第8話 雲雀さんは赤裸々に。

「私ね、あの人と一年付き合っていたの」


 あの人って、あのイケメン君だよね。一年も付き合っていたのね。


 雲雀ひばりさんはポツリ、ポツリと話を始めた。


「あの二人とは隣近所で、生まれた時からの幼馴染みなの。何をするのも一緒だった」


 ほうほう。仲良し三人組ですね。


「一年前に彼に告白されたの。私も好きだったけど、三人の仲がおかしくなるからダメって断ったの」


 確かに。お互い色々と気を使いそうだよね。


「でも熱心にお願いされたから付き合う事になったの。あの子も祝福してくれてさ、今まで以上に三人仲良くなった気がしたんだよね」


 あの子も祝福……あの清楚な美少女が祝福……。


「だけど一週間前に驚かそうと思ってコッソリ彼の家に行って部屋の扉をバーンって開けたの。そしたら……」


「そしたら?」


 ドキドキ。ワクワク。


「二人の顔が凄く近くて見つめ合っていて、キス……しようとしていたの……もしかしたら事後だったかもしれない……」


 今にも泣き出しそうな雲雀さん。思い出すと辛くなるよね。ごめんなさい。興味津々で聞いてました。


「私、頭真っ白になってその場から逃げたの。それからずっと二人を避けていて……」


「雲雀さん、辛かったらもう言わなくても……」


 雲雀さんは左右に頭を振った。


「誰かに聞いて欲しいの。ゴメンね。最後まで聞いてくれるかな?」


 俺は頷くことしか出来なかった。


「ありがと。でね、夏休みに二人の側に居たくなくて、隣町のおじいちゃん家に来たの。それが今日だったの」


 なるほど。


「それで、待合所で少しボーとしていたら二人が現れてね。同じ電車に乗っていたみたい。二十分位かな、ずっと無言で向かい合っていて……」


 あの待合所に二十分……。良かった二十分後に到着して。耐えられないよ。頭おかしくなりそう。


「で、二人を見ていたら、コイツらいつからの関係だったの? って考えていたら段々と腹立ってきて。どうしてこんなゴミ二人に遠慮しているんだろうって思ったの」


「そ、そうなんだ」


「そしたらね、空気読めないデブが来たの」


 ぐはっ! そのデブって俺ですか? そこは名前で良いんじゃないの⁉︎


 突っ込みたかったけどやめた。話を止める雰囲気じゃない。それに話を止めると目が潤んでいる雲雀さんは涙が溢れ出すだろう。


「でね、私に謝罪せずにデブに話しかけたのを見てブチ切れたの。あとは……知っての通りだよ」


 雲雀さんは机に肘をつき両手で目を覆った。泣いているのかな。辛そうに話をしていたし……。


「——よし!」


 気合の入った声を出した雲雀さんは覆っていた両手を離した。


「話を聞いてくれてありがと。スッキリしたぁ」


 雲雀さんはスッキリしたと言っているけど、まだ目が潤んでいる。辛いはずなのに……強い人だな。


「じゃあ今度は和希の番ね」


「ふえ? 俺の番?」


「何故おじいちゃんの家に来たのかな?」


「そ、それはじいちゃん孝行に……」


 雲雀さんは大きくため息を吐いた。


「私がHPをガリガリ削って赤裸々に話をしたのに和希は本当の事を言わないんだ」


「それは雲雀さんが自分から——」


「ほらほらブタさん。ラクになるよ〜。吐け、吐くんだ。全て吐いてしまえ〜」


 雲雀さんは目が潤んでいるけど楽しそうだ。はう〜……仕方ないなぁ。


「分かりました。吐きます。でもその前にお昼ご飯にしませんか?」


 雲雀さんが部屋の時計を見ている。十二時を少し過ぎていた。


 家政婦さんの姿は見当たらない。気を遣ってくれたのかな? 雲雀さんは俺に謝り、家政婦さんを呼びに行き、お昼ご飯の用意をしてくれた。


 俺は手伝わなくていいと言われた。お昼ご飯は素麺とサラダ。雲雀さんのリクエストらしい。


 家政婦さんと三人で食べた。雲雀さんは家政婦さんと仲良く話をしている。メガネをかけ髪をまとめた素敵な大人の女性。


 メイド服は着ていない。エプロンに普通の服。


 お昼ご飯を済ませて、雲雀さんと家政婦さんは後片付け。


 ひと段落して雲雀さんと二人になった。家政婦さんは台所にいる。携帯端末で何かを調べている。


「じゃあ、和希の事聞かせて」


「はい」


 俺はじいちゃんの家に来た理由を正直に言った。


「そっかぁ。妹さんの気持ち、よく分かるなぁ。和希、あなた馬鹿ね。バカブタね」


 えぇぇ〜。なんでぇ〜。どおしてぇ〜。意味分かんない。慰めてくれると少し期待していたのにぃ。


「和希、あなたダイエットして痩せなさい」


 雲雀さんは唐突にダイエットして痩せなさいと俺に言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る