第22話 夏祭りの帰り道。
商店街主催の夏祭りが終わり、俺は
周りには親子やカップルなど人が沢山いる。俺達と同じく帰宅の途中。みんな夏祭りの余韻が残っている。
俺と雲雀さんの指には浴衣カップル決定戦の優勝商品のペアリングがはめてある。そう、俺達は優勝した。
帰り道。隣にいる雲雀さんと手を握っている。行きとは違う握り方、恋人つなぎで。
恋人になった。と言うわけではないよ。
◇◆◇
盛り上がった浴衣カップル決定戦。それが終わると同時に夏祭りは終了。
雲雀さんの演技は凄かった。一言だったけど見ている人を魅了した。俺のイケボで騒ついていた会場が一瞬で静かになった。次元が違った。
三組が終わり優勝を決める審査。審査員は観客。拍手の大きさで一番が決まる曖昧なものだった。
圧倒的大差だった。二組には拍手がなかった。可哀想なくらい。顔から火が出るくらい恥ずかしい事を言ったのに……。
そしてステージ裏でイケメン君と清楚美少女と遭遇。同じステージにいたから会うのは当たり前だね。
雲雀さんは二人とは目も合わせず商店街の人達とにぎやかに雑談。完全に空気と化していた清楚美少女とイケメン君。
二人は雲雀さんを見ていた。二人とも無表情だったけど、清楚美少女の目の奥にドス黒いものを感じた。先入観からそう感じたのかな?
そして商店街の人達と別れの挨拶を済ませて、帰ろうとなった時、雲雀さんが手を握ってきた。今している恋人つなぎで!
俺は驚いたけど、それ以上にイケメン君が驚いていた。はて? 恋人だったから手くらい繋いだ事あると思うけど……。
そしてその先も……って、ダメダメダメ。雲雀さんをそういう目で見ちゃダメ! 想像もダメ!
そんな事考えると胸が痛くなる。切なくなる。
だって雲雀さんの事を好きになってしまったから……。
沙羅ごめんな。またつらい思いをさせてしまうな。
沙羅に謝る理由、それは雲雀さんが言っていた『義理の妹の沙羅が俺を異性として好き』と。その思いに応える事ができない。
沙羅が俺を好き。違うかもしれない。でも可能性はゼロじゃない。
ゼロじゃないと思うのは、ここに来る前の沙羅の行動が異常過ぎた。いま考えると変だ。
俺はあの時から無気力になっていた。そしてぽっちゃり体型に。表面上は明るくしてバカなふりをしていた。
あ、でも推しV◯ューバーは大好きなんだよね。バカなふりじゃないんだよね。ついついニヤけるんだよなぁ。
沙羅はそんなぽっちゃりおバカな俺を異常なまでに嫌っていた。豹変したと言ってもいい。
あんなに優しく思いやりのある沙羅がそのくらいであそこまで酷いことをする? 見た目が変わり無気力になったくらいで?
俺のことを好きなら、ぽっちゃりの俺を嫌っていた、憎んでいたことも漠然とだけどなんとなく分かる。
俺もあの二人、清楚美少女とイケメン君に激しい憎悪の念を抱いてしまった。表には出さなかったけど。
だけど沙羅は出した。好きな俺を消してしまったぽっちゃりの俺に。今の俺とぽっちゃり俺は同一人物。それを別々の人間として考えてみると……。
それほどまでに俺を深く好きだった? 感情を抑えられないくらいに? それなら今この痩せた姿で沙羅に会ったら——
「……ずき、和希」
「あ、はい」
「どうしたの? 考えごと?」
「はい……俺、明日帰ります」
「……そっか。頑張ってね。今の和希なら大丈夫。絶対妹さんと仲直りできるよ」
優しい笑顔の雲雀さん。月明かりと歩道の照明だけの明るさのせいか笑顔でも寂しそうに見えた。
「えっと、その、雲雀さんは大丈夫ですか?」
「え? 私は大丈夫だよ。さっきも見たでしょ。平気平気。心は回復しました。いっぱい貰ったからね」
いっぱい貰った? 誕生日プレゼント? 賞品のペアリング? 絶対ちがうよな。
雲雀さんはたまによく分からない難しいこと言うからなぁ。う〜ん。
「あ。そうだ。雲雀さん、連絡先交換しませんか?」
「え⁉︎」
雲雀さんは驚いている。あれ? 迷惑?
「えっと、ほ、ほら、妹との事報告したいし」
「あ……うん……。いいよ。全然オッケーだよ。交換しよ」
ほっ。良かった。断られていたらツラかったよぉ。
家に帰り、お風呂などを済ませあとは寝るだけの状態になってから、いつもの畳の部屋で連絡先を交換した。
雲雀さんは何故か嬉しそうにしていた。
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