第51話 消えた鬼の集落
意外にも美味しかった沼龍は全て食べ切れるはずもなく無惨に地面に転がる。しかしその事をライネルに咎める事も出来ず鬼達は苦笑いを浮かべる。その心の中は絶滅してない事を願っていた。
「さぁ。お腹も満たせた事だし…。そろそろ集落行くか!」
「……ハハハ。ソウデスネ。デモ……」
片言になっているのは絶鬼。三人娘は口をあんぐりと開け呆れ顔だった。
そして──
「そこが集落があった場所だよ………」
盲目の炉鬼が指を指し示す。だが皆沈痛な面持ちだ。
指を刺された場所を見ると大きなクレーターを取り囲む様に若い木々が生い茂り、分かりにくくなっているがぺちゃんこにされた木造住居や雑草が生い茂る広場のようなものが広がっている。だがそれはまるで百年経った廃村だった。
人………鬼の気配は無く生活感は感じられない。ここが魔族の襲撃をうけたという痕跡すら最早消えかかっている。よく見れば木々に生々しい斬撃のあとや黒く変色した部分がある事が窺えるがそれが襲撃の証拠とはさすがに言い難い。
「本当にここに集落があったの?」
悲痛な面持ちの面々に向かって無邪気で残酷な言葉が告げられる。だがしかしそれも頷けるのだ。ライネルが言わんとする事は最近滅びたとは言い難いからである。
スプライトが集落に攻めてきて滅び、絶鬼達が操られていた期間がどのくらいあるのか?それを知るものは誰もいないのだ。唯一指し示すのは体の成長具合だけだが三人娘が成長を感じていない為、襲撃は最近であったのでは?との認識だっただけである。
「……はい。ここで間違いないです。底なし沼の畔に生活の拠点を設け、食料の補給や底なし沼の上澄みを生活水として利用していましたから……」
そうなのだ。底なし沼とはいえこの沼は上澄みと下にあるヘドロとに層をなし、キラキラと輝く水面はまるで湖の様なのだ。
もしも絶鬼達に底なし沼という話を聞いていなければライネルやアイリスは無謀にも中に入ってしまった事だろう。それほどまでに通常ならば上澄みは澄んでいるのだ。
だが現在はライネルが散々暴れ回った後であり、水とヘドロが混ざり合い茶色く汚い水面に激変しているのだが。
「………ふぅん。じゃあそっちに行ってみようか。」
ライネルは臆することも無くずんずんと元集落があった場所に向かう。足取りが重たくなった鬼達はライネルに遅れるが目的を果たすためにも後に続いた。
だが……集落の残骸を見た鬼達の表情が一変する事になる。
えっ?───死体(遺骨)がひとつも無い!?どういう事だ?
荒廃された元集落の場所を時間をかけ捜索する7人。時には潰された住居を持ち上げ、時には土を掘り起こし、散々探し回ったが鬼がここにいたという証拠はどこにも無かった。
あるのは荒み潰れた木造の建物を侵食する自然の猛威だけである。
なぜこうなっているのか。最早それを知る術は無い。しかしある仮説が立てられようとしていた。それは楽観的な考え方であるとも言えたが……そう信じたかったのだ。
鬼の集落は別の場所に移動しているのではないか……と。
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