。


 今日の学校は大騒ぎだった。突然の沙羅の留学。改めて沙羅が学校で人気者だと分かった。


 凄かった。何が凄いかって、休み時間になると沙羅に告白する男子が続出。もうお祭り騒ぎだった。昼休みなんて告白の列が出来ていたよ。一年生から三年生まで三十人は並んでいた。流石に先生はいなかったけどね。


 もちろん沙羅は全部断っていた。


 沙羅の友達の神楽紫音さんも驚いていた。一年間の留学だけど別れるのがつらくて泣いていた。素敵な人だ。普段冷静な桐人も驚きを隠せないでいたね。


 もちろん雲雀さんも驚いていた。


『留学先はオーストラリアね。近いけど遠いよね』


「はい……」


『和希、元気出して。あなたが落ち込んでいたら沙羅ちゃんの決心が鈍るよ。ファイト』


「そうですね……でも俺……沙羅に一ヶ月で痩せるって約束したけど出来るか自信なくて……」


 雲雀さんに弱音を吐いてしまった。追い込まれてるな……。


『二人の間で痩せる事に何か意味があるんだね』


「まぁ、そうですね……俺だけのこだわりになりますけど……」


『……うーん、秘密にしておこうと思ったけど……大丈夫、一ヶ月で細マッチョのイケメンになれるよ』


 秘密? なに秘密って? なんなの?


『あのね秘伝躯体絞りには副次的効果があってね、二十四時間の総エネルギー消費量を正常に戻してくれるんだよ』


「なんですかそれ?」


 雲雀さんがまたまた難しい事を言ってる。


『総エネルギー消費量というのは体には約六十%の基礎代謝量、約三十%の身体活動量、約十%の食事誘発性熱産生の3つので構成されてね、そのエネルギー消費が正常だと痩せやすくなるんだよ。和希はそれが日頃の不摂生で低かったと思う。今は正常だからガンガン痩せて細マッチョになると思うよ』


「言ってる事はなんとなく分かりますけど……それは正常に戻っただけでガンガン痩せないのでは?」


『そうだね。あと秘伝には二義的効果もあるから副次的効果との相乗効果で大丈夫だよ』


「二義的効果? ナニソレ?」


『えっとね、体には気の流れというのがあって、秘伝は気の流れを活性化させるんだよ。それが二義的効果。秘伝の効果が切れてぽっちゃりに戻っても二義的、副次的効果は体に残るんだよ。

 簡単に言うと超人になるって事。超人と言っても最高でオリンピック選手級だけどね』


「……はい? 最高でオリンピック選手級?」


『潜在能力解放とでも言うのかな? 凡人は凡人のまま変わらないけどね。和希は才能有りだからオリンピック選手級になってると思うよ』


 待て待て待て。気の流れ? 潜在能力解放? ここは異世界ですか? 摩訶不思議すぎでしょ。


『だからね、弱音吐かずに頑張れ。二義的、副次的効果は本人が努力しないと意味がないものだからね。生かすも殺すも和希次第だよ』


 なんだかよく分からないけど励ましてくれている事は分かる。雲雀さんは嘘はつかないと思う。本当の事を言ってると思う。たとえ嘘でも一筋の光になった。頑張れる。


「雲雀さんありがとう。俺一ヶ月死ぬ気で頑張るよ」


『元気が出たみたいだね。でも無理しすぎて死んじダメだからね。和希が死んじゃうと私悲しいからね』


「ははは。雲雀さんに悲しい思いはさせませんよ。だって俺——」


 ——おっと危ない。好きって言いそうになった。


『和希。だって俺〜の先は何を言おうとしたのかな?』


 ぐぬぬ。何故か雲雀さんは俺を咎めてくる。


「俺は……体が人一倍丈夫って言おうとしたんですよ。風邪とか病気になった事ないですしね。馬鹿は風邪ひかないって言うじゃないですか。俺馬鹿ですから病気にならないんですよ」


 昔、沙羅を看病した後は必ず風邪をひいていたけどそれは黙っておこう。


『……』


 ……あれ? 雲雀さんが無言になった。


「もしもーし」


『……あ、ごめん。電波が悪かったみたいだね。和希、馬鹿は風邪をひかないの意味知ってる?』


「いえ、知りません」


『馬鹿は風邪をひかないの意味はね、馬鹿は風邪をひいても気づかない、だよ。つまり和希は超鈍感だって事。——あ、そろそろエクササイズの時間だよ。またね』


 そう言って雲雀さんは電話を切った。あれ? 怒ってた? 気のせい?


 そんな事を考えていると部屋の扉からノックの音と沙羅の声。さて、今日も頑張るか。


 ◇◆◇


 それから一ヶ月間、俺は死ぬ気でダイエットを頑張った。


 ガンガン痩せていく俺。雲雀さんの言っていた事は本当だった。


 紫音さんが毎週休みの日になるとはお泊まりに来ていた。毎回俺のストイックな姿を見て心配していた。優しいね。


 学校でも俺が何かの病気なのかと噂になるくらい急激に細マッチョになっていった。


 そして沙羅の留学前日には、秘伝秘経穴躯体絞りの細マッチョを超える引き締まった体になった。


 沙羅は喜んでいる。紫音さんはダイエット完了時、俺が話しかけると何故か顔を赤くしてた。しばらくして『イケメン和希にやっと慣れた』と言った。


 言われて悪い気はしないけどイケメンになるのが目的じゃないからね。……すみません、嘘です。嬉しいです。


 だってボクは男の子だもん! 女の子にイケメンっ言われて嬉しくない男子なんていないんだからね! いや、一人だけいた。親友の桐人がいたぁ!

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