第25話 義妹の沙羅に会いに行く。

 俺はいま父さんの車に乗っている。住んでいる街の駅で電車を降りた。そして迎えに来てもらった。


 父さんの第一声が『おかえり和希。別人になったな』だった。見た目もだけど雰囲気が全然違うらしい。


 雲雀さんとプラットホームで別れる時、好きと告白しようと思った。悩んだ。だけどしなかった。


 断られたら落ち込んだまま沙羅に会わなければいけない。


 受け入れてもらったら有頂天で沙羅に会う。


 どちらもダメだ。平常心で会わないといけない。


 雲雀さん言っていたな……『運命の分岐点でも片方しか選べない時もある』って。


 雲雀さんって一個上だよね? 高校三年生だよね? 十八歳だね?


 うーん。年齢詐称……。って、そんな訳ないか。


 家に帰る車の中で父さんと雑談をした。普段から忙しい父さん。ゆっくり話すのは久しぶり。


 徳川家の秘伝、秘経穴躯体絞りの事を父さんに聞いてみた。知っていた。でも終始歯切れの悪い返事だった。はて? 秘伝には何かあるのかな?


 父さんは『いずれ分かる。今はその時ではない』と言っていた。う〜ん。なんだろ? 死にはしないと言っていたけど……。


 そんな事より義理の妹、沙羅のことを聞いてみた。週一で俺の部屋の掃除をしていたとか。母さんがさせていたとの事。ありがたや〜。


 沙羅の今の現状も……やはり予想通りだった。


 俺が送った痩せた姿を見てから部屋に閉じこもっていた。


 きっと自分がどんなに酷いことをしていたのか分かったのだろう。


 自分が誰に何をしていたのかを。


 だけど沙羅がやっていたことは俺のせい。俺がもっとしっかりしていれば沙羅もあんな事をしなくてよかった。


 優しく思いやりのある沙羅を変えてしまったのは俺だ。


 隣で運転している父さんは俺や沙羅の現状は当然知っている。


 小さい頃から父さんは言っていた。


 どんな理由であれツライ思いをしている人間に周りが手を差し伸べたとしても届かない。


 おまえに何が分かる、ツライのは、苦しんでいるのは自分だと思ってしまう。時間も解決してくれない。


 自力で打破するしかない。と。だから父さんは見守っているだけ。


 父さんの言っていることは分かる。俺もそうだった。誰の声も聞いていなかった。


 父さんは冷たい人ではない。とっても優しい。


 父さんもツライ事を経験している。今の俺と同じ高校生頃、陰湿ないじめにあっていたと小さい頃に教えてくれた。


 自力で克服したとも。その時の経験からくる言葉。でも父さんの言っていることは強い人間のセリフ。


 全ての人が父さんのように強い人間じゃない。弱い人間もいる。俺のように。声も届かず自力で打破できない人間が。


 雲雀さんは俺が自力で克服したと言っていた。だけど違う。


 雲雀さんが、地元の大人の人たちが俺を引き揚げてくれた。あの人たちがいたから殻を壊せた。感謝している。


 優しい沙羅は今自分のしてきた事に心が潰されそうになっているはず。


 沙羅を救いたい。本来の優しい沙羅に戻したい。俺のエゴでもなんでもいい。大切な妹だから。


 でもどうやって? どうすれば俺の声は沙羅に届く?


 雲雀さんのようによく分からない難しい言葉を並べる? そんな賢い頭は持っていない。それにそれでは届かない。じゃあどうする?


 今の俺の思いを伝えるしかない。でもそれがダメだったら?


 ダメとか、できないじゃない。やるしかない。出来なかったという選択肢は俺にはない。


 父さんに『帰ったら沙羅と話し合う』と伝えた。『沙羅の部屋の扉を破壊するかも』と言うと、


 ふっと笑い『頼もしくなったな。弱い父さんとは違うな。すまない』と悲しそうに言った。


 弱いって……初めて聞いたな。父さんも苦しんでいたんだな……。


 全部……俺のせいだ。


「父さん大丈夫だよ。沙羅の事は俺に任せて。今まで迷惑かけていたしね」


 ◇◆◇


 家につき義母に挨拶をした。沙羅は部屋にいると確認した。


 リビングから二階の沙羅の扉の前に移動した。


 ふう。さて、ここからだ。俺の声は、思いは沙羅に届く?


 ……雲雀さん少しだけ力をかしてね。


 俺はポケットに入れていたペアリングを出し握りしめ気合を入れた。

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