第17話 牛の獣人メシウス

城下町へと繰り出した2人は異様な光景を目の当たりにしていた。恰も自然と買い物し、会話し、喧嘩や怒号も飛び交う。しかしそれは全て同じ場所、同じ人が同じ周期で行っているのだ。


あまりにおかしな光景──


それを打ち破ったのは……


「私!私ですよ!ギルデバートさん!メシウスです!なんで覚えてないんですかぁ~!」


喚き散らす獣人の女性。牛の獣人だろう。でかい。何がって?それはお分かりだろう。乳だ。デカイ。しかも垂れてない。重力に逆らう乳は…いやお乳様はこれでもか!と主張している。


「あ…メシウス…メシウスだ!」


アイリスも知り合いなのか声を上げた。


「ああ……ア、アイリス様?アイリスだぁ!!!」


メシウスはこちらへ猛ダッシュしてきた。


「あ!ご、ごめんなさい。」


そりゃね。猛ダッシュすりゃ当たるよね。アイリスは盛大に転けそうになるがすんでのところで僕が手を出し倒れるのを止めた。


「あ、ありがとう。ライネル。」


「どういたしまして。」


「アイリス様?こちらの人族の方はお知り合いですか?」


「うん。そうなの。神鳴山かみなりさんで見つけて来たんだよ!」


「え……あの…?神鳴山かみなりさんですか?」


「うん!そうなの!凄いでしょー?しかもライネルはものすごく強いんだよ?」


「アイリス様?神鳴山かみなりさんは近づいてはいけない場所ですよ?凶悪な魔物の巣窟ですし…何より神聖な場所ですから。」


「えっ!?そうなの?僕が居た場所って神聖な場所なの?」


「は、はい。そうですね。神鳴山かみなりさんは天地創造の御伽噺に出てくる程、有名かつ神聖な場所に当たります。要約すると、その昔創造神が全ての根源として1番初めに創造した場所が神鳴山かみなりさんなのです。今でも山の頂上に空いた巨大な大穴の中には神が堕とした御神体となる物があると言われています。実は魔物が凶悪であの山を決して出ることが無いのは御神体を護っているからなのではないか?とも言われていますね。」


「あ!ごめんなさい長々と。ご挨拶が遅れました。私メシウスと言います。以後お見知りおきを。」


「これはこれはご丁寧に。僕な名前はライネルです。よろしくお願いします。」


「アイリス様?この坊ちゃんこの見た目でおじさんと言うことは無いですよね?挨拶が道に入っているんですが…」


「あはは……それ私もそう思うの!ライネルおっさん臭いんだよ!」


「俺は臭くねぇ!ちゃんと川で1週間に1回水浴びしてるし!」


「「1週間に1度!?」」


そんなに驚愕する事か?


「それは臭くなりますよ……」


「うん…そうだよね……」


めっちゃディスられてるやん。


「それはそうと…ギルデバート?の知り合いなんだよね?」


「ああ!はい!そうです!ギルデバートさんの部下になります!」


「メシウスは近衛兵なんだよ!でもほかの人たち皆おかしいのになんでメシウスは普通なの?」


「…そうなんですよ。私つい最近まで母の体調が悪いからって帰省してたんですけど……1日前に帰ってきたらもうこの有様だったんです。城下町は全て見て回りましたが皆この状態です。」


「そうか…じゃあ…城は?城の中はどうだったんだ?」


「それがですね……入れませんでした。」


「「え!?」」


「私これでも城に勤務する近衛兵ですよ?なのに門兵が頑なに入れてくれないんですよー!おかしいと思いません?」


「それはおかしいな。よし。城へ向かうぞ?」


「うん。分かった!メシウスはどうする?着いてくる?」


「あ!はい!着いていきます!」


「僕はいいって言ってないんだが……まあいいか。いざとなったら囮として使わせてもらおう。そうしよう。ぐへへへへへへ」


「ひぃぃぃ!ライネルさんがおぞましい笑い声で私を囮に使うって言ってる……冗談ですよね?」


「ふっふっふっ……その乳は囮に使える……」


3人になったライネル達は雑談を交わしながら城へと向かうのであった。

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