第21話 負けられない戦い。

 神社に到着。賑わっている。


 雲雀ひばりさんは手を繋いでからずっと無言だ。顔も赤い。


「雲雀さん、お賽銭あげに行きましょう」


「う、うん」


 恥ずかしそうにしてる雲雀さん。手を繋いでいるのを周りから見られているのが恥ずかしいんだろうな。


 だぁけぇどぉ。離しません。神社奥のお賽銭箱に着くと手繋ぎ強制終了になるから、そこまではお願いします!


 賽銭箱の前に到着。それと同時に手を離した。


 巾着袋からお賽銭を出した。奮発して百円。


「あ、あれ」


 隣にいる雲雀さんを見ると巾着袋の紐をほどくのに苦戦している。


「雲雀さん、ほどきましょうか?」


『お願い』と言って巾着袋を渡された。紐は簡単にほどけた。


「はいどうぞ」


「和希、凄いね」


「そうですね。自分でもびっくりです。でもこの力は雲雀さんに貰ったものですからね。感謝してます」


「私は何もしてないよ。それは和希が頑張って手に入れたものだよ」


 微笑む雲雀さん。


 賽銭箱にお賽銭を入れて目の前の紐を振りガラガラと鈴を鳴らしてお願い事。


 沙羅と仲良くなれますように。


 隣にいる雲雀さんを見ると手を合わせ目を瞑っている。その姿に見惚れてしまった。


「よし。和希。屋台見てまわろ。あ、その前におみくじだね」


「雲雀さんは何をお願いしたのですか?」


「ん〜。ナ、イ、ショ」


 まぁ、教えないよね。


 おみくじは俺は小吉。雲雀さんは大吉だった。


 そして神社隣の駐車場へ。かなり数の屋台と奥にはステージが設置してある。


「金魚すくいどこかな〜。あ、あった」


 雲雀さん、意外とお子様?


 座って金魚すくいを始める雲雀さん。まったく取れない。


 俺は後ろで立って見ていた。ふと周りを見渡す。人が多い。カップルもかなりいる。


 俺と雲雀さんも恋人に見えるのかなぁ? 


 ん? あの人たちは……。


 遠くに浴衣を着た男女が見えた。見覚えがある。


 待合所で雲雀さんと昼ドラやっていたイケメン君と清楚美少女だ。


 間違いない。俺の視力は裸眼で2.0。見間違いはしない。


 ヤバイこっちに来ている。雲雀さんは金魚すくいに夢中で気づいていない。どうする。


 近づいてくるイケメン君と清楚美少女。


 俺は雲雀さんの後ろに立ち壁になった。二人に雀さんは見えない。


 金魚すくいに来たらどうしよう。お願い、来ないで。


 イケメン君と清楚美少女は金魚すくいをスルーして通り過ぎた。俺は少しずつ移動して雲雀さんを隠していた。


 ……ふう。緊張した。雲雀さんは……まだやってる。


 結局1匹も取れなかった。でも雲雀さんは満足そうだ。サービスで金魚を貰えたけど、雲雀さんは断った。


 その場を離れようとしたら、俺と雲雀さんに声をかける人物が現れた。俺が腕時計を買った貴金属店の経営者。


 毎朝走っている時に挨拶もしていたので顔馴染みになっている。


 その貴金属店の経営者の人は夏祭りの運営側。この夏祭りは商店街が開催している。


 俺達にお願いがあるとの事。なんだろ?


 この夏祭りの目玉。浴衣カップル決定戦に出てほしい、出てくれる人が今のところ二組だけで寂しいと言われた。


 そして手に持っていた箱を開け俺達に見せた。中には指輪が入っていた。


 優勝商品のペアリングだとか。色々な種類がありどれか一つ選べるらしい。サイズは合わなければ後日発送してくれる。


 ふっ、指輪を見せて出場させるなんて、そんな運営の策略にはハマりませんよ。恥ずかしいでしょ。高校生には荷が重すぎます。


「わ〜。この指輪かわいい〜。出ます!」


 ……雲雀さんが運営の策略にハマってしまった。


 雲雀さんがやる気なら断れない。仕方なくステージ横に移動した。


 ◇◆◇


 ステージ横に着くと、二組の浴衣カップルがすでにいる。


 二十代後半の浴衣カップル。手を繋いでラブラブだ。


 そしてもう一組は……雲雀さんを悲しませたイケメン君と清楚美少女。


 しまった。こういう可能性もあった。


 隣にいる雲雀さんは商店街の八百屋のおじさんと笑顔で雑談している。あれ? 平気そうだ。


 いや、内心はツライはず。くそっ。こうなったら優勝するしかない。絶対に負けない。


 勝負の内容はお互い見つめ合って『愛してる』って言うだけ。


 高校生に人前でその言葉を言えって、恥ずかしすぎるよ!


 でもやるしかない。イケボを使えば勝てる可能性も上がる。雲雀さんも照れていたし。


 勝てる可能性? 違う——


 絶対に勝つ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る