09 テスト

 そんなこんなでレインも合流しつつ、俺対サンドラの戦いの準備が着々と整えられていく。

 結局50本近く持ってきた中で次の選考に進めたのは3本のみとなった。


 普段使いの大剣と殆ど変わらないもの、それよりも太くゴツく鈍器に近い形状に膨らませたもの、そしてそれとは真逆に細くしなやかな刀身を持つ一部の流派の剣士が扱うという“太刀”に似たもの。


「なんていうか、間は無かったのかよ」

「サンドラさんの剣は良くも悪くも我流っすからね。微細な変化くらいじゃ良し悪しの判断はつかなさそうなんすよ」


 なるほど、極端に違う3本をチョイスした理由はここから更に絞り込みをかけるからのようだ。


「なのでここからは予定通り実戦形式で見ていければと。モノグ氏、腕の見せ所っすよ!」

「頑張れーモノグー」


 確かにその予定ではあったが、ここにはイレギュラー的に現れたレインがいるのだ。彼にやらせればいいのでは、と思うのだが、当のレインも、ベルも、そしてサンドラもその気は一切無いらしい。


「モノグ、いざ尋常に勝負……」

「うへぇ……すっげぇやる気に満ちてらぁ」


 その目はいつも通り眠たげだが、その奥には確かな光が灯っている。

 これはすんなり終わりそうにないな。


「さあ、モノグ氏も武器を構えるっすよ。色々と持ってきてるんすから」

「……じゃあ、片手剣かな」


 俺はそうぼやきつつ、【ポケット】から剣を一振り取り出す。

 サンドラのものよりも遥かに小さく、軽い。レインが2本振るっているのに対し、こちらは1本。

 そう考えるとか弱くショボく映るが、おそらく戦士の中で最も使われている武器がこいつだ。


 片手で持て、機動力としなやかさを売りとした武器。他のバリエーションと比較して、片手剣なんて後から分類されたが、コイツこそがあらゆる剣の基礎となっている。

 本来、空いたもう片方の手で盾を握り、攻撃と防御を両立させるというのが基本ではあるが、今回はあえて持たないことにする。


「なんだかちぐはぐに見えるね。モノグが小さい剣を使って、サンドラが大きな剣を使ってるのって」

「うっさい。俺のが適正なサイズなの」

「…………」


 レインと俺の会話を聞きながら、じっと俺を観察していたサンドラは、地面に並べた剣の内、普段から使っている大剣を拾い上げる。


「まずはウォーミングアップ」

「ああ、そいつは助かる。俺も随分ブランクあるしなぁ」

「ていうのは嘘」


 サンドラは真剣な目つきで俺をキッと見据えてくる。

 凄まじく真剣だ。殺気すら感じさせるほどに。


「むぅ……?」

「へぇ……」


 それが予想外だったのか首を傾げるベルと、楽し気に頬を緩めるレイン。

 俺はどちらかというとベルと同じだ。

 たかだか武器のテスト……そうは思えない、まるで命のやり取りを始めるかのような緊張感が伝わってくる。


「……」


 これはただのテストなんて言ってられなそうだ。

 互いに刃を潰した鈍らを使ってはいるが、だからといって殺傷性が完全に削ぎ落されているかといえば、そんなことはない。

 サンドラの大剣を易々と振るう怪力と大剣そのものの質量。それらをまともに喰らえば、切断されることはなくとも肉は潰れ、骨は砕ける。

 一撃必殺。強靭なパワーファイターが持つ力は、刃を潰された程度で奪われるほど安くはない。


「サンドラさん、アーツの使用は禁止っすからね! モノグ氏は一応魔物じゃないので」

「一応て」

「モノグ氏も支援魔術は禁止っすよ」

「ああ、分かってるよ」


 そんなことをしても意味はない。敵に塩を送るだけ……って、サンドラは敵ではないけれど。


(相手は魔物じゃない、か)


 サンドラにとってブレーキになっても、俺にとってはどうだろう。

 元々、魔物には絶対に勝てない俺にとっては。


「いくよ、モノグ……」


 サンドラが腰を落とす。

 この言葉は勝負開始の合図代わりのものだろう。


 サンドラは深く息を吐き、強く地面を蹴り出した。

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